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はじめから変だとは思っていたんだ……。 カミューは目の前に立つ男を睨みつけながらじりじりと後退した。男は卑しい笑いを浮かべたままその分距離を詰めてくる。 「おとなしくしたほうが身のためだぜ? すぐいい思いさせてやるからよ」 「あいにく、そういう趣味は持ち合わせていませんので」 カミューが能面のような無表情で答えると、男は下卑た笑い声を上げた。 ああ、もう! 耳障りな! 本当だったら今頃マイクの可愛い声を聞いていたはずなのに! カミューは内心舌打ちしながらさらに後退する。とん、と背中に固いものがあたった。壁際まで下がってしまったらしい。 「涼しい顔しやがって。 その顔で男だけの騎士団にいてなんにもなかったわけがないだろう? だいたい、その若さで部隊長に就いているのだって、おおかた上官に取り入ったんだろうが」 男は壁際に背中をついてしまったカミューを追い詰めたと思い、ゆっくり近づいて手を伸ばす。黙って睨みつけるカミューを観念したと思い、嗜虐的な笑みを浮かべた。 「さあ、おとなしくしてな。ゆっくりかわいがってやるからよ、別嬪さん」 カミューの服に手を伸ばした男には「下司が……」というつぶやきは聞こえなかった……。 「じゃあ、あとはよろしく頼むよ」 「ああ。……それにしても、まだこういうことをする輩がいたとはなぁ……」 この夜、警備を担当していた赤騎士は足元に転がる男を見下ろした。……多少同情が含まれているのは気のせいではあるまい。 「しょうがないさ。奴は2週間前に赴任してきたばかりだったからな」 カミューは軽く肩をすくめる。赤騎士はカミューを見、にやっとからかうような笑みを浮かべた。 「それにしても随分いい格好だな」 カミューは胸元まで破かれたシャツを軽くつまむと顔を顰める。 「しょうがないだろ。ある程度までやらせないと正当防衛は成り立たないんだから。じゃあ、証人はおまえってことで、よろしくな」 「もてる男はつらいねぇ」 「しょうがないさ。この美貌なんだから」 「はいはい。お疲れさん」 赤騎士のねぎらいともつかない言葉に片手を軽く上げ、カミューは宿舎の方に戻っていった。赤騎士はその後ろ姿が見えなくなると足元で完全に意識を無くしている男にそっとつぶやく。 「命知らずだなぁ……」 カミューは自分の部屋に続く廊下を歩いていた。多少、足音が荒いのはいたしかたないだろう。 昔からこの手の事はなかったわけではない。端正な顔つきにがっちりとはいえない体つき。その手の趣味の輩には目をつけられることは何度かあった。 さすがに今ではロックアクス城内でそんな命知らずはいない。しかし、たまに遠方から赴任してきた者や、こちらが遠征に出かけた先ではカミューの実力(恐ろしさ)を知らないため、手を出そうとする不貞の輩がいた。 あー、気持ち悪い。こういうときはマイク(の身体)に慰めてもらうのが一番〜。 カミューは気を取り直して愛しい恋人の顔を思い出した。早く部屋に戻って着替えてから訪ねようと足を速めていたのだが、ピタッと足を止めると、顎に手をあててしばし考え込む。そして思考がまとまると顔を上げた。 よし。この手でいこう! カミューは不適な笑顔を浮かべると、自分の首筋に手を滑らせた。 コンコン 少し遠慮がちなノックの音に、マイクロトフは本から顔を上げた。本を読むのは就寝前の習慣だったが、最近では彼が部屋に来るまでの時間繋ぎになってるふうである。マイクロトフは速くなった鼓動を深呼吸で宥め、何気なさを装ってドアを開けた。 すると、 「マイクっ」 声と共に、どんっ、と体当たりするようにカミューが抱きついてきた。マイクロトフは少しよろけながらも受け止める。 「カ、カミュー……?」 いきなりの行動にマイクロトフは目を白黒させるが、カミューは「マイク、マイクっ」と名前を繰り返し呼んでぎゅうっと抱きついてきた。マイクロトフは引き剥がそうとして、その身体がわずかに震えているのに気づく。 「カミュー……?」 呼びかけても返事はない。