〜幸せは傍にある〜




「また別れたのか?」
 マイクロトフの呆れたような声にカミューは軽く肩をすくめた。
「だってしょうがないだろう。彼女も『違った』んだから」
「違ったって、おまえなぁ……」
 いったい何人目だと思っているんだ、とマイクロトフが責めるが、カミューは気にしたふうはない。マイクロトフの眉間に深い皺が寄った。
「そんな不実なことを繰り返していると、いつか恨みを買って刺されるぞ」
「一応、付き合うときは真剣だし、別れるときも誠意を持って説明しているつもりだけどね」
「……貴女は運命の相手じゃありませんでしたって?」
「そう」
「……最低だぞ、おまえ」
 マイクロトフは盛大なため息を吐いた。

 カミューは最近、女性をとっかえひっかえしている。いや、昔から女性関係は派手な男だったが、最近は本当に頻繁なのだ。本人は至ってどれも本気らしいのだが、その数にマイクロトフは心底呆れ返っていた。しかも、その理由が……。

「だいたい、おまえ、本当に運命の相手とやらがいるのか?」
「何を言う。オババ様の占いはよく当たるんだぞ」
 オババ様、とはカミューの故郷のグラスランドで、カミューと同じ集落にいた占い師らしい。その占い師がカミューがマチルダに出立するときに予言したらしいのだ。

『おぬしは20歳までに運命の相手と恋に落ちるだろう』

 と。
 それを信じているカミューは20歳の誕生日をひかえ、その相手を探しはじめたのだ。運命の相手ならわざわざ探さなくても見つかるだろうし、周りの女性には迷惑極まりない話だろうとマイクロトフは思うのだが、案外女性たちはカミューとなら一時の恋でもいい、と言っているらしい。……そんなことはこの男におしえてやる必要はないが。

「それで、その運命の相手とやらがいたところで、おまえにわかるのか?」
「オババ様曰くだな、その相手に会ったらビビビッとくるものがあるらしい」
「会ったときにビビビッとくるなら、別に一目会うだけでいいだろうが」
 マイクロトフはいちいち深い関係になる必要はないだろうと暗に責めているのだが、カミューは、ふふん、と鼻で笑う。
「馬鹿。恋はいつどんな形でやってくるかわからないものだろう。少し相手のことを知ってみるのも必要なことさ」
 もっともらしく語るカミューにマイクロトフは再びため息を吐いた。するとカミューは得意気な口調で言い聞かせるように話す。
「まあ、恋愛音痴のおまえに言ったところでわからないだろうがね。ある日、思いもしない相手と突然恋に落ちるってこともあるんだよ」
「わかったわかった。せいぜい背後には気をつけるんだな」
 マイクロトフは頭を振ると話を切り上げるように立ち上がった。そのままこの場を立ち去るかと思いきや、おもむろに手を伸ばしてカミューの顎に手をかけると、

 ちゅ。

 なんの前触れもなく唇を触れ合わせる。
マイクロトフはすぐ離れると、あんぐりと口を開けているカミューに軽く舌を出した。
「一生、ビビビッとくる相手を探してろ、馬鹿」
 そう言い残し、さっさと歩き出す。マイクロトフの姿が見えなくなるまで茫然としていたカミューはようやく我に返ると、顔を真っ赤にして唇を手で覆った。
「ああ、ちくしょう!」
 やられた、とカミューは立ち上がる。まさかこんなことが、と思うより先に足が駆け出していた。恋愛音痴、と馬鹿にした相手にしてやられるとは。なんたる不覚。
「待ちやがれ!」
 カミューは常の華麗さをかなぐり捨ててマイクロトフの後を追った。

 唇が触れた瞬間、背中をビビビッと何かが駆け抜けたのである……。

 おまえが俺の運命の相手だなんて。気付かせたのはおまえなんだから覚悟しておけよ。



 おそまつ。





へたれカミュー企画に参加した文です。
こんなうっかりしたカミューさんがけっこう好き…


−back−