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カミューとマイクロトフは激務の合間をぬって城下町に昼食を摂りにきていた。忙しいときほど美味しいものを食べて精力をつけなければ、という2人の言い分に、本来の昼食の時間を1時間以上過ぎていたためか部下たちも反対しなかった。ただし、「逃走しないでくださいよ」と釘は刺されたが。 カミューが案内した店は相変わらずマイクロトフを満足させるものであった。喜んでくれるマイクロトフの姿を見ているだけでカミューは幸せを感じる。2人は上機嫌のまま店を出、書類の戦場となっている城に戻ろうとしていた。 しかし、真昼間の若き赤・青両騎士団長の姿に、分別のつく大人たちは執務の合間だろうと遠巻きに尊敬と信頼を込めた視線で見つめているだけだったが、遠慮のない子供たちは、わあっと一斉に群がった。 2人はもちろん先を急いでいたが、まさか子供を相手に邪険にできるはずもなく、頭を撫でてやりながら「また後でな」とやんわりと断ろうとする。周りにいた親たちもそれを察して、慌てて子供たちの腕を引っ張って2人から遠ざけた。 そんな中、1人の幼い少女がマイクロトフの元に駆け寄ってくる。 「マイクロトフさまー」 ぬいぐるみを抱き締めた可愛らしい幼女に見上げられ、マイクロトフは目線を同じにするために片膝を地面についた。 「どうした?」 女性が苦手、といってもさすがにこんな年端もいかない少女は平気である。マイクロトフはあどけない顔で見つめてくる少女に軽く首を傾げた。自然と優しい顔つきになる。 「あのね、あたし、大きくなったらマイクロトフさまのおよめさんになりたいの。どうしたらけっこんできるの?」 少々舌足らずな言葉に、ぴき、とマイクロトフの笑顔が凍った。そして、即座に答え損ねてしまった己の不器用さにほとほと嫌気が差す。どうしてこんな幼い少女の他愛のない言葉にすら上手く応えられないのだろうと。 が、自己嫌悪より先に、背後で成り行きをおもしろがっているであろう男の存在を思い出し、いい方法を思いついた。 「俺みたいなつまらない男より、カミューと結婚したほうが幸せになれるぞ」 これなら少女の追及も逃れられるし、カミューに意趣返しもできる。マイクロトフは我ながらうまい手だと思った。 しかし。 少女はしょんぼりと下を向いてしまった。 「あのね、カミューさまはもう心にきめた人がいるからダメなんだって」 少女の言葉にマイクロトフもがくり、と頭を垂れる。カミューのヤツめ、という思いと、俺は二番煎じか、という男としての複雑な思いが胸をよぎった。 一石二鳥であるはずの作戦が脆くも崩れ、マイクロトフはやれやれと思いながら正攻法でいくしかない、と口を開く。 「その、な。おまえが大きくなる頃には俺みたいな朴念仁ではなく、もっと優しくて気の利いたいい男が現れる、ぞ……?」 精一杯、思いつくかぎりの言葉で話し、なっ、と顔を覗き込むように首を傾げた。 「そうですよ、リトル・レディ。貴女が素敵な女性になる頃にはマイクロトフは腹の出たおじさんになってますから」 「誰が腹が出るんだ!!」 跪いているマイクロトフの背後から身を屈めて口を出してきたカミューにマイクロトフは間髪入れず怒鳴り返した。助け舟を出す気ならもっと早く出せばいいだろうし、言うにことかいて腹が出るとは何事だ、と憤慨する。しかし、カミューがそんなことを気に留めるはずもなく、平然と笑い返した。 「まあまあ。俺は腹が出ても平気だよ」 「それを言うなら私生活がたるんでいるおまえだろうが!」 「レディの前で大声を出すもんじゃないよ。驚いてしまうだろう」 カミューに軽くいなされ、マイクロトフはハッと我に返る。確かに声の大きい自分が怒鳴ると怖がってしまうかもしれない、と危惧して少女を見たが、少女は、きょとん、としたように首を傾げているだけだった。ほっとすると同時に、まだマイクロトフの言葉を反芻している様子に、意味を理解したとき、がっかりするのか、それとも気を取り直すのかと恐る恐る次の反応を待っていたが……。 「マイクロトフさまって『ぼくねんじん』なの?」 「え?」 思わぬセリフにマイクロトフは目を瞬かせた。そんなマイクロトフをよそに少女は、わかった、というふうに両手を合わせると、 「じゃあ、カミューさまがすきなのはマイクロトフさまなのね!」 と、嬉しそうに言った。 「なっ……?!」 ぎょっと目を剥いたマイクロトフに少女はどこか得意げに応える。 「だって、カミューさまのすきな人って『ぼくねんじん』だって言ってたもの」 きゃらきゃら、と楽しげに笑い声を上げる少女にマイクロトフは一瞬硬直し……バッと振り返った。すぐ後ろにいたはずの赤い姿は城に向かって走り出している。 「カミュー!!!」 マイクロトフは真っ赤になって物凄い勢いで追いかけはじめた。 「おまえは子供に向かってなんてことを言うのだ!!」 「おまえを見習って、誠意を持って応えただけだろう」 |