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「は? 今、なんとおっしゃいました?」 カミューは酒場の女主人の言葉に目を瞬かせた。外に出るパーティの編成を管理している彼女に帰還の旨を伝えにきたところ、いきなりの思いもしない質問である。レオナは煙管をくわえ一息吐くと、もう一度質問を繰り返した。 「だから、あんたら何かあったのかいって」 「……我々、と言いますと、私とマイクロトフですか?」 「そう。それ以外に誰がいるというのさ」 当然、という顔で煙管でカミューの顔を差すレオナにカミューは、そりゃそうか、と思う。マチルダ騎士団を離反して都市同盟軍に参加して以来、カミューとマイクロトフは常にコンビ扱いされていた。いや、それはマチルダに居た頃からそうだったのだが、ノースウィンドウ城にきてからもほとんど行動を共にしていたため、いつのまにか周りに2人組として認識されていた。赤と青、というわかりやすい対の色が更にそう思わせているのかもしれない。もちろんそれに対してカミューに異存があるはずもない。 しかし、彼女の問わんとしていることは、今のカミューにはさっぱりわからなかった。 「はあ……。何か、とは?」 「たとえば喧嘩したとか、何か変な賭けでもしたとかってね」 「すみません、レオナ殿。話が見えないのですが……。マイクロトフに何かあったのでしょうか?」 喧嘩、という単語にカミューは穏やかならぬものを感じ、率直に訊ねた。他の話題なら話し上手な彼女とのやりとりを楽しんでもかまわない。だが、彼に関してだけはそんな余裕はみじんもなかった。まだ姿を見ていないだけに漠然とした不安が胸をよぎる。 切羽詰ったように早口で問われ、レオナは「そう。あんたは絡んでいないのかい」と呟くと天井に視線を向け、ゆったりと煙を吐いた。 「何かあったというか、何かしたというか……」 言いながら、食い入るような視線を向けるカミューにちらり、と目をやる。別に焦らしているわけではなく、どう言ったものか考えているふうの雰囲気を感じ、カミューは辛抱強く次の言葉を待った。 「あんたがいなくなってから、あちこちの女に声をかけて歩いているんだよ」 「は?」 あまりにも予想しない言葉にカミューの頭が真っ白になる。 「不器用な態度は相変わらずなんだけどねぇ、女を見るや、積極的に話しかけているみたいだよ」 あたしのとこにも来たけどね、とレオナは肩を軽くすくめた。カミューは衝撃から抜け出せなかったが、かろうじて口を開く。 「か、彼はどんな話を……?」 「単なる世間話みたいなもんだけどね。ほら、あの顔だろ? がちがちに緊張している姿が可愛いとかいって、その気になった娘も出てきたとか……」 「し、失礼します!」 カミューはたまらず酒場を飛び出した。一刻も早くマイクロトフを見つけて事の真相を質さねばならない。 少年の頃から異性と接するのを苦手としていた彼を思うと、にわかには信じられない話であった。ユズやミリーといった、いわゆるマイクロトフが苦手としている『女性』をまだあまり感じさせない少女たちと話しているのならまだわかる(なにせ、マチルダに居た頃から子供に人気があった男だ)。だが、レオナの元にも行ったとなれば、本当に女性たちに声をかけていることになる。 彼にかぎってありえない、と思いながらも、ひょっとしたら、という恐怖にも似た疑いが消えなかった。ここ、新都市同盟本拠地はさまざまな地域から、さまざまな人間たちが集まっている。マチルダでは出会うことのなかった個性的な女性たちも多い。マイクロトフがそんな女性たちと接しているうちに異性の新たな魅力に気付き、惹かれるということもありえるのではないか……。 そんな焦燥は、マイクロトフを探しに行ったレストランですれ違ったシーナに「カミューさんだけでも相当持っていかれているのに、マイクロトフさんにまで出てこられると困るんだよなぁ」とぼやかれ、レストランの次に向かった道場に続く廊下ではアニタには「あの色男、マチルダに恋人とか残してきてないよねえ?」