〜アイスクリーム〜




 風呂から戻ってきたカミューはその光景に呆れたように眉を寄せた。
「また食べてる」
「む……」
 気まずそうに慌てて背を向けたのは同室のマイクロトフ。どうやらカミューが風呂に入っている隙に食べてしまおうという魂胆だったらしい。カミューはタオルで頭を拭いながら歩み寄ると背後から覗き込んだ。
「今日、いったい何個目だと思っているんだい?」
「い、いや……」
 マイクロトフが口ごもった隙に無理矢理食べ終えようとしていたアイスクリームを素早く取り上げる。あ、と口を開けた後、不満そうに見上げてくるマイクロトフにカミューはたしなめるように睨み返した。
「いいかげんにしないと腹を壊すだろう」
 昔からアイスクリームを好物としていたマイクロトフだったが、最近はどうみても食べ過ぎの感がある。少し大袈裟に言えば、気付けば口にしているようなものだ。
「そんなにヤワじゃない」
「威張るな」
 マイクロトフの胃が丈夫なのはよくわかっている。しかし、そういう問題ではない。
 ぴしゃり、と怒られたマイクロトフはムッとしたように眉を寄せたが、さすがに分が悪いのか強い態度に出られない。今度は窺うように上目遣いでカミューを見つめた。
「食べたかったんだ……」
 ぼそり、と呟く姿はカミューのハートを鷲掴みする。カミューは思わず許しそうになったが、ぐっとこらえると心を鬼にして首を振った。
「……可愛い子ぶってもだめ」
 っていうか、いつのまにこんな必殺技を身につけていたのか。カミュー限定だが、恐ろしいまでに威力を持つ技に、カミューは、腕を上げたな……と気を引き締める。一方、壁の一片を突き崩しかけたことに勇気を得たマイクロトフはさらにその路線で攻めに出ることにした。
「だって、暑いんだ」
 じっと見つめてみる。
「わかるけど……」
 ここ、ノースウィンドウはマチルダとは比べ物にならないほど暑い。マチルダの騎士たちは全員夏バテ気味だった。
「だって、美味いんだ」
 小首を傾げてみる。
「それもわかるけど」
 同盟軍のシェフ、ハイ・ヨーの作る料理はすべて文句なしに美味い。つい食べ過ぎてしまうこともしばしばあった。
 カミューはマイクロトフの攻撃になんとか耐えると、苦笑を浮かべてマイクロトフにそっと口付ける。するり、と口内に舌をしのばせてマイクロトフの舌に絡めてみた。それは先程までアイスを食べていたせいで普段の熱さからは想像できないほど冷たい。
「ほら。こんなに冷えてる」
 口付けを解いて優しく囁くと、マイクロトフはわずかに頬を染めながらもまだどこか不満そうだ。カミューが宥めるように額にキスすると、その隙にカミューの手の中のカップを奪い取った。あ、とカミューが思う間もなくマイクロトフは少し溶けてしまったアイスクリームを口に運ぶ。
「こ、……」
 こら、と言おうとしたカミューの口は重なってきたマイクロトフの唇によって塞がれた。今度はマイクロトフのほうから舌を絡めてくる。舌に残っていたバニラの味がカミューの口内に広がった。
 目を丸くするカミューにマイクロトフは悪戯っぽく笑う。
「な、美味いだろ?」
 改心の一撃を見事に食らって硬直してしまったカミューだったが、ようやく呪縛が解けると悔しそうに唇を噛み、満足そうに残りのアイスクリームを平らげているマイクロトフの背後を睨みつけた。
「そこまでして食べたいわけ……」
 普段、どんなにねだってもマイクロトフからキスしてくれたことなど皆無に等しいというのに。
 地を這うような低い声にマイクロトフはぎくり、と身を強張らせた。恐る恐る振り返ると、それはもう、これでもか、というほど満面の笑みを浮かべているカミューがいる。
「そんなに好きなら仕方ないね」
 にーっこりと微笑むカミューに、許しが出たのか、と気を緩めかけたマイクロトフだったが、
「じゃあ、こうしよう」
「え?」
「アイスを食べた数だけセックス」
「なっ、そ、そんなには無理だ!!」
 即刻拒否されて、一体何個食べやがった、このやろう、とカミューは笑みを浮かべたまま青褪めて首を振っているマイクロトフを見つめる。
「だって、こんなに注意しているのにマイクロトフはちっとも聞いてくれないじゃない。俺は我慢しているっていうのに、マイクロトフがそれじゃあ、不公平だと思わない?」
「カ、カミューも食べたいのなら、食べればいいではないか……」
「うん。だからそうしようと思って」
 話が微妙に噛み合わないことに気付いたマイクロトフの背中に嫌な汗が伝っていった。マイクロトフはごくり、と咽喉を鳴らすと溶けて液体と化したアイスクリームを差し出してみる。すると笑みをはりつけたままのカミューが掴んだのはカップではなく差し出した腕だった。
「あ、あの、カミュー……?」
「じゃあ、遠慮なく……」
 いただきまーす、とマイクロトフのほうに体重をかけ、押し倒しにかかる。
「ちょっ、待て! カミュー!!」
「何個食べたかはこれからゆっくり聞き出してあげるからね♪」
「なっ……、んーっ!!!」


 この日以来、元・青騎士団長のアイスを食べる数が減った……かは定かではない。






カミュー「さあ、俺のアイスキャンディーを……」
マイクロトフ「……死んでこい」

没ネタ(あたりまえだ)

2004/4/24


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