〜羽根〜




 久々に二人揃っての休日をもらったカミューとマイクロトフは遠乗りにきていた。見晴らしのいい野原に辿り着くとハイ・ヨーに作ってもらった弁当を広げ、それを平らげたあとはのんびり時間を過ごすだけである。一見、なんの面白みもない過ごし方だが、度重なる戦に疲れていた二人にはこれ以上ない貴重な穏やかな時間だった。
 ごろり、とカミューが横になればマイクロトフもそれに倣う。こんなふうに草の上に寝転ぶなんて何年ぶりのことだろうか、とマイクロトフは草の優しい感触を味わいながら目を閉じた。
 時折吹き抜ける風が心地良い。鳥のさえずりが耳に優しい。
 それら豊かな自然触れているだけで心が癒されていく自分がいるのを感じ、知らず、熾烈だった戦の連続で心がすさんでいたのを自覚する。ハイランドの狂皇子ルカ・ブライトが倒れた今、ようやくひと心地着くことを許されたのだろう。
「気持ち……良いな」
「そうだね」
 傍らのカミューもまた、ゆったりとした気持ちで目を閉じていた。
 数日前まで一生血の臭いが消えないのでは、と思うほど苛烈な環境にいたとは信じられないほど優しい時間。今日果てるとも明日果てるともわからない状況に身を置き、魂を、存在を確かめ合う熱く激しい時間も嫌いではなかったが、やはり、こうしてのんびりと互いだけの息遣いを耳にするのも悪くない。
 カミューは音を立てないように少し顔を傾け、隣で静かに目を閉じているマイクロトフを見つめた。

 手……握っても怒らないかな。

 普段なら絶対に許さないだろうが、今日はこんなにも穏やかな、静かな時が流れている。ひょっとしたらこの雰囲気に流されてくれるかもしれない、と思い、カミューはそうっと手を伸ばした。
「なあ」
「は、はいぃぃっ?!」
 あとちょっとで触れる距離だったカミューは思わず声が引っくり返る。マイクロトフはそんな反応に驚いてカミューの方を見ると、不思議そうに瞬きした。
「すまん。驚かせたか?」
 過剰反応したのはカミューが不埒なことをしようとしていたからであったが、そんなことは知る由もないマイクロトフは、突然口を開いたのがいけなかったのだろうか、などと考える。
「い、いや、なんでもないよ。どうしたの?」
 カミューは笑って誤魔化しながら、口から飛び出そうなほどバクバクいっている心臓を宥めるように上から押さえ、深呼吸を繰り返した。その様子をマイクロトフはおかしそうに見ていたが、話の続きをしようと空を見上げる。
「いや、おまえは羽根がほしいと思ったことはないか?」
「羽根?」
「ああ。鳥のように空を自由に飛びたいって」
 言いながら、日差しが眩しいのかわずかに目を細めた。カミューは自分に対する咎めではなかったことに内心ホッとしつつ、同じように空を見上げ、ああ、と小声で呟く。
「そうだね。やっぱり小さい頃に一度は考えることじゃないかな。
 ……どうしたんだ? 急に」
 問いながら視線を向けると、マイクロトフは腕を頭の下で組んで枕にし、少し笑った。
「チャコ殿たちを見ていたら、ちょっとうらやましく思ったりしたのだ」
 マチルダに居た頃は数えるほどしか目にすることのなかった有翼族・ウイングボードだが、都市同盟軍の本拠地にはトゥーリバー市から何人も移住してきている。天気のいい日などには気持ち良さそうに空中散歩をしている姿を見かけた。
「なるほどね」
 そんな微笑ましい思考が浮かぶのも、穏やかな気持ちが生まれる余裕ができたからこそ。カミューは目を細めた。
「でも、俺はそんなのがあっても邪魔だと思うよ」
「邪魔?」
「だって、こうやって仰向けに寝転ぶこともできないし」
 気持ち良さそうに目を閉じて言うカミューにマイクロトフはひとつ瞬きをした。
「なるほどな」
「それに……」
 カミューはそこで言葉を切ると身体をマイクロトフの方に向けてニッと含みのある笑みを浮かべてみせる。それを見たマイクロトフは、何やら嫌な予感がする、と内心身構えた。この男はいつも予想もつかないことを言ってのけるから要注意だ。
「……なんだ?」
「いや、背後からぎゅって抱き締められないじゃないか」
「なっ……」
 カミューの言葉にマイクロトフは警戒していたにもかかわらず真っ赤になった。本当に心臓に悪い男である。
「ばっ、馬鹿者! そんなことどうでもいいだろうが!!」
「どうでもよくないよー。俺にとっては大事な、こ・と」
「くっ、くだらないことを言うな!」
 片目を瞑ってみせるカミューに、マイクロトフは赤くなった顔を隠すように反対側を向いた。後ろ姿になっても耳も首筋も真っ赤である。カミューは声を殺して笑うとそっと手を伸ばした。
「っ!」
「ほら。やっぱりこうするには羽根があると邪魔だろう?」
 そう言いながらカミューは背後からぎゅっと抱きしめて肩甲骨のあたりに頬をすり寄せる。マイクロトフからの反論はなかった。






ポルノグラフィティの「Go Steady Go!」のイメージで

2005/3/15


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