などと意味ありげに聞かれたことにより倍増、いや、百万倍にもなろうものだ。 マイクロトフ……! カミューはスタリオンのごとく走り出した。 一方、その頃。 カミュー一行が帰ってきたことなど知らないマイクロトフは、今日も気合を入れて城の中を歩き回っていた。その姿は戦場に赴く兵士のようである。いや、本人にしてみれば戦場とあまり変わらない心境であった。気を抜いたらやられる……! そんなぎりぎりの精神状態でここ数日を過ごしているのである。 そんなマイクロトフが、自分の行動が城中の話題をさらっているなどとは知るはずもない。今日は誰が話しかけられるのか。城中の女性たちは、今度こそは自分の番でありますように、と期待を胸に一日を過ごしているのだ。 あ、あれはリィナ殿。 マイクロトフは視線の先に、カミューと同じグラスランドの出身だという少女の姿を見つけた。いや、少女というには彼女の持つ雰囲気はすでに大人のそれであり、とても19歳とは思えない。妹のアイリは活発な少女でまだ話しやすいのだが、リィナはマイクロトフが最も苦手とする部類の女性だった。 よ、よし……。 今日は彼女にチャレンジしてみよう(ちなみにアイリはクリア済みである)。マイクロトフは覚悟を決めるとリィナの元に歩み寄った。 リィナは木に寄りかかり、妹のアイリのナイフ投げの練習の様子を眺めているようだった。マイクロトフは声が届くまでの距離まで近づくと一呼吸おいて話しかける。 「こ、こんにちは、リィナ殿」 「あら、騎士様。こんにちは」 このでかい図体が近づいてくるのを気付かないはずはないが、リィナは今気付いたというふうににこりと笑った。マイクロトフはその色気に頬が熱くなるのを感じながら、リィナが視線を向けていた先に目をやる。 「ア、 アイリ殿のナイフ投げですか」 「ええ」 アイリは木にくくりつけた的に向かって次々とナイフを投じていたが、ほとんどが真ん中に集中していた。まだ年端のいかぬ少女だが、旅芸人として世界を回っているだけのことはある。マイクロトフが彼女の年ぐらいのときは従騎士として右も左もわからない日々を送っていたことを思うと、将来はナイフ投げの名手として名を馳せることだろう。 「さすがですね」 「そうね。今日はあの子、調子が良いみたい」 いつもこうだといいのだけれど、とリィナはくすくすと笑った。 調子の良い悪いがあるのか。このあいだ、ゲンゲン殿の頭にリンゴを乗せて的にしていなかったか……、とマイクロトフは背筋が冷たくなる。まあ、ここには優秀な紋章使いや医者がそろっているから、めったなことにはならないはずだ……たぶん。 2人はしばしの間、アイリのナイフ投げを見ていたが、マイクロトフは、これでは目的を果たしていない、と我に返る。 「リ、リィナ殿は占いが得意だそうですね」 話を振るとリィナは視線を上げてマイクロトフを見た。その緩く浮かべた笑みはとても10代とは思えない艶がある。 「ええ。よかったら占ってさしあげましょうか?」 「えっ?」 マイクロトフは本来、占いは信じない性質である。運命は決まっているはずがなく、自分の手で切り開いていくものだと信じているからだ。占いを卑下するわけではないが、他人に言い当てられるものではないと思っている。 しかし、リィナと近しくなるためには信念を曲げることが必要かもしれない。そう判断したマイクロトフは「ええ、ぜひお願いします」と頷いた。リィナは一瞬、意外そうに目を見開いたが、すぐにいつもの妖艶な笑みに戻ると、スカートのポケットからタロットカードと折りたたまれた布を取り出す。 「じゃあ、ここにはテーブルがないので簡単なのをやってみましょうか」 言いながらリィナはしゃがみ込むと布を広げて地面に敷き、その上にカードを置いた。 「自分で混ぜてから1枚好きなのを選んでください」 促され、マイクロトフもしゃがみ込んで少々ぎこちない手つきでカードを混ぜはじめる。そのぎくしゃくとした様子に、リィナはくすり、と笑みを浮かべながら口を開いた。 