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「カミューが、好き、なんだ……」 情けなくも涙を流した状態で告白した俺をカミューは優しく抱きしめてくれた。男に告白されるなんて気持ち悪いだろうに、カミューはどこまでも優しかった……。 そのあと何がどうなったのかよく覚えてないが、気がつくと、カミューの部屋にきていた。 「何か飲む?」 「いや、いい……」 知らない家に上がりこんだような落ち着きのなさを持て余して、マイクロトフは上の空で応えた。カミューはくすり、と笑うと冷蔵庫から缶ビールを2本取り出す。こと、とテーブルに置いた。 「飲んで、少し落ち着いたほうがいいよ」 言葉にしなくても自分の様子が伝わってしまう気恥ずかしさに、マイクロトフは赤面した。カミューはそっと微笑むと向かいのソファに座り、ビールを開ける。ぷし、という小気味よい音にマイクロトフはハッとしたように顔を上げると、慌てて自分も缶を開けた。 しかし、どうしたらいいのかわからず、両手で缶を持ったまま再び視線を落としてしまう。 「なんか、彼氏の家に初めて遊びにきた高校生のようだね」 くすくす、とカミューが笑い声をたてると、マイクロトフはますます赤くなった。その様子にさらに笑いを誘われる。 「可愛いよ」 「なっ……!」 あまりにも自分に似つかわしくないからかい言葉にマイクロトフは顔を上げたが、微笑んでいるカミューの視線と真正面からぶつかってしまい、慌てて視線をそらす。 「そんなに固くならないで……」 カミューは緊張をほぐそうと手を伸ばしてマイクロトフの手に触れた。しかし、びくっと過剰に反応してしまったマイクロトフの手からビールが滑り落ちる。 「わ!」 「わ。だ、大丈夫?」 カミューが慌ててテーブルを周り込んでマイクロトフのほうにいくと、マイクロトフのズボンとソファがビール浸しになってしまっていた。 「す、すまないっ! ソファを……」 「そんなのどうでもいいけど、ズボン、大丈夫?」 見れば太もものあたりから濡れて色が変わっている。 「染みになる前に脱いだほうがいいよ。とりあえず代わりを出すから、向こうで脱いで」 と、カミューは浴室のほうを指差した。マイクロトフは粗相をしたような恥ずかしさに真っ赤になったまま、「すまない……」と小声で謝ると浴室に歩いていった。 カミューはその後ろ姿を見て苦笑いする。 あんまり可愛い姿を見せられると、手を出しづらくなるじゃないか……。 もちろん彼を部屋に連れてきたのにはそういう目的があった。 一目見た瞬間、魂を奪われた。すべてに惹かれた。 彼が欲しくて、あれこれ手を尽くした。純情な彼は自分の思惑にはまり、仕向けられたとも知らないで、自分への想いをようやく口にしてくれた。想いを履き違えていることに気付かれないうちに、一刻も早く彼を抱きたい。身体を繋いでしまえば、快楽を与えてやれば、それに気付くのが少しは遠のくだろうから。 「醜い言い訳だな……」 カミューは自分の部屋にタオルと着替えを取りに行きながら自嘲気味に笑った。 なにより。彼に触れたくて仕方ないだけなのだ。 「マイクロトフ、着替え、ここに置いておくけど、シャワー浴びたほうがいいんじゃない?」 カミューが脱衣所のドアのところで声をかけると、ドアの向こうから「しかし……」と逡巡する声が聞こえた。 「でも、足とかにビールの臭いがついてしまっただろう?」 さらに言いくるめるとしばしの沈黙のあとに「すまない……」と遠慮がちな声が聞こえて、浴室に続くドアが開く音がした。ほどなくシャワーの音が響きはじめる。 カミューはちょっと笑んで脱衣所に入ると、濡れた服を洗濯機の中に放り込んだ。洗剤を入れ、電源を入れる。普通ならアイロンでもあてて乾かすぐらいでいいのだろうが、帰す気などないのだから、これでいい。 とんだハプニングだったが、却って都合がよくなったな。 自分が用意した着替えは夜着。マイクロトフのほうが体格がいいから普通の服ではサイズが合わないだろう、というのは表向きの理由。魂胆は帰ることができないように、というわけだ。まさか、夜着のまま帰る、なんて言い出さないだろう。 洗濯機が回りだすとカミューは満足げに微笑んで脱衣所を出た。 