〜無邪気〜




 うららかな春の光が降りそそぐロックアックス城に、新しい顔ぶれが集っていた。
 今日はマチルダ騎士団の入団式。厳しい入団試験を通った少年たちが緊張と期待を胸に初入城したのだ。彼らは従騎士として様々なことを学び、正騎士を目指して努力していくことになる。
 団長に就任して初めての後輩たちを迎えたカミューとマイクロトフは、入団式に主賓として参加した。初々しい少年たちを前に団長として挨拶をするのは少々気恥ずかしいところもあったが、10年前の自分が向こう側に立っていたことを思うと誇らしくもある。

 ようやく形式ばった入団式が終わり、解放された二人は執務室に戻るため廊下を歩いていた。
「ああ、なんか昔を思い出したなぁ」
「そうだな」
「純粋に騎士に憧れを抱いている彼らは出会った頃のおまえみたいだったよ」
「入団したての頃のおまえは可愛くなかったしな」
 入団当初のカミューは、見た目は文句なしの美少年だったが、性格はけっこうひねくれていた。それを嫌味に言ってみたところで、当の本人はしれっと笑ってみせるだけである。
「人見知りするもので」
 よく言う、とマイクロトフは鼻を鳴らした。笑いながらその横顔を見ていたカミューだったが、ふと涼しげな表情を作って流し目を送る。
「そういえば、随分と羨望の眼差しを集めておりましたな、凛々しき青騎士団長殿」
「……それを言うなら、どこぞの絵物語に出てくるような華麗な赤騎士団長の姿に見惚れていた輩のほうが多かったと思うがな」
 カミューのからかいにマイクロトフは憮然と言い返した。そのセリフにカミューが、おや、と片眉を上げる。
「おまえがそんなふうに思っていてくれてるとは思わなかったな」
「おまえは見てくれ『は』いいからな」
 わざわざ『は』を強調して言うマイクロトフにカミューはくすくす笑いながら、気取ったしぐさで腰を折った。そんな気障ったらしいしぐさも様になるのがこの男である。
「それはそれは光栄です」
「ぬかせ」
 軽口の応酬も慣れたもので、二人はあれこれと他愛のない会話を交わしながら歩いていく。と、曲がり角を曲がったとたん、内側を歩いていたマイクロトフに誰かが勢いよくぶつかってきた。
「わっ!」
「おっと」
 走っていたらしい相手はマイクロトフに弾き飛ばされ、尻餅をついた。マイクロトフはわずかによろけたが、転ぶほどの衝撃ではない。見ると、マイクロトフにぶつかってきたのは真新しい従騎士の制服を着た少年だった。まだ成長期前の身体はそれほど大きくなく、マイクロトフの胸のあたりしかない。
「あいたた……」
「おまえ、何やってんだよ! あっ……!」
 後ろから追いかけてきた別の少年が転んでいる少年に呆れたように言ったが、ぶつかった相手を見て驚きの声を上げた。それにつられて尻餅をついていた少年も顔を上げ、同じように声を上げる。
「大丈夫か?」
 マイクロトフは床に座り込んでいる少年に手を伸ばそうとしたが、少年がそれより早く勢いよく立ち上がる。
「はっ、はい! す、すみませんでした!!」
 まだ入団したての彼らが真っ先に顔を覚える人物といえば、上司より何より、騎士団長である。しかも、2人が並んでいるなど、少年たちに取っては夢のような光景であった。ぴん、と爪先立ちしそうな勢いで背筋を伸ばす少年たちにマイクロトフは苦笑する。
「元気が良いのはいいが、ちゃんと前を確かめるようにな」
「は、はい!!」
 ぶつかった少年も一緒にいた少年も肩を力ませて返事をした。カミューはその様子にくすくすと笑っていたが、振り返ったマイクロトフにギッと睨まれ、手をはたかれる。その手は、マイクロトフがよろめいた際に腰を支え、そのまま添えられていたものだった。少年たちからは見えない位置だったが、だからといってそんな恥ずかしい格好をいつまでも許しておけるはずがない。
「何をするか!」
「いいじゃん、減るもんじゃあるまいし」
 今の今まで気付かなかったくせに、とカミューは悪びれずに肩をすくめる。
「いいわけあるか! 人前だぞ!」
 小声でやりとりを交わしていると、ぼうっと2人の若き団長を見つめてた少年たちが思い切ったように声をかけてきた。
「あっ、あの!」
 一瞬、少年たちの存在を失念していたマイクロトフは会話が聞こえたのかとギクッとしたが、そうではなかったらしい。少年たちは頬を上気させて、拳を握り締めた。
「おっ、俺たち、マイクロトフ様とカミュー様みたいに2人で団長になるのが夢なんです!」
「一生懸命がんばります! よろしくお願いします!!」
 そう言った少年たちの顔は希望に輝いていた。そして、ぺこり、と勢いよく頭を下げてバタバタと走り去っていく。その後ろ姿を見送っていたカミューが顎に手をあてて感心したように頷いた。
「微笑ましいねぇ」
「彼らに恥じないよう、精進しないとな」
 自分がそうだったように、従騎士にとって団長とは憧れの存在となるのだから、不甲斐ない真似はできない。そう気を引き締めるマイクロトフだったが、カミューはにやにやと人の悪い笑みを浮かべていた。
「だけど、俺たちのようになるってそんな簡単じゃないよねぇ?」
「何を言う。誰だって努力すれば不可能など……」
「こういうことだよ」
 カミューはマイクロトフの腰を抱き寄せ、すばやく頬に口付けた。
「なっ……!」
「団長にはなれるかもしれないけど、『こういう』関係になるのは簡単じゃないでしょ」
 悪戯っぽく笑うカミューの頭に正義の鉄拳が炸裂したのは言うまでもない。






道を誤るんじゃないぞ、とマイクロトフは思ったのでした(笑)

2005/9/28


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