〜雨〜




 長い冬もようやく終わりが近づいてきたある夜、外は嵐のような大荒れの天気だった。
 激しい雨はガラスを割らんばかりの勢いで窓に叩きつけられ、猛烈に吹き荒れる風はガタガタと窓枠が壊れそうな音を立て続ける。時折、激しい雷鳴と共に部屋の中が真昼のように明るく照らされた。
 本を読み終えたカミューは、就寝の時間がとっくに過ぎていたためとりあえず布団に入ったものの、とてもではないが寝付けそうにない天気である。雷が怖い、という歳ではないが、夜の雷はやはりどこか恐怖心を煽るものだった。
 カミューは、隣のベッドに先に入っていたマイクロトフもまだ起きているだろうと思い、そっと話しかけてみる。
「酷い天気だね」
「そうだな。だが、これがないと春が来ないのだ」
 案の定、返事はすぐ返ってきた。寝付けなかったのなら起きていればよかったのに、とマイクロトフの生真面目さをおかしく思いながら、カミューは、
「そうなの?」
 と、もぞり、と寝返りを打ってマイクロトフの方に向き直った。マイクロトフも同じように身体を捻り、カミューと向き合う。暗闇にぼんやりと互いの顔が見えた。
「冬の終わりに必ずこんなふうに天気が荒れる日がある。春の嵐、とでも言うのだろうか」
「へえ〜」
 カミューはマイクロトフの説明に興味深そうに相槌を打った。グラスランドとは気候が全然違うため、マチルダの人間にとってはあたりまえのこともカミューには新鮮な話である。
「たしかに、雪じゃなくて雨だもんね」

 真冬に比べればだんだんと降雪量が減り、日が差す時間も少しずつ長くなってきたが、まだまだ寒さは厳しかった。人が歩く道からは雪はだいぶ消えてきたが、道路の脇には雪山が残っている。その景色を横目に、春はまだまだ先かなぁ、と凍える手に息を吹きかけながら歩いていたというのに。夜に雨が降るなんて。

 ピカッと目が眩むほど激しく光ったかと思うと直後に、ドドンッと地響きのような雷がなる。2人は思わず首をすくめた。
「それにしてもすごいね」
「そうだな。小さい頃からこの日は待ち遠しいような来ないでほしいような、複雑な気持ちで迎えていた」
 マイクロトフの言葉にカミューは、なるほど、と思う。この嵐は春の訪れを告げるものだから、もちろん早くきてほしいだろう。だが、こんなに天気が荒れるのでは、大抵雷が怖い存在である幼少の頃には少し過酷だったかもしれない。この歳になっても夜の雷はどこか落ち着かないのだから。
「マイクロトフも小さい頃は泣きながら母さんに抱かれていたというわけか」
 にやり、とからかうように笑ったカミューにマイクロトフはムキになって言い返した。
「なっ、だ、誰が泣くだ!!」
 必要以上に大声になったのは密かに今もどこかに恐怖心が芽生えていたからである。カミューも同じ心境だとは気付かず、ばれたら更に馬鹿にされる、と必死に隠そうと虚勢を張っていた。
 カミューは宥めるように、まあまあ、と笑うと、するり、と布団を抜け出してマイクロトフのベッドに潜り込んだ。ぎょっとしたように身を引こうとするマイクロトフにかまわず、カミューはぎゅーっと抱きつく。
「でも、春になったらこんなふうに一緒に寝ることもできなくなるね」
 マチルダの寒さに慣れないカミューが、寒くて眠れない夜はよくこうして一緒に寝ていた。最初は抵抗があったマイクロトフだったが、人のぬくもりというのは思った以上に心地良く、そのうち温かさだけではなく、どこか安心するようになってからは密かに楽しみにしていたところもある。カミューの言葉を聞いて、心のどこかでがっかりしている自分に気付いたマイクロトフはばつの悪さを誤魔化すようにそっぽを向いた。
「……冬が終わってもマチルダはしばらく寒いからな。カミューが寒くなくなるまで好きにすればいい」
 ぼそり、とぶっきらぼうに呟かれたセリフにカミューは一瞬目を見開いたが、次いで嬉しそうに笑った。こんなふうに安心できる相手とくっついて寝ることを心地良いと思っているのが自分だけではなかった、ということにくすぐったいような嬉しさが込み上げてきたのだ。何かからかいの言葉を口にしようとしたとき、部屋の中が真っ白い光に包まれると同時に腹に響くような激しい雷鳴が轟く。
「わっ、こわ〜い」
 カミューはわざとらしく言うとマイクロトフの胸元に頬擦りするように擦り寄った。からかわれていると思ったマイクロトフは怒って引き剥がそうとしたが、どこか満足げに目を瞑っているカミューを見ると、大きな猫みたいだ、とおかしくなってくる。まあ、いいか、と怒りが逸れ、自分も寝ようと目を閉じた。
 雨の音は相変わらずうるさいほど激しかったが、2人は互いの鼓動を聞きながら穏やかな眠りについた。






くっつく前からベタベタな2人…

2004/4/12


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