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マイクロトフとカミューは目の前の物体をじっと見つめていた。 いつになくその顔が真剣なのは、この初めて見る物体が食べられるものだと聞いたからであろうか。 「これ、『キウイ』といって、南の方の果物なんだそうです。とっても美味しいので食べてみてくださいね!」 そう言って城主が元気良く差し出したものはあまりにも奇異な姿をしていた。 卵くらいの大きさである『それ』にはびっしりと毛のようなものが生えていて、色も表現しがたい緑色と茶色を混ぜたような不気味な色をしている。食べ物には好奇心の強いマイクロトフが恐る恐る指で触れてみたが、毛の硬いような柔らかいようななんともいえない感触に慌てて指を引っ込めた。 「本当に……食えるのだろうか」 いや、城主がくれたのだから食べられるに決まっている。だが、これを果物だと言われたところで、にわかには信じがたい。眉を顰めるマイクロトフにカミューは、マイクロトフがこんなに食べ物に警戒するなんて、と苦笑しながらキウイとやらを手に取り、匂いを嗅いでみた。その拍子に鼻に産毛というには少し固い毛がちくっと刺さる。 「どうだ?」 「うーん……特に果物っぽい匂いはしないかな」 カミューの言葉にマイクロトフの眉はますます寄った。しかし、カミューはこれでも気を使って控えめに表現したのである。はっきりいって食べ物らしき匂いなどしない。言うなれば、草の匂いに近い。しかし、それを正直に言ったところでマイクロトフをますます困らせるだけである。 「とりあえず……割ってみようか」 中を見てみれば案外美味そうに見えるかもしれない。カミューの提案にマイクロトフも頷いた。 「そうだな」 カミューはテーブルに置いてあった果物ナイフを手にし、キウイを見つめる。楕円形のそれを縦に切るべきか横に切るべきか少し悩んだが、横に切るとどちらが大きいとかで揉めそうな気がしたので縦に切ることにした。ナイフを縦に入れると意外と柔らかい手ごたえでナイフが通る。 「む……」 「これは……」 外見もおおよそ果物らしくなかったが、中もまた奇妙なものだった。真っ二つに割ってみると中から出てきたのは、鮮やかなまでの緑色の実だったのである。真ん中には芯なのか白い棒状のものが通り、その回りにはゴマのような黒いつぶつぶがびっしりと生えていた。 「これは……種かな」 カミューがためらいがちに黒い粒を指差す。緑色の実に黒い粒など不気味なことこのうえないが、果物なのだからそれくらいしか思いつかない。 「まだ……熟していないのではないか」 普通、果物の実といえば暖色系のものが多い。緑色の実といえばメロンもそうだが、メロンの緑は黄色に近い暖色系である。こんな冴え冴えとした緑色など見たことがなかった。せいぜい思いつくのは熟する前のバナナである。 そう思ったマイクロトフだったが、城主が熟していないものをなんの警告もなしに「食べて」と言うはずがない。つまりはこれが完熟した状態なのだろう。 「……………………」 「……………………」 いまいち会話が弾まない2人は顔を見合わせた。2人とも微妙な顔つきである。沈黙が降りた後、先に口を開いたのはやはり食べることが好きなマイクロトフのほうだった。 「よし、食べるぞ」 「おっ、さすがマイクロトフ。男らしいねぇ」 カミューはにやりと笑うとテーブルに両肘を乗せ、頬杖をつく。どうやら傍観を決め込むようだ。マイクロトフは半分になった緑色の物体を手にすると、しばしじっと睨むように見つめていたが、目を閉じ、思い切ったように齧りつく。 「……………………」 「……………………美味い」 キウイから口を離したマイクロトフが咀嚼しながら呟いた。カミューは軽く目を瞠る。 「へえ?」 自分ならまだしも、マイクロトフが簡単に嘘をつくとは思えない。カミューは意外な感想に軽く驚いた。キウイを手にするカミューにマイクロトフが勧める。 「少し酸っぱいが、ほどよい甘みと酸味だ。種の歯ごたえがおもしろいというか、なんというか……けっこういいぞ。おまえの好きそうな味だ」 上手く表現できないのか、微妙な言い回しにカミューはいまいちイメージが掴めなかったが、マイクロトフの言うとおり酸味があるフルーツは好物だった。とりあえず食べてみることにする。 「ああ、皮は食えないからな」 マイクロトフが付け足したが、言われなくてもこんな毛の生えた皮など食べたくもない。カミューは緑色の実にかぶりついた。 「……美味いじゃないか」 やはり少し早かったのか、実は少し固く、酸味が強かった。しかし、味わったことのない甘酸っぱさはなかなか好みの味といえる。不気味さを演出していた黒い種もしゃりしゃりとなんともいえない歯ごたえを与えた。カミューは、皮を剥くか、スプーンで食べるのが普通なのかな、と思いつつ、2口、3口と齧りつく。そして、2人とも食べ終わると、残骸となった皮を皿に置いた。 「トニー殿の畑にあるのだろうか。後でまたもらってこよう」 マイクロトフの言葉にカミューは頷いたが、ふとマイクロトフの異変に気付く。 「マイクロトフ、歯に種がくっついてる」 「む?」 あんなにたくさんあったのだから、ひとつぐらいは歯に挟まっていてもおかしくはない。だが、子供のようだ、と赤面する思いでマイクロトフは口に手をあてた。行儀が悪いが、口の中で舌で取るしかない。 と、 「取ってあげるよ♪」 言うが早いか、カミューはその手を掴み、唇から引き離すと代わりに自分の唇を押し付けた。 「んーーーーっ?!」 ぎょっと目を見開き、くぐもった声を上げるマイクロトフにかまわず、カミューは舌を侵入させ、マイクロトフの歯列をゆっくりと辿る。舌先が小さな種の感触を捉えた。何度も歯列をなぞっていると、やがて種が歯から取れる。カミューはそれを器用に自分の舌先に乗せ、唇を離した。 しゃり、と小さな種を噛む音がカミューの口の中から聞こえる。 「ごちそうさま」 悪戯っ子のように目を細めるカミューに真っ赤になったマイクロトフが拳を振り上げた。 「おっ、おまえというヤツは〜〜〜!!!」 「なんだよ。ちゃんと取ってやっただろう?」 「そういう問題ではない!!」 次の日からハイ・ヨーのレストランでは、食後のフルーツとして輪切りにされたキウイが出されるようになった。2人は、自分たちと同じような反応をするテーブルを見つけては顔を見合わせて笑った。 ……そして、マイクロトフがことさら黒い種を慎重に食べるようになったのは余談である。 |