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今日は久しぶりの2人揃っての休日だった。 しかし、外は猛吹雪でとてもじゃないが外出はできそうにない。すると、マイクロトフがマチルダの冬の料理を作るか、と言い出し、カミューにごちそうしてくれることになったのだ。 久しぶりに作るから美味いかはわからんぞ、と前置きして始まった料理だったが、なかなかどうして、材料を切る包丁の音は軽快だった。 カミューは幸せいっぱいにマイクロトフを見つめていた。マイクロトフが自分のために料理を作ってくれている。これ以上の幸せがあるだろうか。 ここはカミューが数年前に借りた借家で、もちろん他には誰もいない。一軒家に2人きりで、恋人が料理を作ってくれるなど、まるで新婚のようだ。 そう思うだけで頬が緩むのを抑えられない。 「……カミュー」 ふと、マイクロトフが手を止め、名を呼んだ。 「ん? なんだい? 何か手伝おうか?」 カミューは蕩けそうな笑みを浮かべ返事をする。 「いや、それはいいんだが……」 すると、マイクロトフはなぜか困ったように眉を寄せて言葉を濁したかと思うと、黙って再び人参を切りはじめた。カミューはそんなマイクロトフの態度を少々不思議に思ったが、何も言わないのだから、と再びマイクロトフの包丁さばきを見学する。その切り口に思わず目を細めた。 「料理までおまえらしいね」 「……何がだ?」 聞き返すマイクロトフにカミューは、ふふ、と笑う。 「人参の大きさが見事に揃ってる」 普段は両手剣の中でも重量級に入るダンスニーを握り、思う様に操る力強い腕が、今日は何分の一か、という大きさの包丁に持ち替え、小さな野菜を切っている。しかし、その姿も似合っていると思ってしまうのだから、不思議なものだ。 「そんなことない」 マイクロトフが少し赤くなって言うと、 「いや、几帳面なおまえらしいよ」 とカミューは更に笑う。多少不恰好な形もあるが、充分揃っていた。 「ダンスニーで切っても同じくらいきれいに切れそうだよね」 「……それは剣の使い道ではないだろう」 マイクロトフの、不謹慎な、というふうにたしなめる口調にカミューは、固いなぁ、と笑う。今日は休日なのだからこんな冗談もいいではないか、と思う反面、その真面目さが愛しいのだから、カミューにはつける薬がなかった。 上機嫌に笑っていたカミューだったが、 「……少し離れろ」 マイクロトフの冷たい言葉に金鎚で頭を殴られたようなショックを受ける。 「ええー? 見てていいって言ったじゃないか!」 「こんな近くで穴があきそうなほど見られていたら気が散って仕方ないだろう!!」 確かに、料理を始める時に見てていいかと聞かれ、頷いたのはマイクロトフだった。しかし、それは料理法を見たいのだろうと思って了承したのである。ところが、カミューは背後から肩越しに頬が触れんばかりの至近距離で覗き込んできたのだ。 さっき、注意しようとしたがあまりにも幸せそうにしているため一度は思い留まったものの、やはり我慢も限界である。背後から抱きしめられているようで落ち着かない。 「いいじゃんー。幸せに浸っていたのにー」 カミューが口をとがらせて抗議すると、弱いところを突かれたマイクロトフは、ぐっと言葉に詰まった。しかし、思い直したように言い返す。 「だが、刃物を持っているのだから危ないだろう」 明らかにトーンダウンしたマイクロトフに、カミューはしめしめ、と思った。これは本気で怒っていない証拠。このまま押したらいけるかもしれない。 「マイクロトフは腕がいいから大丈夫だよ」 こんなことをしてもね、と甘えるように言いながらカミューはマイクロトフの腰に手を回し、すりすり、と広い背中に頬ずりする。よく鍛えられた背中はごつくて硬かったが、カミューにとってはこれ以上ない、最高の肌触りだった。 「ほら。新婚さんみたーい」 いつもなら即、「いつ、誰が入ってくるかわからんだろー!」と、肘鉄が飛んできそうなものだったが、今日はカミューの家。その手が使えないマイクロトフは困ったように沈黙するだけだった。 沈黙したってことは……お許しが出た? カミューはにんまり笑う。 今日は執務中でもなければ城内にある私室でもないのだから人目を気にする必要はまったくない。いや、カミューは普段からまったく気にしていなかったが、マイクロトフのことだ。 カミューはもう片方の手をマイクロトフの尻に伸ばし、さわさわと撫でながら、「料理よりおまえが食べたい」なんてその気になって囁いてみる。すると、恥らう姿が見られると思いきや、凍るような低音が返ってきた。 「……ダンスニーを持ってこい」 「へ?」 「野菜を切るからダンスニーを持ってこいと言ったんだ!」 振り返ったその顔は、昔、露店でみた異国の『般若』というお面の顔によく似ていた。 「ちょっ、りょ、料理に使うもんじゃないって言ったじゃないか!」 「おまえがやってみろと言ったんだろう! お望みどおり切ってやるからおまえは玉葱を持っていろ!!」 誰も、やってみろ、とは一言も言っていない。だが、それが通じる状態ではなかった。カミューは必死に首を振る。 「た、玉葱は涙が出るから嫌だ!」 「じゃあニンニクだ!」 「そんな小さいもの、ダンスニーで切れるのか?!」 青ざめるカミューにマイクロトフは、にやり、と笑った。 「……大丈夫だ。俺は腕がいいからな」 オマエ ヲ キル マイクロトフの目は雄弁に語っている。カミューの全身に嫌な汗が吹き出た。 「わわわ悪かった。ちょっと調子に乗りすぎたよ。反省してます……」 包丁片手に笑うマイクロトフにカミューは後ずさりながら謝るしか道はなかった。ひたすら低頭に謝り続けるカミューにマイクロトフは真顔でひとつ頷く。 「まあ、冗談だ。大事な剣をそんなことに使えるか」 「そ、そうだよね」 ほっと息を吐いたのも束の間。 「だからおまえのユーライアを貸せ」 「ええええ?!!」 無情に突き出された手にカミューは絶叫した。 次の日 「団長……何かこの部屋、臭くないですか? なんか葱のような……」 赤騎士団の副団長に首を傾げられてもカミューは沈黙するしかなかった。 まさか原因が壁際に立てかけてある愛剣だとは口が裂けても言えない……。 おしまい |