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「あ、カミューさん、マイクロトフさーん」 呼び止められて2人が振り返ると、そこにはナナミが立っていた。カミューが人当たりのいい笑みを浮かべる。 「何用ですか?」 「あのね、お2人は甘いものは平気ですか?」 「甘いもの……ですか?」 ナナミの問いに2人は首を傾げたが、カミューの方はすぐピンときたようである。 「申し訳ありませんが、2人ともあまり得意ではないのでお気持ちだけありがたくいただいておきます」 「そっかー。残念だね。でも、今度甘くないクッキーを作るから」 甘くないクッキーとはなんぞや、とマイクロトフは思ったが、話の流れがわからないため口を挟めない。カミューはにっこりと見惚れるような笑みを浮かべた。 「ええ。楽しみにしてます」 「うん。それじゃあねー」 ナナミはひらひらと手を振って元気良く駆けていった。それを見送っていたマイクロトフは姿が見えなくなるとカミューを見る。 「甘くないクッキーってどんなのだ?」 「さあ。大方、砂糖の代わりに塩でも入れるつもりなんじゃないかな」 カミューの返答にマイクロトフは思わず想像してしまい、なんともいえない表情を浮かべた。カミューはそれを見て吹き出す。 「ナナミ殿の料理は獣の紋章以上の破壊力があるという、もっぱらの噂だよ」 「なっ……! お、おまえ、さっき楽しみにしてるなどと言ったではないか!」 「そのときはそのとき。なんとかするさ」 余裕たっぷりの返答にマイクロトフは女性がらみのことで自分が口を出す必要はないか、と深く息を吐く。 「それにしてもさっきのはなんだったんだ?」 「今の時期に甘いものといったら決まっているだろう?」 逆に問い返され、マイクロトフは首を捻った。カミューはその反応に苦笑いする。 「バレンタインだよ」 「あ……」 毎年、困り果てた顔で助けを求めにくるのに。カミューは相変わらずの鈍さに目を細める。 そうやってこの行事に鈍いのは。異性からプレゼントされるという、男なら誰しも悪い気がしないこの行事に興味がないということ。 「チョコレート、欲しい?」 甘いものは決して嫌いではないマイクロトフにカミューが問う。 「いや……その、後が大変だからな……」 マイクロトフがぼそぼそと応えるとカミューは悪戯っぽい笑みを浮かべた。 「本命がいるからいらない、とは言ってくれないの?」 「……バレンタインは女性からいただくものだろう」 じろ、とマイクロトフはカミューを睨みつけるが、カミューは笑みを崩さない。 「マイクが欲しいって言うなら喜んで用意させてもらうけど?」 「そして一ヶ月後には三倍返しとかいうんだろう?」 「あ。めずらしく鋭い」 「めずらしく、は余計だ! というか、おまえの場合、ワンパターンだろうが!」 「そ。行きつく先はおまえのところだもんね」 カミューは、ふふ、と笑うと、マイクロトフの腰を抱き寄せる。 「おまえですらわかりきっているくらい、おまえ一筋なんだなぁ」 しみじみと、だが、嬉しそうに言うカミューにマイクロトフは一瞬赤面したが、腰に回った手をつねり上げた。 「いたたっ」 「往来だ。馬鹿者」 「愛が痛いよ、マイク……」 カミューが拗ねたように言うが、マイクロトフはかまわずすたすたと先を歩く。仕方なくカミューもその後を追った。 「おまえの……」 「え?」 「おまえの愛とやらは形にしなくても充分すぎるくらいわかるからいらん」 マイクロトフは言い終わるとますます歩調を速める。カミューは茫然とその背中を見つめていたが、我に返ると破願して真っ赤な耳を追いかけた。 「……おまえは欲しいのか?」 「うーん、欲しい気もするけどチョコレートより甘いものを知っているからいいかな」 意味ありげに笑うカミューにマイクロトフは聞くんじゃなかった、と後悔した。 「……馬鹿者」 おわり |