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外はしとしとと雨が降っている。 カミューとマイクロトフはベッドの上にいた。とはいえ、素っ裸なわけではない。今は真昼間である。狭い部屋の中では居場所はベッドの上くらいしかなく、私服姿の2人はぼんやりと窓の外を見ていた。 「俺、同盟軍に入ってよかったなぁって思うよ」 カミューはマイクロトフの腰に腕を回し、肩にもたれかかっていた。最初は振り払おうとしていたマイクロトフだったが、激しい攻防の末、とうとう根負けし、好きなようにさせている。 「……なぜだ?」 「こうやって……2人同じ日に休みが取れるなんて」 カミューは猫のように目を細めて、すり、と肩に頬をすり寄せた。その亜麻色の髪にマイクロトフの大きな手が絡むとますます目を細める。こんなふうにべったりとくっついていても以前ほど抵抗がないのは『騎士団長』という肩書きがなくなったからだろうか。常にトップとしての自覚と責務がまとわりついていたあの石造りの城から離れ、最近になってマイクロトフもようやく少しずつ開放感を味わえるようになってきたとカミューは思う。 「そうだな……」 マイクロトフは目を閉じてカミューの柔らかい髪に頬を寄せた。目を閉じると雨の音がいっそう耳をつく。だが、雨の音は不思議と心を和ませた。 騎士団に居た頃は、特に団長職に就いてからは、2人が同じ日に休みが取れることなどほとんどなかった。赤騎士団長と青騎士団長の2人が同時に休むなど、社長と副社長が休むようなものであり、騎士団のトップが機能しなくなってしまう。会長たる地位の白騎士団長は威張り散らすだけで実務ではなんの役にも立つはずもない。よって、片方の団長が休めばもう片方の団長が両団の面倒を見る。それはごく自然なことであった。 「こんな不謹慎なことを言ってはいけないのかもしれないけど」 カミューはちょっと笑ってマイクロトフの肩に身体を預ける。 「トップじゃないのって気が楽だね」 当然返ってくると思っていた叱責は飛んでこなかった。あれ、と思って上目遣いにマイクロトフを見ると、その顔にはなんの感情も浮かんでいないかのように見える。しかし、直情型のマイクロトフが無表情になっている方が普通ではない。 「マイクロトフ……? お、怒った?」 「……怒った」 「ご、ごめ……」 「違う。一瞬でも同意してしまった自分に、だ」 マイクロトフは渋面になるとカミューを見下ろした。 「俺たちがこんなことではいけない。城主殿は年端もいかぬ少年なのだから」 「うん。そうだね」 自分たちより10歳も年下の少年がこの同盟軍を率いているのだ。協力しているのは大人たちとはいえ、彼の重圧は計り知れない。それを少しでも支えてやりたくて自分たちがここにいるのではないか。 「こんなことを考えてしまうのはたるんでいるからだな。よし、道場で剣でも振ってくるか」 そう言って、カミューを押しのけて立ち上がろうとするマイクロトフに、カミューは慌てて追いすがった。 「待った! 久々の2人一緒の休日にちょっと気が緩んだだけだよ。マイクロトフがたるんでいるわけがないじゃないか!」 カミューは、折角いいムードだったのに、と必死に引き止めにかかる。すがるような目でマイクロトフを見つめていると、盛大なため息と共に身体から力が抜けた。カミューは逃がすまじ、と腕に自分の腕を絡め、自分のほうに引き寄せる。 「素振りなんていつでもできるでしょ。今日は今日しかできないことをしようよ」 「……何をするのだ?」 問う声が物凄く嫌そうだったのはカミューの行動パターンをよくわかっていたからであろう。だが、カミューはそんな意図ではないと笑って首を振る。 「マイクロトフがやる気まんまんだったら喜んで付き合うけどね」 「馬鹿者!!」 「まあまあ。それより、さ」 宥める口調で言ったかと思うと、どさり、とベッドに押し倒されて、マイクロトフは話が違う、と目を剥いた。しかし、カミューもそのまま隣に寝転ぶ。 「……なんだ?」 「昼寝」 「昼寝だと?!」 耳元で遠慮のない声量で怒鳴られ、カミューは顔を顰めた。 「普段はできないでしょ」 「だからってこんな真昼間から……!」 マイクロトフが、怠慢な真似はできない、とばかりに目を吊り上げると、カミューはにやりと笑う。 「んー? ひょっとして体力があり余っているのかな? 昨夜のじゃ足りなかった?」 「……ぐうぐう」 青筋を立てたまま目を閉じ、寝たふりをしはじめたマイクロトフにカミューは苦笑いし、頬に軽く口付けた。その頬がわずかにやつれているのが毎日の激務を思わせ、少し胸に痛い。 めまぐるしく変わる戦況に、戦力の要となっている2人に気の休まる暇など皆無といってよかった。夜、眠っていても互いの眠りが浅いことに気付くほど、2人とも気を張り詰めた日々が続いた。城主もそのことを気にかけてくれたのか、「今日はお2人とも休んでください」と言ってくれたのだが……。 そんなことを思っていると、腰にマイクロトフの腕が巻きついた。 「おまえのほうこそちゃんと寝ろ。……少し痩せたのではないか」 ぶっきらぼうに言いながら、もぞ、と身動きすると2人の距離が縮まる。カミューはわずかに目を見開いたが、すぐに嬉しそうな笑みに変わった。 ほら。こんな休日もいい。 雨の音が耳に優しい。 抱き合うように寄り添った2人は、いつしか穏やかな眠りについていた……。 |