〜ヒトリデ スゴス ヨル〜




 カミューは1人、城下の酒場にきていた。
 華麗な赤騎士団長の制服を脱ぎ、ラフな格好となってもその華やかさが損なわれることはない。
 店に入ったとたん、周りから軽いざわめきが起こった。
 マチルダ騎士団の赤騎士団長、という肩書きはもちろん有名だが、それ以上に女性を……いや、男性までも惹きつけてやまない端麗な容姿。『麗しの赤騎士団長』に熱い視線が集まるのは致し方なかった。
 カミューはそれにはかまわず、優雅なしぐさで席に着くと、いつもの酒を注文する。
 この店は雰囲気を出すため、各テーブルに置かれたランプのみが光源となっていた。ランプの煌きにマチルダではめったにみられない亜麻色の髪が反射して、金と黒のコントラストを造りだしている。幻想的な美しさだった。
 ウエイトレスが酒を運んでくると、微かに笑んで礼を言い、グラスを手にした。頬を赤らめて立ち去るウエイトレスの後ろ姿を見るとはなしに見送り、ゆっくりと香りを楽しむようにグラスを傾ける。から、と氷が鳴った。
 口に広がる冷たい液体は喉を通る頃には灼熱の塊となる。カミューはこの感触が好きだった。

 まるで、最初は頑なに拒む恋人が、最後には快楽に溺れ、熱く蕩けるさまのようで……。

 カミューは恋人の媚態を思い出して、はあ、と熱いため息をついた。
 周りは彼のため息を、このマチルダの不安定な情勢を……ハイランドがなにやら不穏な動きを見せはじめ、都市同盟の間に緊張が走っている……憂いているのだろう、と見惚れつつも頼もしく思う。
 そんなこととは露知らず、カミューは前に恋人をこの店に連れてきたことを思い出していた。
 マチルダ騎士団を担う、若き赤青両騎士団長が揃って登場したのだから、目立たないわけがない。それなのに彼は、どうしてこんなに周りから見られているのか、と、終始落ち着かない様子で恥じらんでいた。

 ふふ、あのときのマイクは可愛かったなぁ……。

 ずっと見ていたかったのだが、周りにも見られるのがしゃくですぐ店を出たんだっけ……と、カミューは目を細める。視線の先の方で微笑まれたと思った女性グループから、「きゃあっ」と悲鳴が上がった。カミューが遠い目をして思い出に心が飛んでいることになど気づくよしもない。
「おまたせしました。ライチです」
 今度は別のウエイトレスが運んできた。彼女たちの間でもいろいろと順番があるらしい。
 カミューはまたも優しく微笑んで「ありがとう」と礼を言うと、異国の果実を手に取った。優雅な手付きで皮を剥きはじめる。
 初めて見たときは「これが果物……いや、食べ物なのか?!」と驚いたものだが、一度口にして以来、爽やかな風味が気に入って好んで食するようになった。
 それに。

 皮が固くガードしているのに、皮を剥くと驚くほど真っ白な実が現れる。まるで、制服をきっちり着込んだ最愛の恋人のようではないか。

 食べ物にバチあたりな妄想を馳せながら、白い果実をゆっくりと口に運ぶ。そして何度か咀嚼するとそっと種を取り出す。
 その、どこか色香を感じさせるしぐさに、周りでライチを注文する客が殺到した。
 ……ライチ、完売。
 カミューは周りに多大なる影響を与えているとは気づきもしない。普段は周りの雰囲気に敏感で気の回る赤騎士団長も恋人に想いを馳せてはただの……いや、少しいっちゃってる男だった。

 ああ、マイク、早く帰ってこないかなぁ……。

 マイクロトフは今、遠征に出ている。それで赤騎士団長は1人寂しく酒場に顔を出している、というわけだ。最初の何日かはマイクロトフの私物を抱き枕がわりにしたり、部屋に忍び込んでマイクロトフのベッドで寝たり、となんとかごまかしていたのだが、それも、明日戻るらしい、という報告を受 けた今日、限界となった。酒でもかっくらわないと一人寝もつらい。

 まったく……。俺をこんなに待たせて、罪なヤツ☆
 帰ってきたらあんなこと、こんなことしちゃうからな。

 カミューはとても周りの婦女子には見せられない想像を撒き散らしつつ、グラスを空ける。
 それにいちはやく気づいたウエイトレスが(余談だがまた違う女性だった)おかわりを用意して運んできた。その気遣いにカミューは目を細める。が、グラスとともに置かれた器に小首を傾げ、ウエイトレスを見上げた。
「これは……? 注文してないはずだけど……」
「こちらは本日のサービスになります。どうぞお召し上がりくださいませ」
 ウエイトレスはできうるかぎりの笑みを浮かべ、できうるかぎりのかわいい声を出して説明する。カミューはふうん、とつぶやくと、「じゃあ、いただくよ。ありがとう」と愛想のいい笑みを浮かべた。有頂天になったウエイトレスはできうるかぎり丁寧に一礼して、少し名残惜しそうな表情を浮かべテーブルを離れる。
 しかし、カミューの意識はすでにテーブルに置かれた赤い果実……正確にはその上の白い液体に惹きつけられていた。
 苺にたっぷりとかけられた練乳。

 ああ……、この濃い白。ねっとりとした感触まるで……

 以下自主規制。
 陶然とした笑みを浮かべ、優しい手つきで練乳を掬いながら苺を食する姿に、周りは釘づけになった。
 こうして妄想が暴走しはじめたカミューの夜は周りを巻き込みつつふけていくのである……。


 その頃。
 翌日の帰城が決まっているのに、「急ぎ、報告したいことがあって……」と苦しい言い訳を副団長に残し、馬を駆る姿があった。マチルダ騎士団青騎士団長マイクロトフである。
 青い制服を風にはためかせ、心はすでにロックアクス城の自室で休んでいるだろう友……いや、恋人に飛んでいた。
 一刻も早く会いたくて……などとは恥ずかしくて絶対口にはできないが、明日帰るという伝令を聞いているだろう彼が自分を見てどんな顔をするだろう……と、マイクロトフは少し笑う。

 ……彼の運命やいかに。



 おしまい




カマさんとの交換の企画でリクエストは
「しっとりと酒を飲むカミュー」でした。
………………すみません(平謝り)。
これではあんまりだと思い、
もう1本書かせていただきました……。


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