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「カミューの髪ってけっこう好きだな……」 唐突に呟かれたセリフにカミューはぽかん、と口を開けて顔を上げた。 ここはカミューの執務室。急ぎの書類を青騎士団長自らが届けに来、そのまま仕上がるのを待っているという状況だった。 マイクロトフが直々に持ってくるだけあって、書類の内容は重要かつ複雑で、カミューが集中して判断していた最中にこの一言である。さすがのカミューも一瞬呆気に取られた。だが、今のはひょっとして褒められたのだろうか、と思うとちょっと心臓が高鳴る。なにせ、マイクロトフという男はまったくといっていいほど色めいたことを言ってくれない。 「そ、そうかい?」 柄にもなくわずかに頬を染めたカミューはなんとなく自分の髪に触れてしまう。そんなカミューにマイクロトフは頷いた。 「ああ。柔らかくて手触りがいいし、日に透けた色がとても綺麗だ」 「あ、ありがとう……」 ストレートな賛辞の言葉にカミューは、これは夢だろうか、と思う。彼がこんなふうにはっきりと『好き』と言ってくれたことがあっただろうか。いや、ない。 有頂天になりかけたカミューだったが……、 「って、ちょっと待ったー!!」 重大なことに気付き、両手を机に叩きつけて立ち上がった。その剣幕にマイクロトフが驚いたように目を丸くする。 「な、なんだ?」 「ひょっとして俺の好きなところって髪だけ?!」 「は?」 「普通、この整った顔とか、この均整の取れた立派な体つきとか、このいつも紳士な性格とか、そっちのほうがポイント高いだろう?!」 胸に手をあてて力説するカミューにマイクロトフは冷ややかな視線を向けた。 「別に男の顔に興味はないし、騎士ならば体が鍛えられているのは当然だし、だいたい、おまえの性格のどこが紳士だと言うのだ」 あっさりとすべてを否定されるとカミューはショックを受けたようによろめき、机に突っ伏す。 「ひどいよ、マイクロトフー!」 「いいから、さっさと書類を片付けろ」 にべもなく言い捨てるマイクロトフにカミューは突っ伏したまま、冷たい冷たい、といやいやをするように頭を振った。マイクロトフは呆れ顔でその様を見ていたが、やれやれ、とため息を吐いて机の前に歩み寄る。その気配を感じ取ったカミューは、「いいかげんにしろ」という言葉と共に殴られる思い、慌てて顔を上げようとした。が、マイクロトフの手が伸びるほうが早い。反射的に思わず目を閉じるカミューだったが、 「ほら、早く終わらせてくれ」 と、くしゃり、と優しく髪を撫でられて目をぱちくりさせる。そんなカミューをマイクロトフはどこかおかしそうに見つめ、わずかに目を細めた。 「おまえの判断を聞きたいのだ。頼む」 「う、うん……」 ぽんぽん、と宥めるように頭を軽く叩かれ、カミューは驚きから抜け出せないままとりあえず書類に向かう。好きな人に頼られて張り切らないようでは男じゃない。 しばらく部屋にはカリカリとペンを走らせる音だけが響いた。そして、ようやく書類が完成し、マイクロトフに差し出す。 「こんなものかな。赤のほうでもいろいろと手配しておくよ」 「そうか。すまない、助かった。やはり、おまえはこういうとき頼りになる」 マイクロトフは書類を受け取り、軽く笑うとカミューの髪にそっと口付けた。 「急いでくれた礼だ」 そう言うと、呆然としているカミューを置いて執務室を出て行こうとしたが、最後にドアから顔だけを出す。 「おまえの髪は『けっこう』好きだが、『けっこう』じゃない好きなところもいろいろあるぞ。こんなふうに頭の回転の早いところとかな」 にやり、と悪戯っ子のような笑みを浮かべ、マイクロトフは今度こそ執務室を出て行った。バタン、というドアの閉まる音で我に返ったカミューは再び机に突っ伏す。頬が火照っているのがはっきりわかる。 「あ、ありえない……」 いつのまに自分はこうも簡単に手玉に取られる男になったのだろうか。いや、彼が成長したと言うべきか。 喜ばしい反面、ちょっと悔しい思いも否めない。 「ああ、もう!」 カミューは蜂蜜色の髪をぐしゃぐしゃとかきまわした。今日は完敗である。 |