〜包帯〜




 カミューとマイクロトフはベッドの上で向かい合っていた。ベッドの上、ということで色っぽいことをするのかといえばそうではない。いや、カミューはその気があったのかもしれないが、少なくてもマイクロトフにはこれっぽっちもなかった。
 マイクロトフは何やら真剣な面持ちでカミューの手元を見つめていた。
「違うぞ、カミュー! 肘まできたら捻って折り返すんだ。そうしないとほどけてしまうだろう」
「……ほどけないよ」
 カミューの気のない返事にマイクロトフはムッとしたように己の右腕を振った。すると、するするとマイクロトフの腕に巻きついていた白い布が生き物のようにほどけていく。
「あああ、何するんだよ!」
 カミューの抗議の声にマイクロトフは目尻を吊り上げる。
「カミューが基本どおりにやらないからだ! ほら、もう一度!」
 マイクロトフの叱責にカミューはため息を吐き、シーツに散らばった長い布を拾い集めた。

 2人が何をしているのかといえば、応急処置の練習である。それは、従騎士の彼らが実戦に参加したとき、一番初めに使う技術と言ってもよい。従騎士が戦場でいきなり前線に出ることはないため、後方支援が主な役目になるのだ。そのため、正騎士になるための直接の評価の対象にはならないとはいえ、充分大事な授業なのだが、カミューが一向に上達しないのだ。それは本人のやる気のなさが原因である。
 カミューの言い分としては、グラスランドに居た頃に基本的な処置の仕方は習っていたのだから、改めて覚える必要がない、というものだった。ただ、グラスランドに居た頃に習った処置はその場しのぎの必要最低限の手当てであり、授業で習ったような本格的なものではなかったため、現在、落ちこぼれの仲間入りをしているのである。それは普段、文武において優秀な成績をおさめている彼にとって、初めての転落ともいえた。だが、当の本人がまったく気にしていないのだから手に負えない。
 整った顔立ちから、一見、繊細そうに見えるカミューだが、実に大雑把である。正騎士になるための評価に関係ないのだから、どうでもいいか、という態度だった。それに比べて、不器用だが、基本に忠実なマイクロトフのほうは真剣に何度も繰り返し、見事合格点をもらっていた。
 見かねたマイクロトフが部屋に戻ってから自分を実験台にして付き合ってやっているのだが、終始この調子である。

「包帯なんか最後にきっちり縛ればそう簡単にはほどけてこないよ。だいたい、戦場でそんな悠長に巻いている暇があると思うかい?」
 一方的に怒られてばかりで嫌気が差したのか、カミューがどこか拗ねた口調で反論してきた。しかし、分が悪いのは明らかである。
「そうかもしれないが、知っているのと知らないとでは大きな差だぞ! こういうのは覚えておいたほうがいい」
 正論でぴしゃり、とやり込められ、深くため息を吐いた。
 カミューがグラスランドで学んだ応急処置は適切だが簡単なものだった。血が止まらなかったら傷口の少し上できつく縛れ、骨が折れていたら添え木をして固定しろ、そんなレベルである。しかし、いざとなればそれだけで充分なはずであった。
 反論はあきらめたが、態度でやる気がないことを示すカミューにマイクロトフは歯噛みする。
 確かにこんなふうに本格的な手当てをすることなどあまりないかもしれない。だが、カミューが怪我をしたときに周りに誰もいなかったら、自分で手当てをしなくてはいけないではないか。そのときに適当な処置をして破傷風にでもなったらどうするのか。
 授業のため、というよりカミューのために心配しているというのに、それを口にすると「おまえならまだしも、俺がそんなヘマをすると思うかい?」などと馬鹿にされそうで言えなかった。しかし、どうあっても手当ての仕方は覚えていてもらいたい。
 マイクロトフはやる気なさそうに包帯を弄んでいるカミューの顔をじっと見つめた。
 こうなったらいちかばちかの賭けに出るしかない。効果がなかったら恥をかくだけだが、それでもこれ以外の手が浮かばなかった。
「カミュー……」
「んー?」
 気のない返事に不安が広がりつつ、マイクロトフは覚悟を決めて口にする。
「ちゃんとできたら……キ、キスしていいぞ」

 きらん

 ……カミューの目が光ったように見えた。



「いや、マイクロトフのおかげで完璧にマスターできたよ♪」
 嬉々とした表情で包帯を片付けるカミューに、ベッドに仰向けに横たわったマイクロトフがぐったりと応える。
「どういたしまして……」
 効果がありすぎるのも問題だ、と朦朧とした意識の中でマイクロトフは思った。






自分が獣(赤)にとってどれほどのエサなのか知らない青
なんだかんだいって無意識に赤中心に考えている青が萌え

2006/4/17


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