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夜もそろそろ更けようという時間。 恋人たちは甘い夜を迎える……はずだった。 カミューはマイクロトフの頬に、瞼に、額に、唇に、次々とキスの雨を降らしていく。それはとても心地よく、マイクロトフはいつも熱に浮かされたように酔っていく……。 しかし今日のマイクロトフは、昼間考え抜いた結果をカミューに伝えなくてはいけなかった。流されそうになる自分を叱咤しながら、頬に添えられた手を上からぎゅっと握る。カミューはマイクロトフの突然の行動にちょっと驚いて動きを止めた。 「マイク?」 「カミュー……頼みがあるんだ」 目元をほんのり桜色に染めて自分を見返すマイクロトフに、カミューは艶を感じずにはいられない。すぐにでも押し倒してしまいたいけど。そうなったら自分は歯止めがきかなくなってしまうから、マイクロトフの話を聞くどころではなくなる。自制がきく今のうちに言いたいことは聞いてやりたかった。 「なんだい? マイク……」 優しく問うとマイクロトフは少し目をそらしてちょっとためらってるふうだった。 また、明日の朝は早いから手加減してくれ、とか言うのかな? ときどき言われるかわいい懇願。その恥じらうような態度が自分を余計に煽っていることを知ってるのだろうか……。 マイクロトフはようやく顔を上げると、カミューの目を真っ直ぐ見て口を開いた。 「俺と……別れてほしい……」 カミューの表情が凍りついた。 オレト……ワカレテ……ホシイ……? 言葉の意味を頭が理解するのにおそろしいほどの時間がかかった。 奈落の底に突き落とされたような恐怖感が全身を襲う。心臓が早鐘を打ち、頭ががんがんする。呼吸がうまくできなくて苦しい……。 「それは……俺のことを嫌いになった……ってこと?」 声が、頬に触れる手が、震える。マイクロトフはゆっくり首を横に振った。 「じゃあ……他に好きな人が……できたの……?」 マイクロトフは再び弱々しく首を振る。それがきっかけでカミューの激情の箍が外れた。マイクロトフを力ずくで押し倒す。ベッドが軋んだ音を立てた。 「じゃあ、どうして別れたい、なんて言うの?」 おそろしいほど低い声に、マイクロトフは震えた。本気で怒っているときにしか出ない声。自分に向けられたのは初めてだった。 しかし、マイクロトフも悩みに悩んだ末の結論をカミューになんとかわかってもらいたかった。 マイクロトフはひとつ息を吸うと口を開いた。 「……こうやって……カミューに組み敷かれるたびに……」 少し赤面して口ごもるマイクロトフにカミューは、誇り高い彼が男に抱かれる、ということに我慢がならなくなったのか、と推測した。 「うん? 女みたいに受け入れさせられるのが屈辱? だったらマイクが俺を抱いてもいいよ」 カミューがそう言うと、マイクロトフは驚いたように目を見開いた。 「俺はね、マイクとひとつになれるならどちらでもいいから……」 手首を抑えていた両手を頬に持っていって包み込むと、そっと触れるだけのキスを落とす。そしてそのまま間近から瞳を覗き込んだ。真剣な琥珀色の瞳にぶつかって、マイクロトフの漆黒の瞳が潤みはじめる。 そんなにカミューが自分のことを想っていてくれたなんて思いもしなかったから。 「違う……。カミューに抱かれるのは嫌じゃ……ない……。 俺は……カミューに抱かれるたび……弱くなっていく自分が嫌なんだ……」 「え?」 「いまだって……泣きたくなんかないのに……」 そう言って腕で涙を拭おうとするマイクロトフの手をカミューはやんわりと掴んだ。「こすると跡がつくから……」と唇で涙を吸う。 「俺は……弱くなった。カミューに甘えてばかりで、すぐこうやって泣くようになった。死ぬのが怖くなった。カミューが傷つくのが怖くなった。……カミューに嫌われたら、と思うのが怖くなった……」 「マイク……」 「これ以上弱くなったら俺はカミューといられない。隣に立つのにふさわしくない。カミューに迷惑をかけてしまう……。 だから……少し距離をおいて、そのあいだに強くなって……自分に自信が持てるようになったときに、許してもらえるならカミューのそばに……」 戻りたかった……と新たな涙を流してつぶやくマイクロトフに、カミューは思わずぎゅっと抱きしめた。愛しくて、愛しくてたまらない。 「マイク……マイク……。それを言うなら俺も弱くなったよ……。マイクがいなくなったりしたら気が狂ってしまう……」 「カミュー……」 「お願いだからそばにいて。俺のこと、もう顔もみたくない、ってぐらい嫌いになるまでそばにいてほしい……」 ぽたり、とマイクロトフの頬に暖かいものが落ちた。マイクロトフは少し目を見開く。数えるほどしか見たことのないカミューの泣き顔……。マイクロトフはそっと腕を伸ばしてカミューの涙を拭ってやった。カミューはその手をとって壊れ物に触れるように優しく口づける。 「俺は弱くなったかもしれない。でも、マイクがいるとなんでもできる、と思っている自分もいる」 カミューがそう言って微笑むと、マイクロトフもちょっと笑った。 「……俺も……そう、かもしれない……」 「それってあるイミ、天下無敵だと思わない?」とカミューは笑うと、ゆっくりマイクロトフに口づけた。受け入れるように目を閉じたマイクロトフの腕がカミューの首に巻きついてそっと引き寄せる。そして、そのままお互いの体温を確かめ合うようにしっかりと抱き合った……。 「それにしても、ね……」 カミューがゆっくりとマイクロトフの髪を撫でながらつぶやくと、気持ちよさげに目を閉じていたマイクロトフがそっと顔を上げた。 「なんだ?」 無垢な子供のような瞳を向けられて、カミューはかわいさのあまり、額にキスをひとつ落とす。 「マイクロトフの『頼み』っていうのが、まさかあんなこととは思わなかったな……」 カミューの言葉にばつが悪そうに顔を伏せるマイクロトフ。カミューはくすっと笑うとマイクロトフの顎に手をかけて自分のほうを向かせると、ちゅ、と唇に軽くキスを落とした。 「いいんだよ……。それだけマイクが俺とのことを真剣に考えてくれたってことなんだから。 でも、俺はてっきり……」 言いかけて、ふふ、と笑うカミューにマイクロトフは少し赤面して先を促した。 「てっきり……なんだ?」 「明日は早いから手加減して、とか言うんだと思った」 カミューがにやり、とからかうような笑みを浮かべるとマイクロトフは瞬時に真っ赤になった。 「っっ!! 何回言っても聞き入れたことがないじゃないか!」 「返事はするんだけどね〜」 「自分で言うな!」 真っ赤になって怒鳴るマイクロトフにカミューはくすくす笑う。 「だってさ、こう……潤んだ瞳でみつめられて『頼むから……』とか言われちゃうと抑えがきかなくなっちゃうんだよね」 「っっ!!! こ、このケダモノ!!!」 「そう♪ 俺はケダモノだよん。だから、ね?」 さわさわと。意志を持って動きだした手にマイクロトフはぎょっとする。 「ちょっ、ま、待て!! おっ、おまえ、何回する気だ?!!」 「何回でも♪ ケダモノだから。 ね、逆になろうか。そうすればいままでの倍できるんじゃない?」 「できるかっっ!!!!」 じたばたと、むだなあがきをする身体を軽々押さえつけて、カミューはそっと耳元に囁いた。 「普段のマイクのわがままはかわいいけどね。今回みたいな心臓に悪いのはもうごめんだよ……」 おわり |