マイクロトフは、何があったのか、とおたおたしたが、少し冷静になると、そっとカミューを抱き寄せながら後ろに下がり、片手を伸ばしてドアを閉めた。そして、かすかに震えたまま動かないカミューの亜麻色の髪に手を滑らせ、優しく撫でつける。カミューが落ち着いてくれないと状況もわからない。カミューの震えがおさまるまで髪を撫で続けた。 あのカミューがここまで取り乱すなんて……、なにがあったんだろう……? マイクロトフはいつにない親友の姿に内心動揺しながらも、自分が支えてやらなければ、と不安が表に出ないよう、自分に言い聞かせる。 一方、カミューは。 んー、マイクの風呂上りの石鹸の香り、たまらないなぁ…… と、マイクロトフの胸の中でうっとりしていたりする……。 それにしても、いつまでもこのままでいるわけにはいかないし……っていうか、俺もそろそろ限界なんだけど。 次の作戦、GOだ! とカミューはマイクロトフの胸からそっと離れて小さく息をついた。 「ごめん……」 ぽつん、とつぶやくとマイクロトフが髪を撫でていた手を止める。カミューは気弱な笑みを浮かべて顔を上げた。マイクロトフが心配そうな顔をしてカミューを見つめながら口を開く。 「カミュー……、どうしたんだ? 何があった?」 ああ、この顔そそられるなぁ……。 カミューはにやけそうになる顔を見られないようにうつむき、胸元が見えるようにさりげなく身体を引く。先程、暴漢に破かれたシャツをさらに自分で引き裂いておいた。 「っ、カミュー……!」 息を飲むマイクロトフ。その視線が、先程指で強く押したり引っ掻いたりして鬱血しているようにみせかけた痕がある首筋に向けられているのを確認して、カミューは力なくマイクロトフから離れようとした。 「すまない……、マイク……」 「カミュー!」 マイクロトフは慌ててカミューを抱き止める。カミューのあられもない格好が何を意味するかは、さすがにマイクロトフにもわかった。 カミューは内心にやにやしながら弱々しく口を開く。 「離してくれ……。俺はマイクに触れてもらう資格がない……」 「な、何を言ってるんだ、カミュー……、そ、その、未遂だったんだろう?」 どう慰めていいものか、マイクロトフは混乱する。 「ああ……。しかし、こんな痕をつけられてしまった……!」 「カ、カミュー! お、俺は、その、気にしないぞ……。何日かすれば消え……」 「気にしないだって?! マイクだってめったにつけてくれないのに!」 がばっと顔を上げたカミューにマイクロトフは驚いたように目を見開く。しかし、カミューの琥珀色の瞳に傷ついたような色を見つけると、すっと表情を改めた。 「……わかった」 マイクロトフはそう言うと、身をかがめてカミューの首筋に唇を寄せる。カミューは顔は、しめしめ、と、笑っていながらも、声はかすかに震わせた。 「だめだ……、汚い……」 「汚くない。カミューに触れて汚れるわけがない」 マイクロトフはきっぱりと言いきると紅い痕に食らいついた。カミューは、嬉しいセリフに、甘い疼きに、うっとりとしながら満足げな笑みを浮かべる。 少しして、カミューの首筋から顔を上げたマイクロトフは恥ずかしそうにわずかに目線をずらした。頬にはかすかに朱が散っている。 「これで……、いいだろう?」 あああっ、なんて可愛い顔をするんだ、マイク。すぐ押し倒してしまいたくなるだろう! カミューは衝動をぐっとこらえ、自分の首筋に愛しげに指を滑らせる。あとで鏡で見てみよう……と、心の中は小躍りしていたが、あくまでも顔と口調は暗く沈んだままだ。 「マイク……、ありがとう……。でも、俺は……、男としての自信を失くしたよ……。あんな輩に目をつけられるなんて」 「カミュー……」 「俺は……そんなに男らしくないのかな……?」 「……そんなことはない」 マイクロトフは何と言って慰めればいいのかわからなかった。ただ、カミューが傷ついている姿が痛ましく、なんとかしてやりたいと思うのに、うまい言葉がみつからないのがもどかしい。 「マイクもこんな俺に抱かれるの、嫌だったろう……」 自嘲気味に笑って自分を卑下するような言い方をするカミューに、 「そ、そんなことはないっ」 と、思わず応えてからマイクロトフは真っ赤になった。 