ソファをざっと拭き、倒れたビールを片付けているとマイクロトフが遠慮がちに入ってきた。首に下げたタオルで髪を拭うしぐさがどこかあどけなくてカミューはちょっと笑う。 「やあ。充分暖まった?」 「なにからなにまですまない……。その、服まで……」 回っている洗濯機を見たのだろう。心底すまなそうなマイクロトフに、カミューは多少の罪悪感を感じながら、しかし顔には微塵もださないで微笑む。 「いいよ。気にしないで。それより、少し小さいかな?」 カミューはマイクロトフに歩み寄り、夜着の袖口を引っ張った。自分なら余裕のある作りだが、マイクロトフにはちょうどいいくらいの大きさだった。 「マイクロトフ、大きいものね」 見上げて微笑むとマイクロトフはちょっと赤面してまたも恐縮する。 「う……すまない……」 「さっきから謝ってばかりだね」 「すま……」 言いかけてマイクロトフはバツが悪そうに口を噤んだ。カミューは肩を震わせて笑いながら、ぽん、とマイクロトフの肩を叩く。 「俺としては謝られるようなことは何ひとつないんだけどね。 ほら。とりあえず座ろう」 「あ、ああ」 マイクロトフは促されるままにソファに座ろうとして、自分がさっきまで座っていたところが汚れたことを思い出す。どうしようかと逡巡していると、先に座ったカミューに腕を引かれた。隣に座れ、ということらしい。 「大の男二人が並んで座るにはちょっと狭いだろうけど、しょうがないよね」 と、カミューは微笑む。二人掛けのソファとはいえ、カミューもマイクロトフも成人男性としても長身の部類に余裕で入る。二人で座るとけっこう密着した状態になった。 しかし、こうなったのは自分の責任だから、とマイクロトフは少しでもカミューのスペースが広くなるよう、大きい身体をなるべく端に寄せようとする。カミューはくすくす笑って、 「そんなに気を使わなくていいよ。ほら、もっとこっちおいで」 と、腰に手を回した。 「っ!」 腰に触れたとたん、びくっと身をすくめるマイクロトフに、カミューは悪戯心を刺激される。 「なに? ここ、弱いの?」 さわさわ、と痴漢よろしく撫でてみると、 「カッ、カミュー!」 と、慌てる様子が可愛くてカミューはますます笑いを誘われた。 「あ、あんまりからかわないでくれ……」 少し泣きそうな、情けない顔をしてくるマイクロトフに、カミューはやりすぎたか、と苦笑いする。 「ごめん、ごめん。それよりこれなんだけど……」 と、テーブルの上に並べた琥珀色の液体と氷が入ったグラスを指すと、マイクロトフは動揺を静めようとその用意してくれたグラスを手にし、一気に呷った。 「え? あ、マイクロトフっ!」 カミューの慌てた声に何事か、と思ったマイクロトフは次の瞬間、ぐらり、と視界が揺れた。 「え?」 マイクロトフはわけがわからないまま後ろの肘掛のほうに倒れ込みそうになる。けっこういいはずの反射神経がまったく働かなかった。 「危ない!」 カミューは慌てて支えようとマイクロトフの腕を引っ張ったが、それでも重力に従って傾く身体を、引き止められなかった。咄嗟に頭を胸に抱き込むことでようやく止める。ほう、と大きな息をついた。 「な、なんら……?」 マイクロトフは、なんだ? と聞こうとしたのだが、呂律が回ってないことに、あれ? と首を傾げる。マイクロトフの頭を胸に抱き込んだままのカミューは苦笑した。 「大丈夫? ブランデー、何で割るのが好きかわからなかったから、とりあえず用意して待ってたんだけど……いきなり飲むからびっくりしちゃったよ」 「ぶらん、でー……?」 てっきりウーロン茶だと思っていたのだが、とんでもない勘違いだったらしい。 強いアルコールを一気に流し込んでしまった喉は焼けるように乾き、胸のあたりは熱い塊を飲み込んだかのように熱をもっている。思考は霞みがかかったかのようにおぼつかない。 マイクロトフは自分の迂闊さに泣きたくなってきた。カミューにみっともないところばかり見られている。軽蔑されるのでは、と思うと心底怖かった。 恐る恐る顔を上げると、驚くほど間近で琥珀色の瞳とぶつかる。 「カミュー……」 アルコールのためかかすかに潤ませた漆黒の瞳にカミューの鼓動が一気に速まった。密着した身体が熱い……。 「大丈夫?」 声は優しく問いかけながら、心は獲物を目の前にした空腹の獣のようだった。