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カミューとマイクロトフは真剣な顔つきで向き合っていた。 もし、ここが何もない野原で、互いの手に剣を握っていたりしたら、果し合いがはじまるのではないか、というほどどちらも厳しい顔つきだった。しかし、今2人がいるのはベッドの上。手には剣など握られてはおらず、付き合わせるようにした膝の上で拳を作っている。 ごくり、と鳴ったのはどちらの咽喉か。 「マイクロトフ……」 「な、なんだ……?」 どちらの声もわずかに震え、緊張の度合いを示していた。 カミューの突然の告白からはじまったドタバタ恋愛劇は、マイクロトフが知恵熱が出るほど思い悩んだ結果、ひょんなことで自分の思いを自覚する、というかたちで決着がついた。念願叶ったはずのカミューは大いに動揺し、勘違いしてる、だの、同情しているだけだ、だのと必死に思い留まらせようとしたのだが、マイクロトフの頑固さに敵うはずもなく。最後にはマイクロトフに押し切られるという、どちらが告白したのかわからない有様だった。 こうして2人は晴れて恋人同士となったのである。 それからの2人に大きな変化は見られなかったが、それでも確実にその関係は変わりつつあった。2人きりになると触れ合うことが多くなり、キスも何度かした。しかし、それで終わりかといえば歳若い2人はそういうわけにもいかず……。 いよいよ今夜を迎えたのである。 「そ、その、いいのかい?」 ためらいがちに聞いてくるカミューにマイクロトフはすでに火照っていた頬を更に熱くさせた。 「何をだ?!」 怒鳴り返すその様子は、これからしようとしていることをちゃんと理解しているようである。そのことにカミューは心のどこかでホッとしつつも、きっと詳細はわかっていないであろう彼に不安は消えなかった。 「痛いって聞いたけど……」 ぼそり、と呟きながら窺うように上目遣いで見るとマイクロトフは一瞬顔を強張らせて息を飲む。しかし、カミューの気遣うような視線を受けて、逃げてなるものか! という意地に似た何かが沸いたかのように勢いよく応えた。 「い、痛いのには慣れている!」 慣れているって……と、カミューは脱力感を覚えると共に不安が更に募る。確かに日頃から生傷が絶えない彼ではあるが……。 「痛い、の種類が違うと思うよ……」 「ち、違うというと……?」 「例えば、頭を叩かれるのと、針で指の先を刺すのとでは、痛みが違うだろう?」 カミューの例えに思わず想像したのか、マイクロトフは嫌な顔つきになった。頭を叩かれるときは歯を喰いしばれば堪えることができる。だが、針で指を刺すというのは我慢できる類のものではない。頭を相当な力で叩かれても痛いのは一瞬だが、針で指先を刺したときはじんじんとした痛みが後を引く、という違いだろうか。カミューの例えは的確といえた。 「針で……指を刺したような痛みなのか?」 そんな生易しいものではないと思う。しかし、どこか脅えているふうに尋ねてくるマイクロトフにはそんなことは言えなかった。 マイクロトフ、ごめん! 俺は卑怯者だ!! 心の中で懺悔しながらカミューは曖昧に頷く。 「う、ん……たぶん……」 最後に付け足したのは最後の良心とでも言おうか。女性と違い、受け入れる機能を備えていない器官に無理をさせるのだ。きっと痛みは相当なものであろうということは想像に難くない。 だが、だからといってやめるかといえば、マイクロトフを抱きたいと思う気持ちは飽和寸前で。身勝手だとは思うが、マイクロトフに拒否されるのを恐れ、こんなふうにずるい言い方をしているのだ。 カミューは後ろめたさからマイクロトフの顔を見ることができず、気まずそうに視線を逸らした。沈黙が降りると、やがてマイクロトフがぽつりと呟く。 「……る」 「え?」 やはり怖気づいただろうか、とカミューが顔を上げると、マイクロトフは黒い瞳に強い意志を宿してカミューを見つめていた。 「我慢する! だから……」 そこまで言いかけて、ぐっと唇を噛むと、ぽかん、と口を開けているカミューの首にしがみつくように抱きつく。 「いい、ぞ……」 「マイクロトフ……」 しがみつかれてしまったため顔は見えなかったが、目に映る首筋はほのかに朱に染まっていた。首筋ですらこんな状態なら顔はどれほど真っ赤だろうか。 カミューは驚きながら宙に浮いた格好になった手をマイクロトフの背中に回してみる。その確かな体温を感じ取り、これが夢ではなくマイクロトフの意志の上の行動だと理解すると嬉しさのあまり、回した腕にぎゅっと力を込めた。 「ありがとう」 万感の想いを込めて囁くと、そのままマイクロトフのほうに体重をかけ、マイクロトフ諸共ベッドに転がる。