「何か悩みでもあるのかしら?」 「えっ?!」 マイクロトフは飛び上がりそうなほど驚いて顔を上げる。まさか、この少女は自分のここ数日の行動の目的を知っているのでは……と焦っていると、 「あら、悩みがなければ何を占いますの?」 と、からかうように言われ、自分の早とちりを赤面した。確かに何を占ってもらうか決めなくては占いようがない。 「そ、それではこれからの……」 同盟軍の行く末を、と言おうとしたマイクロトフをリィナは口元に手のひらをかざして制する。 「内容は言わなくてけっこうですわ。心の中で占いたいことを思ってください。……そのほうが、好きなことを占えますでしょう?」 「は、はあ……」 どうも19歳の少女を相手している気がしない。いくら占いに長けているとはいえ、まさか人の心の中まではわかるまい。そう思うのだが、何もかも見透かされているような居心地の悪さをおぼえずにはいられなかった。マイクロトフは冷や汗をかく思いでカードを混ぜる手に集中するふりをする。さっき思い浮かんだ、同盟軍のこれからを占おうと思ったのだが、ふと、頭の中を違うものがよぎった。 そ、そうだ。口にしなくていいのなら……。 別の内容を考えついたマイクロトフは混ぜる手を止め、ごちゃごちゃになったカードをざっと広げる。 「1枚引けばいいのですね?」 「ええ。占いたいことを頭に思い浮かべてね」 マイクロトフは神経を集中して目に留まった1枚のカードに手をかけた。 「そのカードでよろしいかしら?」 「はい」 マイクロトフが頷くとリィナがそのカードに手を伸ばす。 と、 「すみません、リィナ殿。マイクロトフは占いを信じる性質ではありませんので」 声と共に、マイクロトフの背後から腕が伸び、がしっとマイクロトフの両肩を掴んだ。マイクロトフが驚いて振り仰ぐと、浮かべている笑みはいつものように涼しげだが、髪は乱れ、呼吸は荒くなり、顔がじっとりと汗ばんでいるカミューがいた。 「カ、カミュー?」 思いもしない人物の登場にマイクロトフが呆気に取られていると、カミューはマイクロトフには一瞥もくれずにリィナに向かって話しかける。 「貴女が生業にしているものを、からかいで汚すわけにはいきませんからね」 にっこりと華麗な、それでいて有無を言わせないような笑みでそう言うと、カミューはマイクロトフの腕を取って立ち上がるように引っ張り上げた。マイクロトフが突然の展開についていけず目を白黒させ、引っ張られるがままに立ち上がると、カミューはリィナに向かって優雅に一礼する。 「お手を煩わせてすみませんでした。じゃあ、我々は失礼しますよ」 そう言い置いてマイクロトフを引きずるようにして歩き出した。我に返ったマイクロトフが慌てて、「すみません、リィナ殿!」と謝罪の言葉を口にするが、カミューの歩みを止めることはできなかった……。 「カミュー、おい、カミュー!」 どこからそんな力が出てくるのか、というほどの力でずっと引きずられるように歩かされていたマイクロトフは、何度呼びかけても返事をしないカミューに不穏なものを感じていた。何か怒らせるようなことをしただろうか、と思ってもいきなりこの状況ではわかりようもない。だいたい、数日前から城主と共に出かけていたはずだが、いつのまに帰ってきたのだろうか。 機嫌が悪いときはこちらがどんなに頭ごなしに言っても無駄である。マイクロトフは出方を変えて下手に出てみることにした。 「お、おかえり……」 「ただいま」 とりあえず返事が返ってきたことに幾分ホッとし、話を続ける。 「いつ帰ってきたのだ?」 「さっき」 「予定より早かったのだな」 「目標額に達したからね」 「そ、そうか。さすがカミューだな……」 マイクロトフが褒め言葉を言い終わるかどうかといううちにカミューが急に足を止め、くるり、と振り返った。その顔はさっきリィナに微笑んでいたのが嘘のように強張っていて、マイクロトフは思わず息を呑む。 「……マイクロトフ」 「な、なんだ?」 おっかなびっくり応えながら、いつのまにか人気のないところまで連れてこられたことに、今更ながら気付いた。