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「マイクロトフ、今夜飲みに行かないか?」 カミューの誘いにマイクロトフはひとつ瞬きをした。 「飲みに?」 「うん。マイクロトフもようやく成人を迎えたことだし。社会勉強ってことで、ね?」 誘うときの癖で、無意識に首を傾げながらにっこりと笑みを浮かべたカミューだったが、真面目なマイクロトフのことだからなかなか了承してくれないであろうことは予測していた。しかし、今日のカミューはある企みを抱えているため気合が違う。鉄壁の笑みの下では、マイクロトフを言いくるめるための次の手、その次の手までも延々と考えていた。 だが、 「ああ、わかった」 マイクロトフがあっさりと承諾する。カミューは少々拍子抜けしたが、それはそれで喜ばしい、と気持ちを切り替え、「じゃあ、今夜ね」と片手を上げてその場を去った。一人になるとそっと小さくガッツポーズをする。計画に向けてまずは第一段階成功だ。 そのカミューの企みとは……。 マイクロトフとえっちする! である。 そう、二人は晴れて恋人同士となったものの、奥手なマイクロトフ相手では進展も遅く、なかなか深い関係になることができなかった。片思いの時期をあわせるとマイクロトフへの想いが長いカミューとしては、一刻も早く彼に触れたいのだ。 そこで思いついたのが、酒の力を借りることである。酒に酔わせ、その勢いで……という、少々、いや、かなり強引な作戦ではあるが、自分達は恋人同士なのだし、男同士という障害を考えれば多少強引にことを進めなくてはいつまでたっても発展しないのでは、という焦りの上での結論であった。 しかし、カミューとて自信たっぷりに挑むわけではない。それなりに浮き名を流してきたカミューだが、さすがに男相手は初めてなのだ。これが女相手ならあまり不安はない、というか、自信があるといってもいい。だが、同性となると知識ばかりが頼りである。 でも……。 愛があれば大丈夫! こんなことをしてはあとで少々揉めるかもしれないが、そこは自分の舌三寸でなんとかするしかない。恋人同士が肉体関係になったところで何が悪い。好き合っていれば自然なかたちだろう。 カミューは気合を入れるようにぐっと拳を握り締めた。 「そういえばカミューと飲むのは初めてだな」 仕事が終わり、待ち合わせをした二人が店に移動する途中、マイクロトフが言った。 「そうだね。まさか未成年のおまえを誘うわけにはいかないだろう?」 カミューが笑って応えると、マイクロトフはちょっと照れたように笑う。 うっ、可愛い……。 カミューはマイクロトフに特別な感情を持ってからというもの、すっかりマイクロトフの笑みに弱くなってしまった。普段は無愛想な人間と思われるほど厳つい顔をしていることが多いのだが、気の許した人間にときどき見せる笑みがなんともいえない。惚れた弱みとでもいうのか。 そんなことに気を取られていたため、カミューはマイクロトフの笑みの意味に気付かなかったのである……。 夜も更けた頃。 ロックアックス城に向かう二つの影があった。片方はひどく泥酔しているようで、もう片方に支えながらふらふらと歩いている。 「うー……」 おぼつかない足取りで歩いている方が気持ち悪そうに呻き声を上げた。支えているほうが足を止め、心配そうに顔を覗き込む。 「大丈夫か?」 「大丈夫じゃない……」 「飲みすぎだぞ」 「だって……」 だってだってだって! マイクロトフがこんなに酒に強いだなんて思いもしなかったんだもん!! そう。酔いつぶれていたのはカミューの方だった。一方のマイクロトフはさほど酔った様子もなくカミューを支えている。 カミューの作戦は完璧に遂行された。カミューは言葉巧みにマイクロトフの意識を逸らせ、本人が気付かないうちにどんどんと酒を飲ませ続けたのである。ゆうにカミューの倍は飲んでいたはずだった。しかし、マイクロトフはいつもより少し頬を上気させていたものの、いつまでたっても意識ははっきりとしており、楽しそうに酒を飲み続けた。焦ったカミューは酒を注ぐペースを上げたのだが、それは当然、付き合って飲んでいる自分のペースをも上げることになり……先につぶれてしまったのである。 カミューは知らなかったのだ。冬の寒さが厳しいこの国では、身体を温めるためにアルコール度数の高い酒を飲む習慣があることを。きつい酒を飲むのはもちろん大人だが、子供たちもたまに少量ではあるが口にすることがあるということを。グラスランドに居た頃、山羊の乳から作る酒を飲んだことがある程度のカミューとは、口にしてきたアルコール度数があまりにも違いすぎた。誘ったときにマイクロトフがどこか照れたように笑ったのは一応、成人まで飲酒は許されていないというのに口にしてきたばつの悪さを誤魔化していたのだろう。しかも、かなりいける口のようだ。 1年早く成人し、それなりに場数を踏んできたつもりだったカミューは、己の迂闊さにがっくりとうなだれた。 |