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新年度が始まる4月1日。 ようやく春めいてきたロックアックス城内は騒然とした雰囲気だった。 昇格し肩書きができる者、配置換えで部署を移る者、無事定年を迎え騎士団を去る者、従騎士から正騎士へとなり志を新たにする者、入団試験に合格し希望と憧れに胸を膨らませ従騎士となる者。様々な人間たちが大忙しとばかりに城内を駆け巡る。 そんな中、もうひとつ飛び交うものがあった。 「ゴルドー様がダイエットをはじめるそうだ!」 「カミュー様が酒に酔ってご婦人のスカートに手を突っ込んだらしい!」 「マイクロトフ様がご婚約されたんだと!」 白・赤・青の騎士たちは厳しい視線を交わした。 「ゴルドー様は医師に肥満による内臓疾患で余命半年と宣告されたそうだ」 「カミュー様は日頃のストレスが原因でそんな狼藉に出たらしい」 「マイクロトフ様は酒に酔ったところを女性に押し倒されて既成事実を作られたんだと」 白・赤・青の騎士たちはバチバチっと火花を散らして睨み合う。誰もが一歩たりとも引く様子がなかった。 「ゴルドー様は……」 「カミュー様は……」 「マイクロトフ様は……」 「いいかげんにせんか! このクソ忙しいときに!!」 「口を動かす暇があったら手と足と頭を動かせ!!」 「だっ、誰が女性に押し倒されただ!!」 まさに一発触発だった状態を打ち破ったのはそれぞれの長たちだった。あ、と固まった騎士たちは恐る恐る声のしたほうに視線を向け、そこに立っているのが本物だと認識すると蜘蛛の子を散らすように、わーと散り散りに逃げていった。3人は、ふう、とため息をつく。毎年恒例のことなのでこれ以上怒ったりすることはない。 「まったく。今年の噂は品がないな。私がどんなに酔っ払ったところでご婦人に乱暴をはたらくわけがないじゃないか」 「……俺が酒につぶれるわけがないだろうが」 苦虫をつぶしたような表情を浮かべる2人にゴルドーが、にたり、と笑う。 「だいたい、誰がダイエットが必要だと言うのじゃ。なあ?」 いや、それは本当にしたほうがいいと思います。 2人はそう思ったが口にはしなかった。彼らとてサラリーマンである。 騒ぎが一段落すると、今日はいつも以上にあちこちにひっぱりだこの団長たちはそれぞれの次の仕事へと足早に向かった。 ようやく1日が終わり、マイクロトフの私室にカミューが訪ねていた。2人は今日の疲れを癒すように甘めの酒で咽喉を潤している。 「なぜ、こんなに忙しい日がエイプリールフールなのだろうか……」 「まあ、それは俺たちが討論したところでどうなることでもないけどね」 昼間の噂を思い出したのか、うんざり、といった様子のマイクロトフにカミューは軽く肩をすくめる。 今日は年に一度の嘘をついてもいい日。普段は堅苦しい騎士団も今日ばかりは無礼講と各騎士団が様々な嘘を考え出してくる。まったくの信憑性のない嘘ではすぐに笑い飛ばされてしまうため、微妙にありそうなネタを持ち出すのだ。それをムキになったように競うのが風習となっていた。 マイクロトフはともかく、カミューも平騎士時代にはその巧みな話術でいろいろとやってきた。だから、あんな騒ぎになろうとも大目に見るのだが……。 「それにしてもご婦人のスカートの中に手を突っ込むだなんてひどいな。マイクロトフのスカートの中ならともかく」 「俺のスカートってなんだ!!」 「あの長衣のひらひらとした裾の感じがこう……」 そう言いながら、めくるような手付きをしてみせるカミューにマイクロトフは立ち上がって拳骨を振り上げた。しかし、疲れのほうが勝るのか、盛大なため息をつくと再び椅子にもたれる。怒りの矛先を向けたのか、ぐい、と酒を飲み干すマイクロトフにカミューは笑って次の杯を注いでやった。 「まあ、どうせ噂を流すなら、俺たちがデキている、とかいうのがよかったけどなー」 カミューの軽口にマイクロトフはなんともいえない顔なると、その杯も一息に空けた。 「それは嘘ではないだろう……」 |