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目と目で会話する、という言葉がある。 長年付き合っている相手と特に言葉を交わさなくても互いの目を見れば意思が通じる、ということだ。 自分にも腐れ縁とでも言おうか、なりゆきで数年間、共に旅をしてきた男がいる。長い間一緒にいるのだから、そいつとの息もいやがおうにも合ってきて、戦闘などでは目を交わすだけで協力し合って攻撃を繰り出すこともある。 それはわかる。わかるのだが…………。 こいつらはどう見てもおかしいだろう!!! フリックは心の中で絶叫しながら目の前の光景から視線を逸らした。なんだか気が遠くなってきたような気がする。 「……フリックさん、フリックさんってば!」 「どうしたの? 青い顔して」 傍らにいた少年少女に声をかけられ、フリックの魂はかろうじて戻ってきた。 「どうしたっておまえら、アレを見てなんとも思わないのか?!」 と、目の前の光景を指差す。 「なんとも思わないって……」 「美しい光景だよね?」 新都市同盟軍のリーダーの少年とその義姉ナナミは顔を見合わせて不思議そうに首を傾げた。フリックは伝わらなかったことに、こいつらは大物だ……と、がっくりと肩を落とした。 新都市同盟軍のリーダーの少年をはじめとする一行はマチルダを訪れていた。 ハイランド王国軍が都市同盟の領地を次々と侵略していく中、事実上崩壊した都市同盟に代わって立ち上がったのが、真の紋章を宿す少年をリーダーとした新都市同盟軍だった。しかし、壊滅寸前の都市同盟の方々から集まった彼らではハイランドと真っ向からぶつかれる戦力もない。そこで、かつての都市同盟が存在していた頃に軍事的役割を担っていたマチルダと同盟を結び、少しでもハイランドに対抗しうる状況を作ろうという目的があったのだが、マチルダ騎士団の対応はひどいものだった。最高権力者である白騎士団長はひどく保守的な男で、自分の領地さえ無事ならば余計な揉め事は起こしたくない、という徹底した事なかれ主義で、城主たちの言葉に耳を貸そうともしなかったのだ。 しかし、そんな方針に真っ向から刃向かって騎士団を離反した2人がいた。その2人は赤騎士団、青騎士団を率いる立場にありながら、上司の考えに反発し、ハイランドと戦おうとしている新都市同盟軍に参入すると言ってくれたのだ。上司の怒りを買い、裏切り者として追われることとなった2人はフリックたちと共に城を脱出した。 ……そこまではよかったのだが。 無事、国境近くまで逃げ延びると、そこには新都市同盟軍の鬼、いや、鬼才の軍師・シュウが兵を率いて迎えにきてくれていた。どうやらこんな事態になることを予想していたらしい(だったら前もって言ってほしい、とフリックは思うのだが、言ったところで鼻で笑われ、胃が痛くなるような嫌味で返されるのが関の山なので、それを口にすることはない)。そこに、城を脱出する際に、少しでも味方を増やしたい、と城に戻っていった赤騎士団長が合流した。彼の説得に応じて、赤・青両騎士団の約半数がついてきてくれたとのことだった。 …………そこまではよかったのだが。 問題はその後だった。 再会(といっても1時間たらずだ)した赤騎士団長と青騎士団長は互いの無事を喜びあった。まあ、それはわかる。だが、「無事だったか!」「ああ、おまえこそ」そんな一言の会話で済むことだと思うのだが、どうしたことか、向かいあった2人は名前を呼び合うだけで、他に言葉を発しない(だから、喜び合った、というのもフリックの勝手な想像だ)。 ただ、互いをじーっと見つめたまま、ときおり名前を呼び合う。その光景の異様さといったら……! 「カミュー……」 「マイクロトフ、何も言わなくてもわかっているよ」 にっこり。 何か言おうとした青い制服の男をさえぎるように、赤い制服を着た男が見惚れるような笑みを浮かべた。その笑みに青い制服を着た男が少し照れたように目線を逸らす。心なしか、2人の周りがピンク色の空気で彩られてきたようにさえ見えてきた。 「こ、こいつら、本当に仲間にするのか……?」 「何を言ってるの、フリックさん! 当たり前じゃないですか!」 げんなりとしたフリックが問うと、どうも赤い騎士に憧れを抱いてしまったらしきナナミが力説してきた。確かに赤い騎士は文句なしの男前で、さぞかし女性にもてるだろう。だが……。 「ウチの軍は悲しいくらいに人手不足じゃないですか。騎士の皆さんが仲間になってくれるなんて心強いですよ!」 リーダーの少年が言うことは誰が聞いても真っ当な正論であった。これはどう考えても喜ぶべき事態なのである。それはよくわかっているのだが……。 こいつらはヤバイ……。絶対ヤバイぞ……。 フリックの勘がそう告げていた。 神様、どうかこの2人とあまり関わらずに済みますように……。 しかし、フリックはこの後、城では部屋が隣同士となり、あまつさえ協力攻撃のメンバーに選ばれるのであった。 悲しいかな、この男に微笑む神は貧乏(くじ)神くらいなのである……。 |