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赤騎士団副団長のレイブリックは廊下を歩きながらくすくす笑っていた。赤騎士団長の部屋を出てきたところだった。 恋人がつれない、と、悩んでいるところに出くわしてしまい、からかい半分励ましてきた。恋の悩みを聞かされることなど、昔のあの人からは誰が想像できようか。 あの人がああやって無防備な姿をみせるようになったのは「あの方」と付き合いはじめてから。それ以前の彼は微笑みという壁を作って常に完璧に振る舞っていたが、どこか人間味に欠けていた。 「あの方」を恋愛対象として意識しはじめた思われる時期は普段どおり振る舞いながらも、いつ切れるかという危うさがどこかにあった。しかし、どうにかうまくいってからは目にみえて穏やかになったように思う。他の騎士たちは気づいてないほどの変化だけれど。作り物の笑顔が減ったり、自分のように心を開いている相手には本音を吐いてみたり。 前の、非のうちどころのない完璧赤騎士団長もよかったけれど(自分がラクだから)、今のいろんな顔をみせる赤騎士団長の方がいい。 それに。 「あの方」がらみになると完全無敵赤騎士団長だしね。 変わった、といえば「あの方」も変わられたと思う。 団が違うのではっきりとはいえないが、前は真面目といえば聞こえがいいが、どこまでも堅苦しい方だった。常に厳しい顔つきで滅多に相好を崩さない、潔癖ともいえるその態度は、それはそれで高潔なイメージで人を惹きつけていたようだけれども。どこか近寄りがたい雰囲気を持っていた。あとで知ったのだが、感情が顔に出やすい性格だということを自覚していて、それを押え込んでいたらしい。 それが、あの人と恋愛沙汰、なんて本人にしてみれば晴天の霹靂のような事態に陥ってからは崩れつつある。最初のうちはかわいそうなくらい悩んでいた。それはそうだろう。付き合いべたなあの方が、唯一、心置きなく付き合っていけた『親友』に愛を告白されたのだから。 それでもなんとか答えをだしたらしく、一応、おさまりをみせたのだが、今度は周りが気づくほど変わってしまった。一生懸命かぶっていただろう、厳つい仮面を剥ぎ取られてしまったのだ。まあ、あの人の本性がああだから、ペースに巻き込まれてしまったら無理もないのだが。同情する反面、いろんな一面をみられてなかなか楽しいけれど。結果的に周りにあの方の魅力を曝けだしてしまったということをあの人は気づいているのだろうか? このあいだのように人前で真っ赤になって怒りだし、しまいにはあの人を蹴り飛ばす、なんて姿は少し前のあの方からは想像もつかないことだった(あの人になんて囁かれたのやら)。 結局、どちらとってもいい結果を生み出したってところなのかな。 くすくす。 「随分、機嫌がいいようだな」 ふいに背後から話しかけられて。振り返ると青騎士団副団長が立っていた。 「ああ、これはアドヴァン殿。仕事は一段落つきましたか?」 にこやかに話しかければ、アドヴァンは仏頂面をさらに不機嫌そうに歪める。他の人が見たらわけもなく謝ってしまいそうな表情。愛想の「あ」の字もない態度だが、レイブリックは気にもとめていない。 「……仕事にならん」 「ああ……。そちらもですか」 再びくすくすと笑いだすレイブリックに、アドヴァンはじろり、と睨みつけた。 「お前のとこの能天気とは違って、いい迷惑だ。余計なことに巻き込むな、と言っとけ」 「ひどい言いようですね。我らが『敬愛』する赤騎士団長に対して」 わざとらしく『敬愛』を強調するレイブリックにアドヴァンはちょっと唇を歪めてみせる。 「心にもないことを言うな。 何があったかしらないが、どうせそっちが原因だろう? なんとかしろ」 「うーん、そう言われると身も蓋もないですね。 ああ、ちょうどお茶の時間ですし、一緒に対策でも練りませんか? アドヴァン殿」 レイブリックがにっこり笑うと、アドヴァンは心底嫌そうな顔をする。 「おや? どうかしましたか? アドヴァン殿」 ますます笑うレイブリックにアドヴァンは唸るように言う。 「……おまえ、わざと言ってるだろう?」 睨みつけられて、レイブリックは目を細める。それは他の人にはみせない、人の悪い笑み。 「では、行きましょうか、アドヴァン」 おわり |