食らいつきたい衝動と食らいついてしまえ、という囁きが激しく理性を揺さぶる。 「あきれた……だろう……」 「なにが?」 少し脅えたような色を滲ます瞳に欲がますます煽られるのを感じながら、カミューはあくまでも優しい口調を崩さない。行動にでるまでは少しでも警戒させないために。 「カミューに……みっともないところばかり見られてる……」 「みっともないところなんて何一つないよ」 カミューは微笑むと、テーブルに手を伸ばしてグラスを取った。そして一気に呷る。焼けつくような液体が喉を通っていった。カッと身体全体に熱が走る。 それは最後の理性の壁を崩すためのもの。最後の背中押しをするためのもの。 「ほら。これでおあいこだろう?」 言いながらグラスをテーブルに戻した。そしてその手でマイクロトフの頬に触れる。氷で結露していたグラスを触った手はわずかに濡れていて、マイクロトフはぴくっと身じろいだ。冷たい感触に一瞬酒気が抜け、我に返る。いまの自分たちの体制に気付いた。 後ろに倒れそうになった自分を、カミューが抱きしめるようにして支えてくれた体制のまま。ソファに背中を預けた自分とそれに覆い被さる格好となったカミュー……。 「カ、カミュー……っ、その、どけて……くれないか?」 ずいぶん恥ずかしい格好になっていることに気付いたマイクロトフは顔を赤らめて、カミューを押しやろうとした。しかし、 「嫌だ……。離さない……」 熱っぽく囁かれてマイクロトフの心臓がどくん、と跳ねる。そのまま動けずにいるとカミューの端正な顔が近づいてきた。そして、唇に柔らかい感触……。 マイクロトフは思いもしなかった展開に頭が真っ白になった。 自分はカミューが好きだ。だが、カミューは自分の気持ちを受け入れてくれただけで……。 そんなマイクロトフの心境を悟ったのか、カミューはわずかに揶揄するように、しかし、息を飲むほど艶然と微笑む。 「離さないから」 最後の理性を投げ捨てた瞬間だった。 もう、俺のものだから……。絶対に離さない。 マイクロトフはぼんやりと目の前で寝息を立てている男を眺めていた。 亜麻色の髪は少し乱れ、幾筋か汗で額にはりついている。髪と同じ色の睫毛は完全に伏せられていて、開く気配がない。唇はわずかに開き、規則正しく呼吸を繰り返す……。 マイクロトフは寝姿にすら魅了されてる自分に気付き、そっと苦笑を零した。 いつも涼しげな見た目からは想像もできないほど激しい熱だった。あっというまに追い詰められて、追い上げられて……。受け入れる苦痛を苦痛と認識する間もなかった。絶え間なく与えられる快楽に溺れ、どれほどの痴態をさらしたかわからない。いつのまにベッドに移動したのかも、いつ意識を飛ばしたのかも覚えてなかった。それほどに我を忘れていた……。 マイクロトフは深いため息をついた。カミューがどうしてこんなことをしたのかわからなかった。 溜まっていたのだろうか……。 男の自分を捌け口にするほどに。最近、忙しいようだったから、こういうことをしばらくしていなかったのかもしれない。……もし、そうなら都合のいい代用品だったのだろう。 それとも。 同情、されたのだろうか……。 男に心を奪われた愚かな自分に同情して、成就させてくれたのだろうか。男同士でこういうことなど想像したこともなかったが、無意識に浅ましい望みが顔に出ていたのかもしれない……。 どちらでもいい、とマイクロトフは思った。彼の捌け口にしろ同情にしろ、それにすがるしかないのだから……。 「何を、泣いてるの?」 「え?」 マイクロトフはその声に、ようやく自分が泣いていることに気がついた。顔を上げるといつのまにか開いていた琥珀色の瞳が、マイクロトフの瞳を捉えている。 「身体がつらいの?」 優しい問いかけにマイクロトフは力なく首を振った。すると、かすかに形のいい眉をひそめる。 「俺に抱かれたこと、後悔してるの?」 マイクロトフはもう一度首を振った。カミューはちょっと困ったように笑うと指でマイクロトフの涙を優しく拭う。 「じゃあ、どうして泣いてるの?」 どこまでも優しい口調にマイクロトフは自分が情けなくなってくる。どこまでみっともない姿をさらせば気がすむのか。 言葉もなく涙を流し続けるマイクロトフに、カミューはひょっとして自分の正体がばれたのかもしれない、と自嘲の笑みを浮かべた。