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「マイクロトフ、起きて。マイクロトフ!」 ゆさゆさと揺すぶられ、深い眠りについていたマイクロトフは不機嫌そうに片目を開けた。一瞬、目に映った景色が見慣れないものであることにどきっとするが、すぐ、ここがカミューの実家の離れだということを思い出す。肩の力が抜けると同時に無理矢理起こした無粋な男への怒りが再び込み上げてきた。 「なんだ? 今夜はもうしないと言っただろう」 あまりの言い草にカミューは苦笑を浮かべる。 「いや、お相手してくれるならぜひともお願いしたいんだけど、そうじゃなくて、ちょっと起きてほしいんだ」 「……こんな時間にか?」 ちらり、と時計に目をやれば深夜もいいところである。ようやく深い眠りについたのに、とマイクロトフは不機嫌なまま、とりあえず身体を起こした。すると、先程まで隣で寝ていたはずのカミューが服を着ているではないか。 「なにかあったのか?」 緊急事態でも起こったのだろうか、と慌ててベッドから降りようとするとカミューがそれを制する。 「いや、そうじゃないよ。ちょっと、外に出てほしいんだ」 「外?」 首を傾げるマイクロトフにカミューが頷いて笑みを浮かべた。 「見せたいものがあるんだよ」 外に出てきたのは自分たちだけではなかった。カミューの家族や近所の人たちも家から出てきていて、なぜか皆、空を見上げていたのだ。 マイクロトフはその光景に驚きながらも、とりあえず自分も同じように空を見上げてみる。 初めて見たとき声を失くしたほど見事な星空が、今夜も視界いっぱいに広がっていた。しかし、地元の人たちがこれを見るためにわざわざこんな時間に起きてくるのはどう考えてもおかしい。不思議に思ってカミューの方を見ると、カミューはわかっているのか、「まあ、見てなよ」と片目を瞑ってみせただけだった。 マイクロトフはしょうがなく再び夜空を見上げる。 満天の星々は、澄んだ空気の下で見ていると、手を伸ばせばとどくのではないかと錯覚させるほど近く感じる。知らずその輝きに惹き込まれ、眩しいものでも見るかのように目を細めていた。 「降ってきそうだな」 思わず呟いたマイクロトフにカミューはどこか、的を得たり、というような笑みを返す。 「じゃあ、降らせてみようか?」 「何を馬鹿なことを……っ?!」 カミューの軽口に呆れたように言い返したそのときだった。一条の光が視界を掠め、マイクロトフは言葉をなくした。あまりにのタイミングの良さに、目の錯覚かと目をこすってみるが、再び夜空を見上げるとまたも光が線を描いて消えていく。しかも、ひとつではない。連なっているかのように、幾筋もの光の軌跡が現れては一瞬で消えていった。 「これは……!」 「すごいだろう。流星群だよ」 「流星群?」 聞き慣れない単語に首を捻りながらも目線は星から離さないマイクロトフにカミューは笑って頷いた。 「数十年、もしくは数百年に一度やってくると言われているんだ。俺たちは運がいいね」 「数百年……」 マイクロトフは途方もない数字に呆然と呟く。流れ星は星が燃え尽きる最期の姿だと聞いたことがある。ならば、この一瞬にも、この広い宇宙のどこかで星が一生を終えているのだ。もし、その星に生命が宿っていれば当然その命も終わる。そう考えると命などなんと呆気ないものか。そして、いつか自分たちが生きているこの星も同じ運命をたどるのかもしれないのだ。 美しくもどこか空虚感を覚える眺めに見惚れていたマイクロトフは、ふと、指先にぬくもりを感じて我に返った。 「おいっ……!」 周りに人がいるのを憚ってか、抑えつつも焦ったようなマイクロトフの声にカミューは笑って握った手に力を込める。 「大丈夫だって。みんな上を見ているんだから」 「阿呆! そういう問題じゃ……」 万が一、誰かが目にしたらどうするのか。大の男2人が手を繋いでいる光景など異様もいいところだ。 しかし、振り解こうにもカミューががっちりと指を絡めてしまっているため、まったく解けない。ばれたときはばれたときだ、と半ば自棄気味にあきらめて天体ショーを楽しむことにした。 少し離れたところで熱心に星を見上げていたカミューの姉の子が、ふと、母親・カミューの姉を振り仰いで無邪気に言った。 「ねえ、お母さん、こんなにたくさん流れ星が見られるなら、願い事がたくさん叶うね」 「ええ、そうね。たくさんお願いしてみなさい」 母親に優しく微笑まれ、子供は嬉しそうに頷くと、天に向かって目を閉じる。何か願い事をしているのだろうか。 そんな無邪気な光景にマイクロトフが知らず目を細めていると、隣でカミューが悪戯っぽく笑った。 「ねえ、マイクロトフ。こんなにたくさん流れ星が見られるなら、願い事がたくさん叶うね」 子供のセリフを真似してみせるカミューにマイクロトフは呆れたように口をへの字に曲げる。 「好きなだけ願えばいいだろう」 「そうかい。まあ、願うのはひとつだけなんだけど」 カミューは飄々と応えると、意味ありげにマイクロトフに視線を向け、握っている手に力を込めた。マイクロトフはわざとらしく視線をそらしていたが、その頬はうっすらと染まっている。 「一緒にお願いしてくれる?」 「……まあ、仕方ない」 2人は笑みを浮かべ、そっと目を閉じた。 |