〜玩具〜




 マイクロトフは執務の合間のわずかな休憩時間を得ると、息抜きがてら城内を散策していた。普段ならカミューと共に茶を飲んだりして一息つくのだが、今日は彼は休みである。
 外の空気が吸いたくなって庭に出てみると、庭の一角になにやら人だかりができていた。なんとなく興味を引かれてそちらのほうに歩み寄ってみると、その中心にいたのはカミューだった。
 カミューは手に何やらYの字の形をした棒のようなものを握り、その棒のYの字の両端に結ばれているゴムを指で手前に引っ張っていた。狙いをつけるように片目を眇めているその先に視線をやれば、遠く離れた木に風船が括りつけられている。そして、狙いが定まったのか、弓を射るかのようにゴムを引いていた指を勢いよく放した。
 一瞬後、ぱあんっと破裂するような音と同時に風船が割れていた。
 わっ、と周りの観客たちから歓声が沸き起こった。マイクロトフは何が起きたのかわからず、目を瞬かせる。
 すると、
「やあ、マイクロトフ。休憩かい?」
 人だかりの外側にいたというのになぜか目敏く見つけられてしまった。犬も真っ青な察知能力である。
 にこやかに声をかけられ、周りにいた人々の視線を一斉に受けたマイクロトフはばつが悪そうにわずかにうつむいた。
「何をやっているのだ?」
「カミューさん、すごいだワン! ガボチャのおししょうさまだワン!」
 代わりに答えたのは隣にいたコボルト族のガボチャだった。「お師匠様?」と的を得ない回答に首を捻るマイクロトフに、カミューは苦笑いして手に持っているものを見せる。
「いや、懐かしくて、つい、ね」
 それはガボチャが使用している、パチンコ、という武器だった。


 マチルダ騎士団に入団して半年も過ぎた頃、カミューはグラスランドから持ってきたものの、一度も開けていない荷物があることに気付いた。今まで開けていない、ということは必要性の薄いものである。当の本人も何が入っているのか覚えておらず、とりあえず開けてみることにした。すると、中から出てきたのは随分懐かしいものばかり。どうやらこの荷物は家族が、主に母だろうが、カミューが大事にしていたものを詰めてくれたものらしかった。カミューはその中のひとつを手に取って懐かしそうに目を細める。
「カミュー、それはなんだ?」
 マイクロトフがカミューの手に握られているものを興味深げに覗き込んできた。カミューはそれをマイクロトフの目線に掲げて答える。
「これはパチンコって言うんだ」
「パチンコ?」
 おうむ返しに聞いてくるマイクロトフにカミューはひとつ頷いた。
「このゴムの部分に石を引っかけて的を狙ったりするんだよ」
「石? 危ないのではないか?」
「そうだね。子供たちは最初は玩具だと思って無邪気に遊ぶ。だけど、そのうち誤って人にぶつけてしまったり、物を壊したりして、この玩具には殺傷能力があるということに気付くんだ」
 カミューの言葉にマイクロトフはカミューが生まれ育ったグラスランドという国は厳しい環境なのだということを改めて思い知る。自分で危険だと気付くまで放っておかれるなんて考えられないことだった。普通は親から玩具を与えられたときに、こんなふうに扱えば危険だからね、と注意される。甘やかされて育ったとは思わないが、カミューの話を聞けば聞くほど随分恵まれた環境であったことは比べるまでもなかった。
 グラスランドはマチルダに比べて様々な危険が多く存在し、幼い頃から生きていく方法、そして、戦い方を学ぶのだという。だからカミューの剣技は、街の道場で習う、型にはまった自分たちの剣筋とは違い、実践で磨かれてきた自己流に近いものだった。それは確実に敵を仕留めるために身につけたものであり、圧倒的な強さを持っていた。
「こんな玩具でも使い方によっては立派な武器になる。だから、遊びの中に狩りの疑似体験をさせるという目的もあるんだよ」
 カミューはそう言いながらゴムに指を引っかけて射る真似をする。マイクロトフは憧憬とも畏怖ともつかない表情を浮かべてその動作を見ていた。
 1歳しか違わないとは思えないくらいいろいろな面で大人びているカミューにマイクロトフは憧れに近い感情を抱いていた。生まれ育った環境の違いは今更どうすることもできない。だが、マイクロトフは努力を重ねてカミューに追いつき、対等に並び立てるようになりたい、と密かに目標にしていたのだ……。


 昔を思い出し、その頃に腕前を披露してもらわなかったことをなんとなく悔しく思いながらマイクロトフは感心したように、どこか呆れたように呟く。
「おまえ、本当になんでもできるんだな」
「野生児だったもので」
 カミューはすまして応えた。






やはり私の中のグラスランドは原始的…

2004/4/21


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