さっきまでの自分は欲に溺れた浅ましいケダモノ以外の何者でもなかった。 「俺のこと、軽蔑した?」 カミューの言葉にマイクロトフは目を見開く。そして、そのまま緩く首を振った。 「軽蔑されるのは俺のほうだ……。俺はあまりにも汚い……」 「汚い? どうして?」 「カミューの優しさにつけこんでいる……。俺は最低だ……」 苦しそうに心情を吐露するマイクロトフに、今度はカミューが目を見開いた。血の気が失せるほど唇をきつく噛んでいるマイクロトフを見つめ、彼の言葉といままでの経緯を頭の中で整理してようやく事態を把握する。 まいった……。 カミューは白旗を上げた。ここまでマイクロトフを卑屈にさせているのは自分のせいだった。マイクロトフを陥れ、自分への想いを恋と錯覚させ、いかにも自分がそれを受け入れてやった、という態度を取ってきた。それは、少しでも長く自分を気にかけてほしかったから。受け入れてもらった、と思えば相手の気を引こうと、いろいろ手を尽くすだろうから。あまりにも利己的な策略。 しかし、それはマイクロトフをがんじがらめに縛りつけてしまった。これが自分の望んだかたちだったのか……? 苦い笑いがこみあげてきた。自分の様子をどうとったのか、マイクロトフがかすかに脅えを含んだ瞳で見つめている。 少しだけ白状しよう。元の快活な姿を見せてくれるように。 「そういえば言い忘れたことがあった」 「え?」 「俺も、ずっと前からマイクロトフが好き、だったんだ」 「嘘だ……」 マイクロトフが信じられない、というふうに首を振る。思ったとおりの反応に、カミューは目を細めてマイクロトフの鼻を指で突ついた。 「嘘じゃないよ。だいいち、なんとも思っていない男相手にその気になって抱けると思うかい?」 カミューのあからさまな言葉にマイクロトフは赤くなる。カミューはその頬に軽く口付けた。 「おまえのほうから想いを打ち明けられて、あんまり嬉しくてつい夢中になってしまって……、肝心なことを言ってなかったね。ごめん。不安にさせただろう?」 カミューは優しく微笑んで漆黒の瞳を覗き込む。その視線から逃れるように伏せられていた瞳が、やがて恥ずかしそうに見つめ返してきた。 「本当、なのか……?」 「うん。ずっと黙っていてごめん。拒まれるのが怖くて言えなかった。俺に勇気がなかったせいでおまえに苦しい思いをさせてしまったね」 額に口付けられて、マイクロトフは嬉しくてまたも泣きそうになった。しかし、それをこらえてカミューを睨みつける。 「ずるいぞ。何でもそつなくこなすくせに、こういうときだけ……」 恨みがましい口調は本気で怒ってないせいか、どこか可愛らしくて、カミューはにやっと笑った。 「男は恋をすると不器用になるものさ」 「なんだそれは」 吹き出すように笑ったマイクロトフに、カミューは、ああ、と内心安堵する。ようやく屈託のない笑みを見せてくれた。そして、安堵すると同時に沸き起こる新たな欲……。 「マイクロトフ」 ん? と顔を上げたマイクロトフにカミューは口付けた。歯列を何度かくすぐり、開かせると、口腔をまさぐる。ためらいがちに触れてきた舌を絡め取り、きつく吸った。 「…………んっ……」 しばらく夢中で貪っていると、息が苦しくなってきたのか、マイクロトフの拳がカミューの胸を叩いてくる。カミューはそっと唇を解放した。とたん、はあ、と苦しそうに息をつく姿に、カミューは未練がましく濡れた唇をぺろり、と舐めた。そのまま唇を首筋へとずらしながら、手はわき腹を撫で上げる。びくん、と身体が跳ねた。 「なに、する……」 「もう一回しよう?」 「なっ……、さ、さっきしたろ……」 狼狽しているマイクロトフにカミューはにっこりと笑う。 「さっきはマイクロトフの分。今度は俺の分。ね?」 「ね、って無理だって……!」 「大丈夫だよ」 言葉と共にやんわりと中心を握られてマイクロトフは顎をのけぞらせた。さっき、嫌というほど与えられた刺激はいままで免疫がほとんどなかった分、白い紙にインクをぶちまけたように浸透してしまった。ゆるゆると扱かれてすぐに反応していくのがわかる。 自分の身体の変調に、かあ、っと赤面したマイクロトフにカミューは艶やかに微笑み、鎖骨を舌で辿った。 「っ……!」 