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「そういえばマイクロトフが泣いたところって見たことないな」 カミューの唐突なセリフにマイクロトフは嫌そうに眉を顰めた。 「なんだ、いきなり……」 「いや、俺はさ、おかげさまで命に代えても惜しくない相手に恵まれて、その人のことで自分でも信じられないくらい何回も泣かされてきたけど、おまえが泣いているところって見たことないなぁって」 「……………………」 カミューの言葉にマイクロトフの眉はますます寄っていく。確かにカミューの泣く姿は幾度か目にしたことがあった。普段は憎らしいくらい冷静なくせして、こと自分が絡むと呆れるくらい思い込みが激しくなり、感情が昂りやすい。嬉し涙のときもあるのだが、そうでないこともしばしばあった。物事を悪いほうへ悪いほうへと想像していくものだから、勝手な思い違いをし、それを説得するのに何度も苦労した。俺が信じられないのか、と問えば「誰よりも信じている」と応えるくせに、この関係に対してだけは驚くほど臆病なのだ。 だが、マイクロトフが苦々しく思ったのはそれだけではない。自分ばかりがかけがえのない相手と出会っていると言わんばかりの態度が心底憎たらしい。こっちにだってそれなりに思うところはあるというのに……。 しかし、そのことについて反論するのは恥ずかしすぎるため、それには触れずじろりと睨みつけた。 「男が泣くのを見て何が楽しい」 カミューほど整っている顔ならともかく、こんな面白みもない厳つい顔が泣いてみせたところで不気味なだけだろう、と思いながらマイクロトフが言うとカミューはわざとらしく目を丸くする。 「え、俺の泣く姿ってみっともなかった? 今度はマイクロトフの前で泣かないように気をつけよう……」 「おまえは顔が綺麗だからいいだろう……って、そういう問題ではなくてだな!」 「え、え、何、俺の顔を綺麗だと思っているの?」 つい口を滑らせてしまったことに突っ込まれたマイクロトフは、顔を赤らめながら誤魔化すように怒鳴った。 「だ、黙れ! そうじゃなくて! 男がむやみやたらと泣いてどうするというのだ!」 苦し紛れのセリフだったが、カミューはその言葉に顎のあたりを撫でながら曖昧に頷いた。 「うーん、確かにそれに関しては俺も同意するけどね……俺だって簡単に泣いたりするタイプじゃないし。むしろ、負けず嫌いなほうだから、人前で泣くのは絶対嫌だと思ってた」 自分のことだというのにどこか不思議そうに言ったカミューだったが、不意に目を優しく細める。 「でも、好きな人のことで泣いたりするのって悪くないということを知ったよ」 何か満ち足りたような笑みにマイクロトフは複雑な思いで眉を寄せた。泣くほど好きだと言われて嬉しくないわけではないが、マイクロトフがカミューのことで泣いたりしないのがなんとなく後ろめたい。だが、だからといってカミューのことでなんの感情も湧かないわけではないし、むしろ自分の心の大多数を占めている……。 そんなマイクロトフの心中など知る由もないカミューがからかうように言った。 「というわけで、おまえも泣いてみないかい?」 「泣くか!」 「えー、泣いてよ。俺のこと、愛してない?」 反射的に怒鳴ったマイクロトフにカミューは笑って首を傾げる。マイクロトフは憎たらしいと思いつつ唸るように低く応えた。 「……おまえが死んだら泣いてやる」 その答えにカミューは一瞬目を見開き、次いでニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。 「それは一生泣かせるわけにはいかないね」 |