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それは、いつもの朝だった。 マイクロトフはいつものように早朝訓練に出向き、共にマチルダを離反した青騎士たちや同盟軍の一般兵たちと共に汗を流した。そして訓練を終え、部屋に戻る途中、こんな時間にいるはずのない人物を見つけた。 「カミュー! めずらしいな。こんな時間に起きているなんて」 マイクロトフが驚きの声を上げると、いつもマイクロトフが起こしにいくまで惰眠を貪っているカミューは爽やかな足取りでマイクロトフに近づき、 「いや、おまえの身体が心配でね」 なにせ夕べは無理をさせてしまっただろう、と意味ありげな笑みを浮かべて囁いた。マイクロトフはとたん真っ赤になる。 「なっ、おっ、おまえがあまりにも加減をしらんから……っ!」 声を殺して小さく怒鳴るマイクロトフにカミューは、ふふ、と笑った。 「だっておまえがあんまり可愛いから……」 「可愛いって言うな!! 俺に向かってそんなことを言う物好きはおまえくらいなものだ!!」 大声を出したマイクロトフに周りは、そのとおりだ、と内心突っ込む。 このごつい男のどこが可愛いというんだ。凛々しいとか精悍だというならまだわかるのだが。なにより、こういう戯言は周りに聞こえないように耳元で囁くとかにしてほしい。 周りのそんな心の呟きなど知るはずもなく、カミューは艶やかに微笑んだ。 「そ。おまえが可愛いことを知っているのは俺だけで充分」 他に知ってる奴がいたら燃やしてやる、と物騒なことを考えていることは微塵もおくびに出さないところはさすがである。 「馬鹿」 呆れたように応えるマイクロトフの顔は熟れたトマトのように真っ赤で、周りは慌てて目を逸らせた。咄嗟に、見てはいけない、と本能が働きかけたのだ。 しかし、その本能が鈍っている者がいた。その男が茫然と赤くなったマイクロトフを見ていると、突如、背筋が凍るような凄まじい殺気が全身を駆け抜ける。しまった! と思ってももう遅い。恐る恐る視線をそちらに向けると赤い悪魔……もとい、赤い騎士服を纏った男がぎろり、と睨みつけていた。 「……フリックどの、そんなにマイクロトフを見ないでやってもらえますか?」 言葉はマイクロトフを庇っているが目は嫉妬、というかこんな可愛いマイクロトフを見るんじゃねぇ! という怒りを如実に表している。本能が鈍った、というより腐れ縁との旅で使い果たしたようなフリックは己の不運を嘆いたがそれで状況が好転するわけでもなかった。脳裏にオデッサの姿がちらつくのを感じながら、がくがくと首を振る。 「あ、ああ、すすす、すまない……」 蛇に睨まれた蛙のごとく動けなかったフリックはやっとの思いで視線を外すことに成功する。とたん、周りから一斉に安堵のため息が漏れた。 のどかな朝の風景だったはずの場は、もはや、負け戦とわかっていて戦場に出向く兵隊を見送るような悲壮感漂う場となってしまったのだが、当の張本人はどこ吹く風である。 「さあ、マイクロトフ、行こうか」 「行くってどこにだ?」 「とりあえずは俺たちの部屋かな」 カミューの答えに「?」と顔に書いたマイクロトフにカミューはそっと耳元で囁く。 「顔が真っ赤だよ」 「ばっ……! 誰のせいだと……!」 「俺のせいかな? でも、マイクにだって責任はあるんだよ。だから顔の火照りがとれるまで部屋に行こう。ね?」 カミューは老若男女問わず陥とせるような甘い甘い笑みを浮かべると、マイクロトフを促して歩き出した。マイクロトフはぶつぶつと小声で文句を言っていたが、腰に回された腕の存在には気付いていないようだった。慣れとは恐ろしい。 2人の姿が消えると、魂が抜けたように突っ立っていたフリックの肩を叩く者がいた。 「おめーもつくづく運の悪いヤツだよな」 それは今となってはすっかり腐れ縁となってしまった片割れ。同情するような口調に、てめーには言われたくねぇ、と思いつつ反論できないフリックであった。 そんな腐れ縁コンビの背後で城主がぽつりと呟く。 「あーあ。このぶんじゃあ、2人は今日お休みかな」 その発言を否定する勇者はこの場には1人もいなかった。そして、その予言は見事に的中するのである……。 おわり |