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真っ暗な部屋に、ランプの灯りがゆらゆらと揺れる中、柔らかい声が響く。 「誕生日おめでとう」 チン。 グラスの触れる音。 「ありがとう。……これで同い年だからな」 ちょっと得意げな、ちょっと挑戦的なマイクロトフの口調に、確か去年も同じことを言ったな、と、カミューはくすくす笑う。どうやらマイクロトフは同い年、ということにかなりこだわっているらしい。 「半年だけね。半年したら俺は27だ」 カミューのからかうような口調にマイクロトフは、む、と唇を尖らす。その意外なほど幼いしぐさにカミューはさらに笑いを誘われた。 お互いの誕生日を共に祝うようになって10年になる。恋人となってからは5回目のお祝い。ただ、こうして部屋で酒を酌み交わし、ささやかな贈り物をするだけのことだが、二人にとってはなにより神聖な儀式。 世の中はこの日、神の誕生を祝う日としてお祭りのような賑わいをみせる。しかし、この部屋だけは、たった一人の人間がこの世に生を受けたことを祝うのだ。 昔は神の祝いもついでにやっていた。というより、周りがお祭りムード一色だということ、単に酒を飲む口実が一つでも多くほしいということ、程度のものだった。しかし、友人、という枠をでてからは、「実在するかどうかもわからない神なんかより、マイクロトフのためだけに祝いたい」とカミューが言い、その年からこの日は他人とは違う意図で祝っている。 マイクロトフは口にしたことはなかったが、カミューがそう言ってくれたことがすごく嬉しかった。小さい頃から神と一緒に祝われた自分の誕生日。どんなに家族が祝ってくれても相手が神だと、どうしても自分はおまけのようで、密かにこの日が嫌いだったのだ。 それが。 カミューの一言で人生最良の日となったのだ。みんなは神の誕生日が近づくとついでのように自分の誕生日を思い出すのだろう。だが、カミューだけは。 自分だけを祝ってくれる。 なんて幸せなことだろう。 「マイク?」 グラス片手にぼうっとしていたマイクロトフにカミューは声をかける。マイクロトフはその声に我に返ると、いままで考えていたことの内容に赤面して、照れ隠しのようにグラスを一気に傾けた。 「おいおい、そんなに一気に飲んだら……」 カミューのあきれた声に応えず、マイクロトフはうつむいたまま空になったグラスをカミューに差し出す。カミューは苦笑いしてワインを注いでやりながら、 「どうでもいいけど、酔いつぶれないでくれよ?」 夜はこれからなんだから……と色を含んだ声で囁かれ、マイクロトフは思わずバッと顔を上げた。自分をみつめる琥珀色の瞳には限りない優しさと……まぎれもない情欲の炎。ランプの灯りに揺れて、潤んでいるようにもみえる。 「今夜は……ゆっくり、ね?」 艶然と微笑まれて、マイクロトフは一気に酒が回ったようにくらくらしてきた。 「……お、まえ、というやつは……」 真っ赤になった顔を片手で覆ってマイクロトフがつぶやくと、カミューは手を伸ばして顔を覆っている手を掴み、自分の方へ引き寄せる。 「だって……。贈り物にももちろん愛を込めているけど、いちばん想いを伝えられるのはベッドの中だと思うし……」 言いながらそっと指に口づける。マイクロトフはさらに赤くなりながらも振りほどこうとはしなかった。その様子にカミューは嬉しそうに微笑んで、目を閉じてもう一度ゆっくりと口づける。 「愛してるよ……。 俺は信奉者ではないが、おまえがこの世に生を受けたことが、俺と会わせてくれたことが、神のおかげだというなら、感謝しよう」 「違うぞ、カミュー」 「え?」 やんわりとした口調でだが否定されて、カミューは驚いて目を開けた。目の前のマイクロトフは口調のまま穏やかに微笑んでいる。 「俺たちは自分の足で歩き、出会い、理解しあい、そして……愛、し合った。そうじゃないのか?」 最後の方はちょっと照れくさそうに言うマイクロトフに、カミューは見開いていた目をゆっくりと細めた。 「そうだな……。 では……おまえが生まれたこの素晴らしき日に」 感謝しよう…… 二人はテーブル越しにキスを交わした。 今日は聖なる日。でも二人にはそんなことは関係なかった。 ただ一人の大切な人の誕生を祝う日……。 Happy Birthday |