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マイクロトフは走っていた。 全力で走り続けた心臓は破裂しそうなくらい早鐘を打ち、足は何度ももつれそうになったが、それでも足を止めることはできなかった。 オレ ノ コト 『好き』 ダロウ? 耳の奥にこだまするカミューの声。心臓が止まるかと思った。どうしてばれてしまったのか。ずっと隠していたつもりだったのに……。 マイクロトフは厩舎のはずれの大木にたどり着くと、力尽きたようにずるずるとその根元に座り込んだ。 カミューを好きだと思ったのはつい最近のことである。もちろん、友人としてはずっと前から好きだったのだが、他の友人とは違う『好き』を自覚したのはひょんなことがきっかけだった。それは、恋愛事を苦手としている自分にしては奇跡に近い出来事であったであろう。 最初は勘違いだと思った。何せ、相手はいくら綺麗な顔立ちをしているといっても男で、しかも自分たちは自他共に認める親友だったのだから。だが、何度己の気持ちに問いかけてみても答えは変わらず、自分の気持ちを認めざるを得なかった。 しかし、認めたからといって気持ちが楽になったわけではない。 真っ先に浮かんだのはこの想いがばれてしまってはカミューの傍にいられなくなるということ。誰が同性に好かれて嬉しいだろうか。軽蔑され、嫌悪されるに決まっている。 何があってもカミューの隣に立てなくなるのは嫌だったマイクロトフは自分の気持ちを押し殺すことを決意したのだ。 それなのに……。 ばれて……しまった……。 マイクロトフはわずかに震える手で顔を覆った。 これからどんな顔をしてカミューに会えばいいのか。いや、カミューに会うことができるのか。きっと気味悪がって自分を避けるに違いない……。 マイクロトフの心は絶望に黒く染まった。 初めて剣を交わした日、友達になろうと言われて嬉しかった。後で再会したら自分から申し出ようと思っていたのだから。あのときのカミューの緊張した顔、ほっとしたように笑った顔、くすぐったそうに笑った顔は今でも覚えている。 仲良くなるにつれ、カミューの態度が、自分に対するときと周りの人間に対するときに違いがあることに気付いた。 カミューは異国からきたというハンデを乗り越えるために、巧みな話術で同期の輪の中に積極的に加わっていた。そういうことが苦手なマイクロトフは遠巻きに見ているだけだったが、ある日、そんなカミューの姿を見ていて違和感を覚えはじめた。表情がいつもより乏しいように思えたのだ。 輪の中のカミューはいつも笑みをたたえていた。それは一見、人当たりのいい笑み。だが、マイクロトフと一緒にいるときのカミューの笑みは屈託のない、明るいものだった。あんなふうに大人びた笑みを浮かべたりしない。マイクロトフが何かおかしいことを言ったときは遠慮なく笑うし、こっちが本気で怒るほどからかってもくる。歳相応に様々な表情を浮かべていた。 それを疑問に思い、カミューに聞いてみたことがあった。すると、カミューは例の屈託のない笑みを浮かべて、 「馬鹿だなぁ。おまえとあいつらが同じわけないだろう」 と、あたりまえのように答えた。わけがわからない、というふうに首を傾げるマイクロトフにカミューは軽く肩をすくめる。 「あいつらとはうわべだけの付き合いさ。向こうだってそう思ってる」 「そうなのか?」 マイクロトフは、あんなに楽しそうに話しているのに、と思ったが、カミューはふと、皮肉げな笑みを浮かべた。 「単に毛色の変わった人間に興味があるだけだって。 けど、マイクロトフは違うだろう?」 「違う?」 「俺が、もし黒髪に黒い瞳だったら友達になっていなかった?」 「何を言っているんだ。カミューはカミューであって、容姿は関係ない」 思わず眉を寄せるマイクロトフにカミューは、そうだろう、というふうに頷いて嬉しそうに笑う。 「だから、おまえは特別なんだよ」 陽に透けるような琥珀色の瞳が細められるのが好きだった……。 カミューは厩舎のはずれでようやくマイクロトフを見つけ出すことができた。大木の根元で膝を抱えて座り、そのあいだに顔を埋めている。おおよそ彼らしくない姿だった。 声をかけようかと思ったが言葉が見つからず、カミューはそっと大木に近づくと、反対側に同じように腰を下ろした。普段は気配に敏いマイクロトフだが、全然気付いていないようである。一瞬、泣いているのかと思ったが、しゃくりをあげている様子はなかった。 カミューは背中を幹に預け、ぼんやりと空を見上げる。 どうしてマイクロトフの気持ちを暴いてしまったのか。 答えを探さねばならなかった……。 |