いきなりの展開に目を見開くマイクロトフだが、カミューの理性はもう限界だった。マイクロトフの身体に覆い被さるように膝立ちになり、マイクロトフの顔の脇に両手をつくと、真剣な顔つきで見下ろす。 「できるだけ痛くないように努力するから」 そのあまりな真剣ぶりにマイクロトフは茹蛸のように真っ赤になった。 「……い、言っておくが、俺は男だからな! 今までの女性と比べて良くないと言われても困るぞ!」 その強がりとも取れる必死な様子に、カミューはふわり、と柔らかい笑みを浮かべる。 「マイクロトフ」 愛しい名前を口にするだけで、心の中がじんわりと暖まるのを感じた。不安なのは、怖いのは、自分も一緒だ。 「俺の手をこんなに震わせるのはおまえだけだよ」 言いながらカミューは、さっきから震えが止まらない己の手をそっとマイクロトフの指に絡める。緊張のためか指先が少し冷たくなっているのが、全身が火照っている状態のマイクロトフには気持ち良かった。 「カミュー……」 マイクロトフは一見冷静に見えるカミューの常ならざる状況に幾分心が落ち着くのを感じる。これからの行為に関する自分の薄っぺらい知識などないに等しいが、それでもカミューとならば、と揺るぎない信頼がそこにはあった。 カミューの顔がゆっくりと近づいてくるのを、マイクロトフは静かな気持ちで目を閉じて待った……。 「おーい、マイクロトフー……」 カミューは困ったように、さっきからぴくりとも動かない布団の塊に何度目かの呼びかけを行なった。 やはり初めての交合はいろいろな苦難と試練があったが、それでもなんとか最後まで成し遂げることができた。しかし、受ける側だったマイクロトフは相当辛かったのか一瞬気を失ってしまった。そして、ようやく意識を取り戻したものの、ものすごい勢いで布団に包まってしまったかと思うと顔も見せてくれず、今に至る。 カミューは布団に入ることもできずに素っ裸である。情けないことこの上ないが、マイクロトフを宥めるしかなかった。恐らく気を失うほどに痛かったことに腹を立てているのだろうと思う。願いといえば聞こえはいいが、己の欲求を満たすために強引に説き伏せようと、自分は無責任なことを言ったのだから。 「ごめん、無理させた。……大丈夫?」 許してもらえるまで謝るしかない。長期戦覚悟で謝り倒そうとしたカミューだったが、マイクロトフがもそり、と布団の間から顔を出した。 「この嘘吐きめ!」 その顔は羞恥のためか真っ赤だった。カミューは、やっぱり、と思ってしおらしく目を伏せる。 「痛かったよね。ごめん……」 自分は正直、あんなに良かったのは初めてだ、というぐらい気持ち良かった。理性が吹き飛びそうになるのを必死に繋ぎ止め、傍若無人にならないように気を使ったつもりだったが、やはり本能に勝てなかったところがあったのも事実で。この反応ではもう二度とさせてもらえないかもしれない……と意気消沈する。 「まっ、まだ言うか! この性悪め!」 「え?」 話の流れが何かおかしい、とカミューが目を瞬かせていると、マイクロトフは自棄になったように叫んだ。 「痛い痛いって人を散々脅かしておいて、反応を楽しんでいたのだろう! 俺は……っ」 「え? ちょっ、ちょっと待って」 カミューが慌ててマイクロトフを制すると、マイクロトフは相変わらず顔を真っ赤にしたまま睨みつけてくる。カミューは頭の中で話を整理して辿り着いた結論に、まさか、と思いながら口を開いた。 「……痛くなかったの?」 「……覚悟していたほどではなかった」 それはカミューが事前に丹念に解した結果なのだが、その無限とも感じた時間をどれほど恥ずかしく思いながら耐えていたことか。自分でも触れたことなどないような箇所に何かを塗られ、それがぬめる音を立てはじめたときの羞恥といったら、泣いて逃げ出したいほどに耐えがたいものだった。 それでも、相手がカミューだから我慢したのだ。 そんなことを思っていると、うっかりそのときのことを思い出してしまい、顔から湯気が出るのではというほど頬が熱くなったマイクロトフだったが、カミューが、へえ〜と顔に書いていそうな表情で呆けているのを見て慌てて言い訳する。 「そっ、それというのもおまえがしつこく、あ、あんなこと……!」 「良かった?」 「なっ、ば、馬鹿者!!」 枕で殴りつけようとしてくるマイクロトフをカミューは笑いながら抱き込んだ。我ながら単純だと思うが、不安が軽く吹き飛び、後に残るのはくすぐったいような幸福感。 「大好き」 「っ!」 カミューの臆面もない言葉にマイクロトフは息を呑む。そして、悔しそうに睨みつけるが、カミューは気にせずに赤くなった目元に軽く口付けた。 「これからもっと良くなるよ♪」 「なっ、けっ、結構だ!!」 |