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マイクロトフとカミューは夜道を歩いていた。 「どうしてマチルダの冬は晴れたほうが冷えるんだろうね」 マイクロトフに少し遅れて歩くカミューは、ぶるり、と身を震わせた。 初めて体験するマチルダの冬はカミューの想像を絶する寒さと雪の多さだった。グラスランドの乾いた冬とは違いすぎる。最初は積もった雪にはしゃいでいたカミューだったが、すぐにその量と寒さに辟易してしまった。 グラスランドでは冬に日差しが出るとぽかぽかと日向ぼっこができるというのに、ここマチルダでは晴れた朝と夜はとても冷える。今夜も煌々と月明かりに照らされているが、2人の吐く息は雪のように真っ白だった。 「俺も詳しいことはよくわからんがな。自然とは不思議なものだ」 振り返って応えるマイクロトフの鼻や頬はりんごのように真っ赤で、カミューは自分もそうなっているのだろうな、と思いながら少し足を速めてマイクロトフに並ぶ。 「どこまで行くの?」 こんな時間に。 いつも早寝早起きのマイクロトフが深夜になって、ちょっと外に出よう、とカミューを誘ったのだ。あまりにもめずらしいのでつい頷いてしまったカミューだが、身体の芯から冷える冷え込みに少々後悔していた。 そんな気持ちが問う声に現れたのか、マイクロトフはちょっと笑う。 「もう少しだ」 マイクロトフは励ますつもりなのかカミューの手を取って再び歩き出した。手を引かれたカミューは2、3歩たたらを踏んだが、なんとか体勢を立て直すとマイクロトフの隣に並んで歩き出す。 キン、と冷えた空気は怖いほど静かで、ざくざくと雪を踏みしめる音だけが鼓膜を震わせた。最初は冷たかった互いの手がだんだんとぬくもりを帯びてくる。 カミューはなんとなく寒いのが薄らいできたような気持ちになった。これならまだまだ歩ける。 そう思っていたのに。 「着いたぞ」 と、マイクロトフが足を止めてしまったのを少し残念に思った。 着いた場所は大きな木の元で。春は桜が咲いていたはずだった。しかし、今は冬。葉も落ちているはずである。 カミューはこんなところに何があるのだろう、と目を瞬かせた。 「見てみろ」 そう言ってマイクロトフが上を指差したため、カミューは上を見上げる。 すると。 「わ、あ……」 葉も落ちてしまった枝に雪が降り積もり、それはまるで……。 「花、のようだろう?」 感嘆の声を上げたきり身動きしないカミューにマイクロトフはどこか得意気に言った。カミューは、ぽかん、と口を開けたまま頷く。 確かに、桜の木に真っ白な花が咲いたようだった。月明かりに照らされた雪はキラキラと輝いて幻想的な美しさをかもしだしている。 「柔らかい雪が降ったときが一番綺麗なんだ。夕方、ぼた雪が降っていたから、きっと今夜がいいだろうと思って……」 マイクロトフは説明しながら自分も満足そうに目を細め、枝を見上げた。そして、カミューを振り返ると、 「冬の中で一番好きな景色なんだ。だからカミューに見せたかった」 と、どこか照れたように笑う。カミューはようやく枝から視線を外し、マイクロトフを見た。 「俺に?」 「カミューは初めてのマチルダの冬になかなか慣れることができずに嫌がっていただろう? だから、少しでも好きになってほしくて……」 カミューはマイクロトフの言葉に目を見開く。いつも寒がっているカミューに、「これくらいの寒さがなんだ!」と言っているマイクロトフがこんなことを考えていたとは……。 「うん……、そうだね。この景色は悪くない……かな」 カミューは一面の雪の華を見上げて嬉しそうに微笑んだ。 この日はひとつのベッドに二人で寝た。冷え切ってしまった身体はそうすることでしか暖めることができないのでは、というのはカミューの意見で、さすがにマイクロトフもそれに同意した。 はじめはどこか居心地悪そうにしていたマイクロトフだったが、気がつけば雪道を歩いたときと同じように手を繋いで穏やかな眠りについていた。 来年も、その次の年も。2人であの雪の華を見られることを願いながら……。 |