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赤騎士団副団長・レイブリックは赤騎士団長の執務室前で硬直していた。 原因は中から断片的に聞こえてくる会話。 何事にも動じることなく笑みを浮かべている、と評されているレイブリックでも、さすがに冷や汗が流れてくるのを止められなかった。 遡ること、数分前。赤騎士団長への書類を手に執務室を訪ねた。そして、ノックしようとして、中から聞こえてきた声に手が止まった。 「ぁっ、や、カ、カミュー……!」 「ふふ、覚悟はいいかな? 今日はたっぷりとその身体におしえてあげるからね」 「やっ、こ、こんな体勢、無理だ……」 「大丈夫だよ、マイク。俺が支えるから」 「しっ、しかし……っ」 「さあ、俺にしっかり掴まって……」 「ぅ……い、いた……」 「力を抜いて……」 こっ、これは……。 レイブリックは書類を抱えたまま硬直した。 ひょっとして、ひょっとしなくても、最中か? い、いや、まさか。確かに団長はマイクロトフ様と付き合いはじめてから、ケダモノ……いやいや、自分に随分素直になられたが……。いくらなんでもこんな真昼間から、しかも執務室でなんて……。 ありえない、と断言できない自分が悲しい。 レイブリックは、はあ、とため息をついた。自分がこのまま立ち去るのは簡単だが、他の団員がここを訪れないとは限らない。団長は平気だろうが、マイクロトフ様は……。 「いい? 動くよ……?」 「た、頼む……。ゆ、ゆっくり……」 「ん」 あああ。マイクロトフ様、なんてつらそうなお声を出してらっしゃるのだろう。 レイブリックは居たたまれない気持ちになる。自分は赤騎士だが、マイクロトフ様のことは尊敬しているし、好きだ。普段の彼は気高いくらい真っ直ぐな真面目な方なのに。どれほどの罪悪感を覚えていることだろう……。 止めるか……。 ちらり、と危険な考えが浮かぶ。そんなことをしたら、あとで団長にどんな目にあわされるか、想像するだけでも恐ろしい。しかし、このままではマイクロトフ様がかわいそうだった。 「何? もう息が上がっちゃってるよ?」 「す、少し休ませてくれ……」 「まだはじまったばかりだよ……」 「っぁ……、そ、そんなところ触るな……っ」 「ふふ……。この調子じゃいつまでたっても終わらないよ? あ、いたっ」 「す、すまない……」 「痛いよ、マイク」 「し、仕方ないだろうっ、慣れてないんだから……」 「はいはい。可愛いよ、マイク……」 「かっ、可愛いって言うな!」 可愛いマイクロトフ様、を想像してレイブリックは同情を禁じえない。受ける側の苦痛はよくわかる。それなのに、攻める側は痛がっている姿や苦しがっている姿を「可愛い」だの、「綺麗」だの言うのだ! サドめ! いよいよ本気でマイクロトフ様救出に乗り出そうという気になってきた。 「うん。だいぶいい感じになってきたね。おまえもだいぶ楽になっただろう?」 「あ、ああ……」 「ふふ。じゃあ、今度は逆でやってみようか」 「なっ……、で、できないっ」 「できないことはないだろう。今まで俺がやってきたことをそのままやってごらん」 「う……、し、しかし……」 「ほら。うまくリードしてくれよ?」 なんてことを言うんだ! いつもいつも好き放題いいようにしてるくせに、逆を求めるなんて! あんまりだ、とレイブリックは思いきってドアに手をかけた。 マイクロトフ様、今、お助けします! 情事の最中を見られるのは彼にとっては死にそうなほどの屈辱だろうが、自分は前から関係を知ってるし(そのことは団長しか知らないが)、一時の恥、とあきらめてもらおう。もちろん、団長だけをみっちり責めるし、これからマイクロトフ様が強いられる行為よりはずっとマシなはずだ。 コンコン、と少し強めにノックする。2人の会話がピタッと止んだ。レイブリックは心を鬼にしてドアを開ける。 「失礼します! 執務室で何を……って、え?」 「何をしているんですか!」という糾弾の言葉は目の当たりにした光景に紡げなかった。 2人は服を着たまま、抱き合っている、とはいえるくらいの距離にいたが、情事に及んでいるようにはかけらも見えない。ただ、カミューはマイクロトフの片手を握り、腰に手を回している。マイクロトフは顔を真っ赤にして硬直していた。 この程度の状況であんな会話が交わされるのだろうか? 「……何を……しているんですか?」 呆然と口を開くと、カミューがにっこりと笑った。 「やあ、レイブリック。いや、ちょっとマイクロトフに社交ダンスのレッスンをしていたんだよ」 「は?」 「すまない、レイブリック。勤務中にこんな真似をして……」 マイクロトフが心底すまなそうに謝る。 そういえば、もうすぐ大規模な社交パーティーが予定されている……。 レイブリックはかろうじてそのことを思い出した。 「そう、ですか……。社交ダンスの練習を……」 「うん。とりあえず、マイクロトフに女性パートをやらせて俺が見本をみせていたんだけどね」 カミューが何やら説明をしていたが、レイブリックの耳にはほとんど入ってこなかった。ふらふら、と開けたばかりのドアの方へ歩み寄る。 「あれ? 何か用事があったんじゃないのかい?」 「いえ……、けっこうです。おじゃましました。どうぞ、ごゆっくり……」 灰のごとく真っ白になったレイブリックは静かにドアを閉めた。マイクロトフとカミューは顔を見合わせる。 「どうしたのだろうな?」 「さあ?」 その日、ロックアクス城の屋上から、 「まぎらわしいことしてんじゃねーっっ!!」 という、聞いたこともないような罵声が響き渡ったという……。 |