|
「なぜ、兵を出してはいけないのですか! このまま都市同盟の領地をハイランド軍の好きにさせるというのですか?!」 「落ち着け、マイクロトフ。ゴルドー様の御前だ」 思わず立ち上がり、会議室のテーブルを叩かんばかりに激昂するマイクロトフに、カミューの冷静な一言が飛んだ。マイクロトフは悔しそうに唇を噛むが、白騎士団長・ゴルドーと赤騎士団長・カミューの前では青騎士団長である自分が一番位が低い。口答えが許される状況ではなく、仕方なく席に着いた。その様子を嘲るように見ていたゴルドーはゆっくりと口を開く。 「今、ハイランドと事を構えては騎士団に大きな犠牲が出る。軽々しい真似は許さんぞ、マイクロトフ」 ゴルドーの言葉にマイクロトフは俯いたままテーブルの下できつく拳を握り締める。 「……騎士団が犠牲を恐れてどうするのですか」 絞り出した声は怒りに震えていた。しかし、その発言はゴルドーの不興を買う。 「黙れ、マイクロトフ! 騎士団が大きな損害を被れば、マチルダの土地は誰が守るというのだ!」 「都市同盟の領地が占領されれば、いずれマチルダも囲まれます! そうなれば、ますます戦況は苦しくなるでしょう!」 「黙れ! もうよい! 貴様は下がれ!」 「ですが、ゴルドー様!」 「マイクロトフ、聞こえなかったのか? ゴルドー様は下がれと言ったのだぞ」 遮るようにカミューに言われ、マイクロトフは黙りざるを得ない。怒りとも悔しさともつかない表情を浮かべ顔を歪めていたが、やがて、ゆっくりと立ち上がると重い足取りで会議室を出ていった。そんなマイクロトフの様子を、向かい側に座るカミューは痛ましげに見つめていたが、その場で弁護することはなかった……。 その日の夜。 公務が終わり、ラフな私服姿に着替えたカミューはマイクロトフの部屋を訪ねていた。ノックしても返事がなかったが、かまわずドアを開ける。唯一の親友であり、恋人である自分にはそれが許されているはずだから。 部屋に入るとマイクロトフはベッドに腰掛けて本を読んでいた。カミューが入ってきたことに気付いていないはずはないというのに顔も上げない。だが、出て行け、とも言わないのだから拒んでいるわけではない、とカミューは判断し、ベッドに歩み寄ると隣に腰掛けた。 「マイクロトフ?」 名を呼んでみても返事はない。カミューはしばらくその横顔を見つめていたが、 「ごめんよぉ〜、マイクロトフ〜〜〜」 と、ぎゅっと腰にしがみついた。 「離せ」 「やだやだ! マイクロトフ、怒ってるもん!」 冷たく言われ、カミューは頭を振りながらしがみつく腕に力を込める。 「あの場は仕方なかったんだよ〜。あの白豚は兵を出す気がまったくないから、俺がマイクロトフに加担したところで更に怒るだけだしさ〜。あれ以上あのデブを怒らせて、マイクロトフが謹慎でも言い渡されたら大変って思ったから……」 言い訳じみたことを甘えた声で言いながら、カミューはうるうるした瞳でじっとマイクロトフの顔を見上げる。 「燃やそうか? 俺、あの脂肪の塊を燃やしてこようか?」 「……やめんか。仮にも上司なのだから」 「あんなデブ、どうでもいいもん! マイクロトフが一番大事だから……っ!」 すがるように必死に言い募られ、マイクロトフは深いため息を吐くと「わかったわかった」と少々投げやりに頭を撫でてやった。 「……怒ってない?」 27歳が上目遣いをしてみせたところで可愛いとでも思っているのか、窺うように見上げてくるカミューにマイクロトフはもう一度ため息を吐く。 「怒ってない。確かにおまえが止めてくれなければ、今頃、独房に入っていたかもしれん」 さらりと物騒なことを言うマイクロトフにカミューは、心を鬼にして止めておいてよかった、とこっそり肩をすくめた。しかし、それよりもマイクロトフが自分のことを裏切り者のように思っていなかったことに安堵する気持ちのほうが大きい。 「よかったー。マイクロトフ大好きー」 むぎゅーっと抱きついて背中のあたりに頬をすりすりしてくる姿からは、昼間の涼しげな態度など見る影もない。というか、本当に同一人物なのかと疑いたくなるような変わりようである。 しかし、 昼の、自分の直情的になる行動を冷静に止めてくれるカミューも、 夜の、こうして甘えてばかりいるカミューも、 どちらも紛れもなく彼を形成するものであり、どちらも嫌いではないのだからあきらめるしかない。 「カミュー」 「ん?」 「信じているからな」 昼間、自分の行動を止めるかぎり、 夜、その己の行動を言い訳するかぎり、 自分の信じる道を進んでいいのだと思うことにしよう。 |