カミューは頬が緩みそうになるのを必死にこらえ、すがるような視線をマイクロトフに送る。 「ほんとに?」 「あ、いや、その……」 真っ赤になって口篭もるマイクロトフをカミューは悲しげに見つめた。 「やっぱり嫌なんだね……」 「そ、そうじゃない……っ」 慌てるマイクロトフがあまりにも可愛くてカミューはぎゅっと抱きしめた。喜色は表に出さないように、代わりにせつなげな色を浮かべて漆黒の瞳を覗き込む。 「本当に?」 「あ、ああ……」 ここでうやむやにするとカミューがまた傷つく、とマイクロトフは恥ずかしいのを必死にこらえて、琥珀色の瞳を見つめ返して頷いた。カミューは心の中でガッツポーズをしながらも、感極まる、といった泣きそうな笑顔を浮かべてマイクロトフの頬に頬をすり寄せる。 「ありがとう……マイク」 抱きしめている腕に力を込めると、おずおずといった感じにマイクロトフの腕もカミューの背中に回された。カミューはひっそりほくそえむ。そっと耳元に唇を寄せた。 「マイク……、俺に自信をくれる?」 「え?」 ぞくり、とするような低音で囁かれ、マイクロトフは身を震わせた。耳に触れてくる唇の熱さに何を言わんとしているかを悟る。 自信。男、としての自信、つまり……。 マイクロトフは自分の辿りついた結論にかあ、と身体が熱くなるのを感じた。 カミューはマイクロトフの耳がこれ以上ないというほど赤くなったのを見て、意味が通じたことを知る。順調、順調、と自分の計画どおりに事が運んでいることに満足しつつ、 ああ、もう。噛りつきたいほどおいしそうだなぁ……。 と、すぐにも舌を這わせたいのを必死にこらえ、マイクロトフの返事を待った。 一方、憐れなマイクロトフはカミューの芝居に気づくはずもなく。カミューの気が済むなら、と涙ぐましい自己犠牲精神で健気に頷いた。 すると、ほう、と熱い息が耳元にかかり、マイクロトフの背筋に電流が走る。それはカミューの安堵のため息のはずなのに、官能を感じてしまった自分に羞恥した。 相変わらず敏感な反応にカミューは、にやり、と笑う。もちろん計画的犯行だ。ダメ押しに、ちゅ、と耳にキスをした。 「マイク……、マイクロトフ……。愛しているよ……」 このセリフだけは本気で囁く。 いっただきまーす♪ 心の中は不埒な思いでいっぱいだったが……。 今夜のカミューの目標はキスマークをつけてもらうことと、甘いセリフを言わせること。すでに8割ほどは達成されていたようなものだった。 カミューはご満悦な気分でマイクロトフに口付けた。そっと舌を忍ばせると、いつもは強張る舌先がおずおずと応えてくる。それがまた嬉しくて、カミューは激しく貪った。そして、すっかり力の抜けた身体を静かにベッドに押し倒す。 「同じところに……痕つけて、いい?」 顔を上げてお伺いを立てると、マイクロトフは眉を寄せ逡巡したのち、頬を染めてこくりとかすかに頷いた。 カミューは歓喜しながら首筋に噛りつく。普段であれば「そんなところにつけたら見えるだろう!」と一喝されるような場所。舌で舐め上げ、きつく吸った。 「っ……!」 く、と息を飲む気配。ここも感じるところらしい。新たな発見に子供のようにわくわくしながら唇を下に滑らせた。指も腰のあたりをさまよわせる。 いつになく素直に愛撫を受ける姿がまた堪らなかった。 いつもならきつく閉じられたままのことが多い闇色の瞳が、ときおりカミューの表情を伺うように開かれる。それに微笑んで応えると、かすかに照れくさそうに、安堵したように目が細められた。普段は声を立てないように口を塞ぐ手も、今夜は請うと真っ赤になりながらも外してくれた。 ああ……、俺ってけっこう愛されてるのかなぁ……。 今夜は自分がしかけた作戦のせいで、マイクロトフが気遣っていてくれてるとわかっていても、つい、錯覚してしまいそうになる。 ほんの少しだけ罪悪感を感じつつも、指は、唇は、敏感なところを暴いていった。 「あっ……、や、……っ」 マイクロトフが初めて抵抗らしきものをしたのは自身を口に含まれたとき。この行為だけは何度されても慣れないらしい。しかし、この頃には官能の波に身を陥とし、すでに力の入る状態ではなかった。