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「なあ、カミュー。今日はあちこちで甘い匂いがすると思わないか?」 隣を歩いているマイクロトフの問いにカミューは軽く頷いた。 「ああ、明日は何やらイベントがあるらしいからその準備だと思うよ」 「イベント?」 首を傾げるマイクロトフにカミューは柔らかく微笑む。城内では男女を問わずそのイベントの話で持ち切りだというのに、少しも耳に入っていないマイクロトフを、らしいなぁと微笑ましく思う。 「なんでも、女性が好きな人にチョコレートをあげて告白する日だそうだ。他にもお世話になっている人に感謝の気持ちを伝える意味もあるらしい」 カミューの説明にマイクロトフはわずかに眉を寄せた。マチルダにはない、初めて聞く風習だった。この都市同盟には様々な国から人が集まっているため、いろいろな文化が集まっている。毎日が驚きの発見といっても過言ではなかった。 「それは……もらうほうは判断が難しいのではないか?」 好きだ、という告白なのか、いつもありがとう、という感謝の気持ちなのか。 こういうことにはとんと疎いはずのマイクロトフのめずらしく鋭い突っ込みにカミューはおかしそうに笑う。 「そうだね。ちなみに、おまえはチョコレートをもらったらどう思う?」 「俺は……」 マイクロトフは即答しかけて言葉に詰まった。もちろん、自分のような朴訥とした男が恋愛の対象になどなるはずがないのだから感謝の気持ちだろう、と応えようとした。しかし、自分がそんなふうに感謝されるほどこの城で役に立っているのか、と言えば疑問に思ったのである。 「……もらうはずがない」 しばしの沈黙の後、返ってきた答えはそれだった。カミューはそんなマイクロトフの心境などお見通し、とばかりに目を細める。ふと悪戯心が湧いた。 「ねえ、明日は誰からも告白のチョコを受け取ったらだめだよ」 「そんな物好きがいるか」 ぶっきらぼうに言い捨てたマイクロトフにカミューは複雑な笑みを浮かべる。 「……ほんと俺だけだったらいいのに」 おまえを好きなのが。 顔良し、性格良し、おまけに純情で浮気しそうにないとなれば、本気で結婚したいと思う女性など掃いて捨てるほどいる。そんな女性の中にマイクロトフが惹かれる人がいるかもしれない。そんな不安など知る由もないのだろうな、とカミューはせつなくなる。 そんなカミューの思考をぶっきらぼうな声が遮った。 「……おまえだけだろうが」 「え?」 「俺のことを好きだなどと言う物好きなのは」 怒ったように言うマイクロトフにカミューは、わかってないな、と苦く笑う。それに気付いたマイクロトフはムッとしたように目付きをきつくしたが、その目元はなぜか赤かった。 「そして、そんな物好きを好きだと思わせるのも……」 おまえだけだ。 マイクロトフの呟きにカミューは目を見開く。そんな反応にマイクロトフの顔はますます赤くなった。そのまましばらくカミューを睨みつけていたが、カミューがあまりにも惚けているため、痺れを切らす。 「……悪いか?」 地を這うような低い声にカミューはようやく我に返った。 「まさか!」 力いっぱい否定して、ようやくいつもの余裕が戻ってくる。嬉しそうな、それでいて逆らうことを許さないような魅惑的な笑みを浮かべた。 「ねえ、明日は2人でチョコレート交換しようか」 |