この状況はまずいのでは、とマイクロトフが警戒していたが、 「おまえ、俺がいない間に女性たちに声をかけて歩いていたって?」 低い声で問われ、警戒心など一瞬で吹っ飛んでしまう。 「な、なぜ知っている?!」 帰ってきたばかりだと言っていたのに、この耳の早さは何か。 マイクロトフは驚きのあまり素直に応えてしまったが、それがカミューにとっては大ダメージだった。せめて口ごもったり隠そうとしたのなら、まだ救いようがあったかもしれない。だが、こうもあっさりと認められてしまったら、それは事実以外の何者でもないではないか。 カミューは受けた衝撃のままにマイクロトフの両肩を掴み、がくがくと揺さぶった。 「ひどい! ひどいよ、マイクロトフ! おまえも昔の俺みたいに『男が好きだなんて気の迷いに決まっている』とか思って手当たり次第、手を出そうっての?!」 遠慮のない力で揺さぶられたマイクロトフは、責められているという現状より、カミューの過去発言のほうが気になった。 「…………そんなことをしていたのか、おまえは」 「だって仕方ないじゃないか! おまえは男で俺も男なんだから!」 涙目になりながら「だからって今更ひどいよ!」と責め立てるカミューに、昔、あちこちで浮名を流していたのは俺のせいだったのか……、とマイクロトフはどこか感慨深げに思い、そんなカミューに腹を立てていた自分を思い出しておかしくなった。口では、不誠実だ! とカミューを責めるように言っていたが、なんということはない、カミューが自分だけのものではなくなることに焦りを感じ、相手の女性に嫉妬していたのだ……。 マイクロトフはくすり、と笑みを漏らした。その反応にカミューがびくりと身体を震わせる。 「まあ、確かに俺も男を好きになる趣味は持ち合わせていないが……」 マイクロトフの言葉にカミューの顔色がみるみる青ざめていった。そんなカミューをマイクロトフは、帰ってくるなり振り回されたバツだ、などと少々意地悪な思いで見つめる。 「……カミューを好きになる要素は持っていたと思うぞ」 「マ、マイクロトフ……」 マイクロトフにしてはストレートな言葉に、カミューは信じられないといったふうに目を見開いた。だが、自信たっぷりげに挑発的な笑みを浮かべているマイクロトフに今の言葉はまぎれもない真実だと確信する。 「マイクロトフ! 愛してるよ!!」 「そういえば、さっきの質問が途中だったね。どうして城の女性たちに声をかけていたの?」 「……まだ聞くか」 カミューの問いにマイクロトフは呆れたように応えた。もう問う必要はないだろう、と言わんばかりの口調にカミューは背後から甘えるように抱きついていた両腕に力を込め、軽く引き寄せると剥きだしの肩に、ちゅ、と口付ける。 「えー、だって気になるじゃん」 「これだけのことをしておいてか?」 あれから感極まったカミューに抱きつかれ、そのまま部屋に連れていかれたと思ったらベッドになだれ込み……とまあ、いつものパターンとなったわけだが。今はベッドから下りようと上半身を起こし、ベッドに腰かけたマイクロトフを、逃がさない、とばかりにカミューが背後から抱きついている格好だ。 普段なら、こんな明るいうちから冗談ではない! と拒むマイクロトフも今日はそれなりに積極的に応じた。マイクロトフにしてみれば、それが何よりの答えだと思っていたのだが……。 「うーん。マイクロトフが俺のこととっても好きでいてくれて、浮気なんかしないってことはよくわかったんだけど。 でもそれなら、なおさら、どうして女性たちに声をかけていたんだろうって思うんだよね」 女性と話すの苦手でしょ、楽しかった? とカミューはマイクロトフの顔を自分のほうに向け、鼻を指でちょんと押す。 「………………………………」 カミューのもっともな言い分に、マイクロトフは今更ながら自分があまりにも似合わないことをしていたことを自覚し、頬を赤らめた。 「そ、その……」 「うん?」 「この城はずいぶん女性が多いだろう?」 