カミューの亜麻色の髪に指を絡ませ、足が力なく宙を蹴る。 カミューはそんな弱々しい抵抗にはかまわず、舌を絡ませ、歯を立てて刺激を与えた。ぐっと質量を増すそれに愛しさを覚えつつ、解放を促すために激しく頭を上下させ、さらなる快楽を与える。 「んっ……、カ、ミュ……っ、ぁ……、も、もうっ……」 限界を訴えてくるマイクロトフにカミューは咥えたまま上目遣いでマイクロトフを見た。快楽に潤んだ瞳と視線が合うと、マイクロトフの頬がさらに上気する。 いま、自分はすごくヤラしい顔をしてるんだろうな、と思いつつ、カミューは目を細め、見せつけるように抜き差ししてみせた。すると、マイクロトフは首筋まで真っ赤にして、ぷいっと顔を背けてしまう。 カミューは思ったとおりの反応に思わず喉の奥で笑うと、それすらも刺激になるのかマイクロトフの腰が揺れた。無意識の行動だったのだろうが、イかせてほしい、と請われてるようでカミューを興奮させる。わずかに口を離し、 「いいよ……イって」 と、熱っぽく囁いた。マイクロトフはいやいやをするように緩く首を振ったが、それが拒否ではないことを知っている。カミューは再び口に含むと最後の仕上げとばかりに強く吸った。 「っ……! あああっ……!」 背中をのけぞらせ、マイクロトフは達する。カミューは一滴残らず嚥下すると、荒い息をついているマイクロトフの唇を求めた。舌を絡めながら、激しく上下する胸を愛おしそうに撫でる。 マイクロトフは口付けに応えながら霞がかりそうな頭で必死に考えていた。 いつも受け入れる側の自分が『男』だと認識させられる瞬間……。 ならば、とマイクロトフは脱力感のため重く感じる手を下肢に伸ばす。 「マ、マイク?」 いきなり自身に触れてきたマイクロトフにぎょっとするカミュー。しかし、マイクロトフは何も言わず包み込んだ手をそっと動かしはじめた。とたん、カミューが息を呑む。 「っ……ぁ、マイ、ク……」 思わぬ行動に力が抜け、マイクロトフの胸にもたれるように倒れ込んだカミューを、マイクロトフは抱き込んでひっくり返し、上下逆になった。 「ちょっ……、マイク?!」 なんだ、この体勢は! と目を剥くカミューにマイクロトフはちょっと笑って人差し指を唇に押しあてる。 「少し黙っていろ」 そう言うとカミューの目の前から消え…… う、そ…… 自身を包み込む濡れた感触にカミューは茫然とした。いま、自分の身に起こっていることが信じられなかった。いままで自分がマイクロトフに何度となくしてきたこと。だが、彼からは一度もなかった行為……。 な、なな、なんで?!! 急に心臓がばくばくしてきた。冷静になろうとしてもうまくいかない。幾度も肌を重ねてきたのに、いつも自分が優位に立ってリードしてきたのに、それらは何の役にも立たなかった。 ためらいがちに、しかし、確実に動きはじめた舌に、カミューはあっというまに翻弄されはじめる。熱い吐息が唇をつく。 一方、マイクロトフは口に含んでみて、思ったより抵抗がなかったことにほっとした。昨日までの自分なら考えもしなかった行為。しかし、カミューからは毎回のように与えられた快楽。男なら……感じないはずがない。 受け入れる俺でも『男』だと実感できるこれなら、カミューも……。 マイクロトフはまだカミューの言ってた『男の自信』云々を信じていた。少しでも力になりたくて決死の覚悟で行動に出たのである。 カミューにいつも施されている愛撫を思い出し、なんとか真似を試みた。拙いながらも舌で舐め上げ、先端を突つき、甘噛みすると、口内で大きさと硬度が増す。 マイクロトフは少しの驚愕と大きな安堵を覚えた。初めてなのだからうまくもないだろうに、感じてくれるカミューを愛しいと思う。 カミューも……そう思っていてくれてるのだろうか? ふと、そう思った。自分がどんなに嫌がっても強引にされてしまう行為。自分でしてみてわかった。自分の行動に素直に反応が返ってくるのがこんなに嬉しいことだということを。 マイクロトフはさっきカミューがしたように頭を上下させてみた。それは自分の体内で行なわれる律動のようでさすがに少し恥ずかしい。しかし、やめようとは思わなかった。 