頭の奥が痺れそうな熱い感触に、先程の痴態を思い出したマイクロトフは慌ててカミューの頭を押しやる。 「マイクロトフ?」 胸元から聞こえるカミューの怪訝そうな、少し不機嫌そうな声に、マイクロトフは顔を赤らめたまま、訴えるように見つめた。カミューが視線だけ上げると、その眉は少し泣きそうに寄っていて、カミューは何事かと顔を上げる。 「どうしたの? そんなに嫌?」 「う……。さ、さっきみたいなみっともないところを見られるのは……嫌だ……」 「みっともないところ?」 カミューはわけがわからず首を傾げた。マイクロトフは悟ってくれ、という願いを込めた視線を送っていたが、気付いてもらえず、やむなく恥の上塗りを覚悟する。 「あんな……、欲にまみれて……浅ましい……」 あとは口の中でもごもごと言い募っていたがよくは聞き取れなかった。しかし、カミューには言いたいことがようやくわかった。思わず苦笑が浮かぶ。 「俺のほうがみっともなかったと思うけどね。マイクロトフに気持ちも伝えるのも忘れてがっついてばかりいたんだから」 それに、とカミューはマイクロトフの瞳を間近に覗き込む。 「正直言うとすごくそそられた。痛かっただろうに健気に耐えてくれた姿とか、俺の愛撫に素直に反応してくれる姿とか、涙が滲んだ瞳で……」 「も、もういい!」 マイクロトフはこれ以上はないというほど真っ赤になってカミューの口を塞いだ。カミューはふざけてそのてのひらをぺろり、と舐める。ひゃっ、と奇声を上げて引こうとする手を掴まえて指を口に含んだ。指に温かく優しく絡んでくる舌の動きに、先程自分の中心にされた愛撫を思い出したマイクロトフはさらに慌てて、半ば強引に指を引き抜く。 「カッ、カミュー……!」 「ね、もっと欲しいよ。ずっと欲しかったんだ……足りないよ」 哀願するように、誘惑するように真っ直ぐ瞳を覗き込んでくるカミューを、マイクロトフが拒めるはずがなかった。恥ずかしいながらも、求められて嬉しいと思っている自分がいるのだから。 じっと見つめあっていると、カミューはマイクロトフの思考を読んだかのように唇を寄せてきた。触れる寸前、マイクロトフは自分から顔を上げて唇を重ねる。舌を絡め合っているとカミューの手が身体をまさぐりはじめた。首筋から胸元に身体のラインをなぞるように指が滑っていく。ところどころ少し強く撫で上げられる箇所はすでに見つけられた弱い箇所。マイクロトフは跳ねそうになる身体を必死に抑えつつ、カミューがかなり手慣れているのを感じずにはいられない。自分の身体のどこが弱いのか、なんて知るはずもなかったのに、カミューは巧みに暴いていく。 でも、過去を詮索するのは愚かなことだ。俺たちは始まったばかりなのだから……。 マイクロトフは少し強引に自分に言い聞かせる。 男の身体にいつまで興味を示すのかはわからない。けれど、少なくても今だけは自分に夢中になってくれているのだから、それを幸運と思わなければ……。 「何を考えているの?」 カミューの声に思考は中断された。マイクロトフはカミューが一瞬どこにいるのかわからず、視線で探すと自分のへそのあたりからこちらを見てるカミューと目が合った。その瞳に多少の苛つきが浮かんでいるのを見て取って、マイクロトフは、怒らせたのか? と、内心どきっとする。 「俺って、そんなにヘタ?」 拗ねたような響きにマイクロトフはきょとん、と見つめ返した。 「えっ?」 「集中できないくらいヘタかな?」 カミューの言葉がこの行為を指しているのだ、と理解するとマイクロトフは真っ赤になった。 「い、いやっ、そんなことはない……!」 うますぎる、とはさすがに言えなくてマイクロトフは言葉を濁す。 「そうなの? なんか、俺だけが余裕ないみたいで悔しいなぁ」 カミューはそう言うとへそのあたりをぺろり、と舐めた。不意打ちの刺激にマイクロトフの背中がのけぞり、わずかに声も漏れてしまう。 その顕著な反応にカミューは目を細めた。 「ね。もっと乱れてみせて。もっと俺に夢中になって……」 もっともっと俺に夢中になって……。俺の言葉を疑う隙間ができないほど。この恋が最初から仕組まれていた、なんて気付けないほど。 愛してる。 それだけは真実だから……。 次の日。 洗濯機の中から皺だらけになったスーツが発見され、マイクロトフは入社して初めての有給を取った。 おわり |