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青騎士団副団長のアドヴァンは仏頂面で廊下を歩いていた。仏頂面、といっても普段から無表情なタイプなので、周りの人間は彼の機嫌までは伺えない。しかし、今の彼は限りなく不機嫌そうだった。 まったく……。何をやっているんだ、あいつは! あいつ、とは色は違えど、最高責任者の立場にある男。自分より立場は上の者だった。しかし、アドヴァンにはそんなことは関係ない。 何があったかは知らんが、悩むなら、一人で悩め。うじうじと考えるのはひねくれたおまえは得意だろうが、団長を巻き込むな。 心の中で赤い姿を思い出しては毒づき、小さくため息をついた。そして、覇気のなかった団長を思い出す。 表面上はなんともないように振る舞っているが、仕事に凡ミスが増えるため、すぐわかる。しかし、それを口にしてしまうと、プライベートなことで仕事に影響をきたすなんて、と、自決するんじゃないかというほど落ち込んでしまうため、こっそり自分が訂正しておかなくてはいけない。 まだ、尊敬する団長だからこそ、そういう面倒な真似もしているが、まかり間違ってあの男が上司だったりしたら、徹底的に直させるのに。 赤騎士団の副団長は2人がうまくいったことを喜んでいた。アドヴァンも団長がそれでいいのなら、と黙認していた。しかし、こういうときに、どうだったか、と思わずにはいられない。 赤騎士団の副団長の話によれば、向こうは『恋人』の話をのろけまくっているらしい。それはそれで、いい歳した男がだらしない、と思うが、自分のところの団長のそういう真似がまったくできない、というのも困りものだと思う。 恋愛沙汰には昔から疎かった。悩みとかあったら、名前は明かさずとも周りにさりげなく相談してみる、とかできればあんなに悩むこともないだろうに。 アドヴァンは赤青両団長と同期入団だった。とくに仲が良かったわけではないが、2人は昔からよく知っている。最初はお互いを毛嫌いしていたのに、なにがきっかけか、いつしか2人で一緒に行動することが多くなった。グラスランド、という異国からきた、どこか飄々とした男と、生粋のマチルダ人で融通がきかない堅物、と有名だった男のコンビはどこにいても目立ちまくっていた。 同じ青騎士団に配属されたまっすぐな性格の彼はその性格が災いしてか、恋愛ごとが苦手だった。整った顔立ちをしていたため女の子の歓声を受けることもしばしばあったが、本人は真っ赤になって身を引いてしまう。 それは、活躍を重ね、異例の早さで昇進していき、高い地位に就いても変わることはなかった。周りはそれを微笑ましく見ていたものだ。 まさか団長の色恋沙汰を心配する日がこようとはな。 アドヴァンは苦笑いした。 団長にはまだ当分無縁のことかと思っていたのだが。 相手があいつでなければおそらくはありえなかった事態。 『カミューは唯一無二の親友だ』 いつだったか、団長が口にした言葉。そのときの誇らしげな顔をアドヴァンは思い出す。団長は「同性相手に何を言っている」と言えば終わったものを、あいつの想いを真っ直ぐ受け止めた。それだけ大事な存在だったから。 アドヴァンは緩みかけた口元を、それにしても、と引き締めした。 今日中に解決しなかったら終わらなかった仕事は全部、赤騎士団におしつけてやる! 「どうしたんですか? アドヴァン殿。怖い顔をして」 くすくすと、笑いを含んだ声をかけられてアドヴァンは足を止める。そこには赤騎士団副団長の姿があった。いつもの仏頂面でも他の騎士たちは脅えてなかなか近づけないというのに、この男にはそういうことはないらしい。 「……おまえのところのはどうしてる?」 歳でいくと赤騎士副団長の方が上なのだが、そんなことはまったくおかまいなしにアドヴァンは尊大に尋ねた。しかし、赤騎士副団長・レイブリックは不快な様子をかけらもみせず、にっこりと笑い返す。 「そうですねぇ……。何か、浮かれてましたよ?」 「……………………」 沈黙の合間に「あの野郎……」と聞こえたような気がしたが、レイブリックはあえて突っ込まない。と、アドヴァンは手に持っていた書類をばさっと投げつけるようにレイブリックに押しつけた。 「あの馬鹿にこれをやらせろ」 明らかに不機嫌な声音にレイブリックはちょっと苦笑いして押し付けられた書類をパラパラとめくる。 「これは、また……。面倒な内容ですね」 「こっちの被害を考えればそれでも全然足りん」 ぎろ、とアドヴァンが睨みつけると、レイブリックは肩をすくめた。ちなみにこういう反応ができるのは彼以外には青赤両団長くらいだ。他の者だったら逃げ出しそうになるだろう。 「まあ、そういうことでしたらなんとかしましょう」 にこ、といつもの人当たりのいい笑みを浮かべる赤騎士副団長に、アドヴァンはふん、と鼻をひとつ鳴らす。 「あの色ぼけはなんとかならないのか?」 「我が敬愛する上司に向かってひどい言いようですね」 全然本気に聞こえない口調のレイブリックにアドヴァンは唇を歪めた。 「敬愛してたのか? 初めて聞いたぞ」 「私も初めて口にしてみました」 レイブリックはそう言ってくすくす笑う。アドヴァンはあきれたように軽く息をつくと、ふっと目元を緩めた。他の人間にはめったに見せない穏やかな表情。 「アドヴァン、とりあえず私からのお詫びとして、お茶でもどうですか?」 レイブリックの申し出にアドヴァンは頷いた。 おわり |