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ひょんなことからデュナンの新都市同盟軍のリーダーを務めている少年と出会い、そのまま新都市同盟軍に参入したゲオルグ・プライムは、本拠地となっているノースウィンドウ城の周りを探索していた。ハイランド王国軍と戦っている新都市同盟軍は、普通の人間だけではなく、コボルトやウイングボードなどさまざまな人種の混じった異種多彩な集団である。その中心となっているのは、宿星と呼ばれる不思議な縁によって集まった人間たちであった。 ゲオルグはあんな山奥であの少年と出会ったのは運命だったのだと柄にもなく考える。ゲオルグもまたその宿星の一人であったのだ。彼にとっては2度目の星の導きである。12年ほど前、ファレナ女王国という国で王子を支え、反乱軍と戦ったことがあった。そのときとは雰囲気も状況も違うというのに、どこか懐かしさを感じさせる。 「ゲオルグ殿」 不意に名を呼ばれ、ゲオルグは足を止めた。振り返ると2人の青年が近づいてくる。まだ同盟軍に参入して日が浅く、ほとんどの人間と面識がないゲオルグは、青年たちに見覚えはあっても名前まではわからなかった。ただ、各地を旅しているゲオルグには2人の服装で、彼らの出身地がわかった。鮮やかな赤と青と白を基調とした制服は、デュナンの北に位置するマチルダ騎士団のものである。2人がまとっている制服は他の騎士たちとデザインが違うことから、恐らく上位の者なのだろう。 そう分析していると、青い制服を着た青年がどこか緊張した面持ちで口を開いた。 「あ、あの、おれ……私と剣を交えていただけませんか」 いきなりの申し出にゲオルグは軽く面食らう。相手の意図がわからず黙っていると、隣の赤い制服の青年が苦笑して口を挟んだ。 「マイクロトフ、自己紹介もせずにいきなり本題に入っては失礼だろう」 「あ……」 指摘され、自分が先走った行動を取ったことに気付いたのだろう。青い制服を着た青年は黒髪を恥ずかしそうにかいた。そんな彼に赤い制服の青年は優しげに目を細め、ゲオルグに向き直る。 「失礼しました。 私はマチルダ騎士団、元・赤騎士団長カミューと申します。こちらは同じく元・青騎士団長のマイクロトフです。 二刀いらずのゲオルグ、と名高きお方にお会いできて光栄に思います」 涼しげな笑みを浮かべながら軽く頭を下げるしぐさは、騎士というより貴族のようにさまになっていた。その隣でマイクロトフと紹介された青年も慌てて頭を下げる。 「元、というのは?」 問いつつもだいたいの事情は旅先でもゲオルグの耳に入っていた。我ながら少し意地悪な質問かと思ったが、カミューと名乗った青年が笑みを崩すことはなかった。 「ええ、我々はマチルダ騎士団を離反してこちらに参入致しましたので」 今は騎士ではないのですよ、とあっさりと答えてみせたが、彼らが騎士団に誇りを持っていることは今でも制服を身に着けていることからよくわかる。その誇りを捨ててでもこの同盟軍に参加している、というのはゲオルグの興味を誘うには十分だった。ゲオルグは改めて2人を見比べる。 青い騎士服をまとった青年・マイクロトフはがっしりとした体格からいって相当鍛えているのだろう。こうして話をしていても姿勢を崩すことなく、表情も引き締めたままというあたり、いかにも真面目といった感じで騎士然としていた。それでいて先程の行動を見るといささか不器用で直情タイプなのだろう。 それに比べて赤い騎士服の青年・カミューは正反対ともいえるタイプに見えた。マイクロトフに比べれば少し細身だが、無駄のない鍛え方をしているのがゲオルグにはわかる。柔らかい物腰を崩さずにこやかに対応するが、そのくせ人との距離をうまく保っていた。本音を人には見せず、何事にも器用に立ち回るタイプなのだろう。 これほどまでに対照的な2人が組んでいるのもおもしろい、とゲオルグは思いながら話を進めた。 「で、その元・騎士が俺に何の用だ? 剣がどうとか言っていたが」 「ああ、申し訳ありません。私の相方はどうも目先のことに夢中になってしまう傾向がありまして。餌を目の前にした猪のようなものです」 カミューは言いながら、からかうような視線を相方に向けた。すると、マイクロトフが頬を赤らめ、「カミュー!」と小声で抗議の声を上げる。 そんなやりとりにゲオルグは、ふと既視感のようなものを覚えた。昔、こんなことがなかっただろうか。 内心首を捻ったが、世界各地で数え切れないほどの出会いと別れを繰り返している。いちいちそんなことを覚えているはずもなかった。 「ゲオルグ殿、マイクロトフと剣の手合わせをしていただけませんでしょうか。マイクロトフはどうも強い相手と剣を交えるのが好きなようでして……」 私はごめんですけどね、とカミューは軽く肩をすくめる。 「お、お手を煩わせてしまうのは十分承知しています! ですが、貴方の剣から何かを学ばせていただきたいのです!」 マイクロトフが直角に近い角度で頭を下げた。ゲオルグはようやく得心する。自分の名を聞いて興味を持たれるのは初めてのことではない。望んだわけではないが、それだけ名の広まることをしてきたのは事実なのだから、それを煩わしく思うことはなかった。 「そうだな。俺でよかったら相手になろう」 ゲオルグが頷くとマイクロトフは顔を輝かせた。そうすると急に子供のような無邪気な表情になる。 「本当ですか?! ありがとうございます!!」 「昼からでいいか? 腹が減ってはろくに力も出ん」 「は、はい! もちろんです! 腹が減っては戦もできないですよね!」 拳を握らんばかりに意気込んで話すマイクロトフの隣でカミューが呆れたように呟いた。 「戦に行くわけじゃないだろう……」 「うるさいぞ、カミュー!」 「まあ、腹が減っていたらいつもの半分の力も出せないのは誰かさんのほうだからね。よかったじゃないか」 「う、うるさい!」 口では完全にマイクロトフのほうがやり込められるらしい。漫才のようなやりとりに思わず笑いがこみ上げそうになったゲオルグだが、そんな2人にまた記憶の琴線が引っかかった。2人のまとっている色彩も何かを呼び起こすのである。 正反対だが仲の良い2人……。片方が熱血タイプでもう片方がクールなタイプ……。そして、赤と青……。 「あ」 引っかかる部分を心の中で挙げてみると、ようやく思い当たった。12年前、共に戦った宿星の中にこんな二人組がいたことを。彼らとはまとっている色が逆だったが、年頃も近いし、よく似ているではないか。ひょっとしたら背負っている星も同じなのかもしれない。 ゲオルグがようやくずっとつきまとっていた既視感の正体に辿り着き、昔を懐かしんでいると、カミューが人当たりのいい笑みを浮かべて軽く頭を下げる。 「それでは、ゲオルグ殿、よろしくお願いします。できれば怪我をさせない程度に加減していただければありがたいのですが」 涼しげな態度はあの男にそっくりだ。相棒や心を許した何人にかはくだけた様子を見せていたようだが、人前では完璧に礼節を尽くし、隙を見せることなどなかった。しかし……。 ゲオルグはひとつ気になり、じっとカミューの整った顔を凝視する。カミューは柔らかい笑みを浮かべていたが、なかなか外されない視線にさすがに訝しげに、だが、顔はあくまで笑みを浮かべたまま問いかけた。 「………………何か?」 「おまえは女装はしないのか?」 「は?」 |