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「………………………」 「やられた……」 マイクロトフは呆然と、カミューは頭を抱えて、窓から外の景色を見ていた。外は見事なまでの銀世界。湿った雪が降ったらしく、もさもさと積もった雪は20センチ以上はあるようだ。3月も半ばに入ったこの時期としては、異例とも言える大雪である。 雪が積もれば当然雪かきをしなくてはいけない。マチルダ騎士団にとって雪かき作業は、冬限定の立派な仕事のひとつであった。早朝、城の周りからはじまり、城下に住む人々から要請があれば民家にも出動する。 正騎士になってまもなく2年と、まだまだ新米の域を出ない二人は、当然率先して早朝の雪かきに参加しなくてはいけない立場であった。今朝はどう見ても雪かきが必要な状態である。それが、すっかり出遅れてしまったのだ。しかも、とても口にできるようなことではない理由で。 呆然と外の景色を眺めていた二人だが、先に立ち直ったマイクロトフがカミューを睨みつける。 「だいたい、おまえが『大丈夫』だなんて言うからだぞ!」 「なっ、マイクロトフだって、『確かにこの時期になるとあまり積もることはない』って言ったじゃないか!」 「なんだと!」 二人はバチバチと睨み合い、場は一触即発の空気となったが、カミューがはた、と我に返った。 「待った。とりあえず何か着よう……」 「う、うむ……」 気付けば二人とも全裸にタオルやシーツを申し訳程度に巻いた、あられもない格好である。二人して素っ裸で何をしていたかは、まあ、語るに及ばず。二人はいそいそと床に散らばっている服を身につけはじめた。 昨夜、カミューがマイクロトフの部屋を訪ねてきたときは、こんなことになるとは予想だにしていなかった。いや、互いに胸の奥では、ひょっとすれば、と思っていたかもしれない。だが、ここ最近、お互いの仕事が忙しく、恋人同士らしい時間が持てなかった二人は、一抹の不安を抱えつつも若い衝動には勝てず、情熱的な夜を過ごしたのであった……。 「だいたい、俺は『あまり』『ない』と言ったはずだぞ! 昨日はあんなに冷え込んでいたのだから、雪が降ってもおかしくなかっただろう!」 マイクロトフがズボンに足を通しながら怒鳴ると、 「そういうのは屁理屈って言うんだよ。だいたい、そんな寒さなんか感じてる暇なんかあったわけないだろう。おまえの中は熱くて蕩けそうだったんだから……」 カミューはシャツを勢いよく羽織りながら、前半はぼやき、後半はどこかうっとりとした様子で反論する。そのあからさまな表現にマイクロトフは火がついたように真っ赤になった。 「なっ、こっ、このハレンチ男が!!」 ズボンを履きかけていたためにその場を動けなかったが、そうでなかったら殴りにいっていたかもしれない。代わりに傍にあった枕を渾身の力で投げつけた。見事顔面に食らったカミューは、むう、と唇を尖らせる。 「なんだよ。昨日はマイクロトフだってノリノリだったじゃないか」 「そっ、そんなことを言うならもう二度とさせんぞ!!」 「えー。恋人同士が熱い夜を過ごしたところで何が恥ずかしいんだよ」 「おまえの言動が恥ずかしいわ!!」 二人は漫才のような軽いやりとりを交わしながらも手は休めず騎士服をまとっていく。今更、のこのこと出ていくのは辛いが、それでも自分たちの立場を考えれば参加しないわけにはいかない。 「よし、行くぞ」 「ちょっと待って。紐が曲がってる」 カミューはそう言ってドアに向かおうとしていたマイクロトフの騎士服の胸元の飾り紐に手を伸ばす。結び目が歪んでしまったのを整えてやりながら、はあ、とため息を吐いた。 「あーあ。せっかくマイクロトフが朝練を休んでくれたのになぁ……」 そう、昨夜のマイクロトフは陥落が早く、カミューの、朝錬を休んで一緒に起きたい、というおねだりを承諾したのだった。しかし、それが更なる悲劇を呼び起こすことになろうとは誰が考えただろうか。せめて、マイクロトフがいつものように早く起きていれば、こんな事態にはならなかったのだから。 「……言うな」 マイクロトフが苦虫を噛み潰したような顔で低く言う。 朝、目が覚めて、窓の外の景色に気付くまでのあの甘い時間はなんだったのか。 「「やはり、慣れないことを「する」「させる」もんじゃないな……」」 よく、めずらしいことをすると雨が降る、などとからかう言葉があるが、あながち嘘でもないのかもしれない。 季節はずれの大雪に、二人は盛大なため息を吐いた。 |