「あっ……マ、マイク……、も……っ……」 カミューの切羽詰まった声と共にぐっと髪の毛を掴まれた。引き剥がそうとしている手に大して力が入っていないことをいいことに、マイクロトフは無視して愛撫を続ける。 「っ、マイ、クっ……、……っ、イク、って……!」 少し潤んだ瞳で見下ろしてくるカミューにマイクロトフはわずかに唇を離した。 「イケばいいだろう……?」 上目遣いにさっきのおかえしとばかりに、にやっと挑発めいた笑みを浮かべ、先端を舐め上げると、カミューはびくりと目を閉じた。そして、悔しそうに睨みつけると、顔をそむけてしまう。亜麻色の髪から覗く耳や首筋は真っ赤だ。ささやかな復讐心が満たされたマイクロトフは気を良くして愛撫を再開する。 やがて、ふるふるっと小刻みに震えてきたのを感じ取ると、一際強く吸い上げた。 「っ……! くっ……!」 抑えた声と共にカミューが達する。喉に飛び込んできた熱い塊にマイクロトフはむせつつ、できうる限り飲み込んだ。 ぐったりと身体を投げ出し、片腕で顔を隠して荒い息をついているカミューに、マイクロトフは身体を起こして顔を覗きにいった。一方的な愛撫が逆効果だったら……という一抹の不安を抱えつつ。 目が合うとカミューは照れくさそうに笑った。そして、ぐいっとマイクロトフの頭を引き寄せると、 「まったく、おまえは……。覚悟はできてるんだろうね?」 と、漆黒の瞳を覗き込んで悪戯っぽく笑う。覗き込んでくる欲を孕んだ瞳に、調子に乗りすぎたか、と、マイクロトフはいまさらながら後悔した……。 カミューの眠りは突然頭を襲った痛みによって阻まれた。 「いたっ! な、なんだ……?」 「起きろ! カミュー!!」 目の前には怒りの形相のマイクロトフ。隣に横になったままカミューの髪を容赦ない力で引っ張っている。 「いたた……。マ、マイク……? どうしたんだい?」 寝ぼけた頭には状況を判断できるはずもなく。カミューは目を瞬いてマイクロトフを見る。 「お、おまえはっ! 何が『男としての自信』だ! あ、あんなに散々しておいて……っ」 マイクロトフの抗議に、騙していたのがバレたのかな、と、カミューは一瞬ひやり、としたが、それにしては様子がおかしい。嘘をつくことが嫌いな彼はつかれるのも嫌う。もし、昨日のが芝居だとばれた日には……ちょっとこの城に居られないかもしれない。 だが、違うのなら、何に対してこんなに怒っているのだろう……。 そして、ふと気づく。なぜ、身体を横たえたままなのか。 「? あ。腰が立たないの?」 起き上がらないマイクロトフにカミューが首を傾げると、マイクロトフは瞬時に茹蛸のようになった。そして眦を吊り上げると今度は頬を力いっぱいつねる。 「い、いひゃいっ……、いひゃいよ……」 「うるさい、うるさい!!」 どうやら図星だったらしい。カミューが涙目になりながら「いひゃい」を繰り返すと、ようやく手が離れた。カミューは思わず自分の頬を覆う。 「おまえの『男』は取り戻せたかもしれないが、お、俺の男としての立場はどうなるんだ!」 マイクロトフの言葉に、カミューはマイクロトフが何に怒っているのか、ようやく見当がついてきた。腰が立たなくなるまでいわゆる『女役』で相手をさせられた、という羞恥なのではないだろうか。プライドが傷ついた、というよりは恥ずかしくて仕方ない、というふうだ。 カミューはにっこり微笑むと、マイクロトフの瞳を真正面から覗き込む。 「マイクは充分男らしいじゃないか。ダンスニーを手に、颯爽と剣を振るう姿なんて、いつ見ても惚れ惚れするよ」 「う、うう……。おまえはまたそういううまいことを言って……」 わずかに目をそらして、もごもごと言うマイクロトフ。しかし、その口調は明らかに先程までの勢いがない。カミューはたたみかけるようにさらに口を開いた。 「本当だよ。執務室で書類を真剣に審査しているおまえも格好いいし、ゴルドー様の理不尽な判断に真っ向から反論するおまえも格好いい。 おまえは誰よりも男らしいよ」 きっぱりと言い切るカミューに、マイクロトフは赤面してうつむいてしまった。 カミューはその額にキスを落とす。 ああ、もう。おまえは本当に可愛いね……。だから俺みたいな悪い男に騙されるんだよ……。 おわり |