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ギインッ!! 激しく剣と剣がぶつかりあう音が道場中に響きわたる。 剣を手にしているのはマチルダ騎士団から同盟軍に参入した、元・青騎士団長と元・赤騎士団長。 練習熱心なマイクロトフが剣を手にして手合わせをしてる姿はめずらしくなかったが、カミューは道場では兵士たちの指導にあたることがほとんどでこんなふうに朝から1対1の剣技を披露するのはめずらしかった。 こころなしか二人とも表情は真剣そのもので、あまりの迫力にその場にいた全員が手を止めて見入っている。 二人は、性格も正反対ならば、剣技も正反対だった。 真正面から敵にぶつかり、すべてを粉砕する勢いで剣を振るうマイクロトフ。 敵の攻撃を器用に受け流し、隙をついて攻撃に転じるカミュー。 剛と静。正反対なればこそ、二人の決着はそう簡単にはつかない。マチルダにいた頃にも数えるほどしか打ち合っていないが、途中でカミューが手を止め、「俺の負けだ」とあっさり勝敗を決めてしまうのが常だった。が、今回はその気配がまったく見受けられない。どうやら最後まで決着をつけるつもりらしい。 時は一時間ほど溯る……。 マイクロトフが目を覚ますと、めずらしくカミューが先に起きていた。片肘をついて、もう片方の手でゆっくりとマイクロトフの右手の甲を愛おしむように撫でている。 その感覚がくすぐったくて、マイクロトフは少し笑った。カミューもその様子に琥珀色の瞳を細める。 「おはよう、マイク」 「……おはよう」 少し掠れた声。その原因が昨日の名残だと思いあたるとマイクロトフは赤面した。いつもは自分しか起きていないから、ひととおり一人で気恥ずかしがってからベッドを出るのに。 「ずっと……起きていたのか?」 「いや……。さっき目が覚めた。空が明るくなってきてたから、マイクがそろそろ起きるかな、と思って。たまにはこういうのもいいよね」 「阿呆。心臓に悪い」 「雨でも降るんじゃないかって?」 「槍だろ」 「……ひどいな」 くすくす。 どちらともなく笑いがもれる。 「ねえ、マイク」 「なんだ?」 「これ、外して」 カミューが指したのはずっと撫でていた右手の甲。マイクロトフの『騎士の紋章』が宿っている場所。 一瞬にしてマイクロトフの表情が凍りついた。 「なん……だと?」 「マイクには似合わないよ。外したほうがいい。魔力もそこそこあるんだし他の……」 「できない!」 思わぬ激しさで否定するマイクロトフにカミューは少し目を見開く。 これは……『騎士の紋章』は俺が騎士である、という証。それが似合わないとは騎士にふさわしくない……ということなのか……?! 「マイク……。この紋章がおまえの父君の形見だということはわかっている。でも、だからこそ大事にしまっておくべきじゃないのかな」 「いやだ!!」 あまりにも強情に否定するマイクロトフにカミューも少しムキになった。 「じゃあ勝負をしよう。俺が勝ったら外してもらうからな」 ガッ! ギインッ!! もう何合打ち合ったかわからない。時間もどのくらい経過したのか。 二人は流れる汗を拭う間もなく打ち合う。体力はもう尽きて、気力だけの勝負になっていた。 絶対に負けられない! 俺は『騎士』でなければ……! 感情的になってるぶんマイクロトフのほうが不利だった。カミューもムキにはなっていたが、それでもマイクロトフの剣が荒くなってきたのがわかるくらいの判断はできた。 マイクには悪いけど、俺だって……譲れない! カミューが一瞬の隙をついて反撃にでようとしたとき…… 「なにやってんだ!!!」 不毛な打ち合いは突然響いた大声で中断された。 「ビクトール殿……」 つぶやいたのはどちらか。 「なに、決闘みたいなツラして打ち合ってんだ?! 周りがビビッちまってんだろが!」 もう終わりだ、というふうに二人の間に入って二人を引き離す。その際にカミューの耳元に「夫婦ゲンカにしちゃ、ちょっと激しすぎたんじゃねえか?」と囁く。その少しからかうような口調にカミューは冷静さを取り戻し、苦笑いした。 「そのようですね。すみません。では、私たちはこれで……」 まだ戦いの興奮から醒めない様子のマイクロトフの手を引いてカミューは道場を後にした。 部屋に帰るまでどちらも無言だった。 部屋につくと、マイクロトフの様子がおかしいことにカミューは気がついた。 「マイク?」 顔を覗き込むとマイクロトフの漆黒の瞳から透明な雫がこぼれ落ちている。 「マイク?!」 「俺は……」 マイクロトフは口を開くと堰を切ったように鳴咽がもれた。 「俺は……確かに騎士には……ふさわしくない……かもしれない……。でも、俺は……、『騎士の紋章』をはずすのはいやだ……」 「ちょっ、マイク?! マイクはこれ以上はないってぐらい騎士にふさわしいじゃないか……。どうしてそんなことを……」 カミューは慌ててマイクロトフの頭を抱き寄せながら、もう片方の腕で背中を抱きしめた。 そして、自分の言葉にようやく思い当たる。 『騎士の紋章』を外せって……そんな意味にとっていたのか……。 自分の言葉の足りなさがマイクロトフをここまで追いつめていたのか、と思うと胸が痛んだ。騎士としてこれ以上ない、というぐらい誇り高い彼を傷つけてしまった。 「ごめん……。マイク……。そうじゃないんだ……」 ぎゅっと抱きしめる腕に力を込める。マイクロトフは聞いているのかいないのか言葉を紡いだ。 「俺は……騎士でなければいけない……。騎士でなければカミューの傍にいられない……。俺はカミューの隣に……立っていたいんだ……」 「マイクロトフ!!」 カミューは思わぬ言葉に目を見開いた。 『騎士』でいたいって……そういうことなのか? 俺の……隣に? 嬉しさと同時に申し訳なさが込み上げてきた。自分の身勝手があのマイクロトフにここまで言わせてしまった……。 「ごめん……。本当にごめん。 俺はね、マイクがその紋章のせいで傷つくのが嫌だったんだよ。俺を庇って傷つくのは嫌だったし、俺以外の人間を庇って傷つくのはもっと嫌だったんだ」 「カミュー?」 「許してほしい。俺の身勝手だったんだよ」 「……身勝手なのは俺だ……」 「違う。違うよ。 俺はマイクが少しでも紋章を発動しなくてもいいよう、少しでも多くの敵を倒せるよう、全体攻撃ができる『烈火の紋章』を宿したのに……。俺が弱気になっていた」 「カミュー……」 カミューは抱きしめていた腕を解いて、マイクロトフの両頬を包み込む。 涙に濡れた黒曜石の煌きが自分だけのものだと思うと、えもいわれぬ幸福感に満たされた。 カミューがマイクロトフの目を真っ直ぐ見つめて、 「愛しているよ、マイクロトフ。絶対に守るから……。最後まで一緒にいよう」 と、囁けば、マイクロトフも真っ直ぐ見つめ返してくる。 「ああ……。俺もカミューを守ってみせる。だから……」 ずっと傍に……というマイクロトフの呟きはカミューの唇の中に吸い込まれていった……。 おわり |