「そうだね」 マチルダの女性といえば、城で働くメイドか、街中で「騎士様よ!」と歓声を上げながらも遠くから見つめているような一歩引いた存在であることが多かったのだが、ここ、ノースウィンドウ城は女性でも戦闘の主力となったり、軍師の見習いがいたり、様々な特技を持っていたりと、マチルダにいた頃の女性観を根底からひっくり返すような女傑たちが集結している。いや、女性に限らず、亜種人やら巨大獣やら、本当に多種多様な生き物が集まっているのである。環境は大きく変わったことは言うまでもない。 だが、 「それで?」 それがどうして女性に声をかけて歩くことになるのか。カミューは話の流れがさっぱりわからず先を促した。 「そ、それで、いつまでもおまえに迷惑をかけっぱなしにしているわけにはいかないと思って……」 「え?」 迷惑、とはなんのことか。肝心の主語が抜けていて、カミューはますますわからなくなり、眉を寄せる。すると、マイクロトフは自棄になったように白状した。 「お、俺も少しでも女性と話すことに慣れないと、今後の作戦などに支障をきたすと思ったのだ!」 「……………………はい?」 カミューはまるで宇宙語を聞いたかのようにぽかん、とする。その失礼極まりない反応にマイクロトフはますます赤くなりながら、目を逸らしたら負けだといわんばかりに睨みつける。 「それで、女性に手当たり次第声をかけてたってわけ?」 「て、手当たり次第というわけではない……。ちゃんと目標と目的を定めてだな……」 目標と目的って鍛錬かい、とカミューは心の中で突っ込んだが、この男にしてみれば鍛錬となんら変わらない心境だったに違いない。その目標になりたいがためにどきどきして待っていた女性たちの気持ちなど知る由もないだろう。……知る必要もないが。 カミューは探るような視線を向けてマイクロトフに問う。 「……それで、どうだった?」 「ど、どうだった、とは?」 「うまくいったと思うかい? おまえは楽しかった?」 「う……。正直、戦場に一人で突っ込むほうがマシだと思った……」 彼らしい答えにカミューはぶっと吹き出した。 「だっ、だが、女性には失礼を働いていないと思う……ぞ」 笑われたことを怒るより、相手の女性を気遣うあたりが少しカチンとくるが、それも彼の性格なのだから仕方ない。 それよりも。 カミューはそっぽを向いてしまったマイクロトフの両頬を包み、もう一度自分のほうに向かせた。 「おまえは一生苦手でいてくれよ」 浮気はしないって信じてるけど、心臓に悪い。 「だ、だが……」 「俺のために努力してくれるのは嬉しいけどね。どうせなら他のことを努力してくれないたほうがいいなぁ」 たとえばこういうときとか、とカミューは目を閉じて、んーと唇を突き出す。すると、わずかな沈黙の後、 「いたっ」 かなり遠慮のない力で噛み付かれたのだった……。 一方、場に残されたリィナはといえば気を悪くしたふうもなく、2人が去っていく様子をくすくすと笑って見送っていた。そして、2人の姿が視界から消えた頃、ナイフ投げの練習をしていた妹・アイリが歩み寄ってくる。 「アネキ! 今、マイクロトフさんいなかった?」 「ええ、いたわよ。さっきカミューさんがきて連れていったわ」 「え! カミューさんもいたの?!」 アイリの驚きの声は明らかに残念がっていた。アイリも年頃の女の子。見た目もかっこいい騎士2人に憧れのような気持ちを抱いているのだ。 リィナはそんな妹に笑みを浮かべながら、マイクロトフが選んだカードをめくる。 「あら、やっぱりね」 特に驚いた様子もなく、リィナはそのカードを見つめた。そのカードには禍々しい悪魔の姿が描かれていた。『悪魔』のカードである。意味としてはあまり良いものはないが、その中に「周りからの誘惑に引きずられる」というものがある。だが、このカードは逆位置。つまり……。 「誰にも邪魔できない、ということかしら……」 神秘的な少女はマイクロトフがなぜあちこちの女性に声をかけているのかも、何を占おうとしていたのかも、すべてがわかっているふうだった。 おしまい |