|
「ほら」 声と共に、ことり、と机に置かれたものにカミューは目をやった。 それは明るい色紙に包まれた小さな飴玉。 余裕で逞しい部類に入るマイクロトフがこんな可愛らしいものを持っているなど、似合わないことこの上ない。カミューは書類に走らせていたペンを止め、頬杖をついてマイクロトフを見上げた。 「どうしたの? これ」 「疲れているときは甘いものが欲しくなるだろうと思って……」 語尾を少し濁すのは照れ隠しであることをカミューはよく知っている。ふうん、と呟きながら、うっすらと朱に染まっていく白い頬を目を細めて見ていた。 ここ何日か、カミューは執務室に監禁されているようなものだった。朝から晩まで一日中書類との格闘を余儀なくされたのである。その原因は、ここ新・都市同盟軍の人手不足によるものであった。肉体派は人材豊富だというのに、事務系が全く足りなかったのである。マチルダ騎士団から離反した赤・青両騎士団の騎士たちを信用に足る集団だ、と判断した軍師・シュウはカミューに協力を求めた。マイクロトフに行かないあたり、シュウの観察眼は優れているといってもいいだろう。一日でも早く、皆が新しい環境に馴染むように上手く振る舞おうと思っていたカミューはちょうどいい機会だと考え、快く応じた。 それがこんなことになろうとは。 直接引き受けた自分はともかく、別室で同じ状況にあるであろう部下たちに申し訳なく思っていた。 マイクロトフの気遣いを嬉しく思いながらカミューはペンを置き、包みを手にする。 「じゃあ、せっかくだしいただこうかな」 するり、と包みを解き、中から出てきたべっこう色の飴玉を、ぽいっと口の中に放った。舌で転がすと口の中に甘い香りと共にどこか懐かしい甘味が広がる。 「うん。甘くて美味しいね」 カミューは蕩けそうな笑みを浮かべてマイクロトフを見た。味云々よりなにより。普段は朴念仁だのなんだのと言われているこの男が、こんな真似をしてくれるのは恋人である自分にだけだ、などと思うのは自惚れだろうか。 なんて幸せに浸ったカミューだったが、マイクロトフの顔はどこか仏頂面だった。 「マイクロトフ?」 「……アレはもうやらないんだな」 怒ったように、それでいて少し残念そうに呟くマイクロトフにカミューは首を傾げる。 「アレ?」 「いや、いい」 マイクロトフは軽くため息を吐くと言葉を切った。カミューは、なんのことだろう、とちょっと焦りながら記憶をめぐらせる。 もうやらないのか、と言うのだから昔はやっていたこと。食べるときの癖? 飴……? あ……、とカミューは思った。ようやく思い出した。それは、少年時代に飴を食べるときに自分がやっていたこと。マイクロトフに、食べ物を粗末にしているようだ、と怒られ止めたはずの……。 「マイクロトフ」 カミューはこみあげてくる笑いをこらえ、手袋を脱ぐとおもむろに立ち上がった。 「……なんだ?」 「ちょっと預かってくれる?」 マイクロトフが、何をだ、と問い返すより先にカミューの唇が重なってきた。驚くマイクロトフの無防備な口腔にカミューは飴玉をころり、と舌で押し込み、素早く離れる。 「なっ……!」 顔を真っ赤にして絶句するマイクロトフにカミューは笑いかけると、机の上のもうひとつの包みに手を伸ばした。中から飴を取り出すと人差し指と親指でつまみ、今度は口に入れずに窓際にかざしてみせる。 「やあ、綺麗な色だ」 陽の光を浴びたべっこう色の飴は透き通った黄金色に光り輝いていた。 「ほら、マイクロトフ。綺麗な黄金色だとは思わないか?」 カミューは子供のように笑い、マイクロトフを振り返る。 昔、カミューは飴を食べるとき、必ず陽の光に透かしてみる癖があったのだ。陽に透かしてみると、また色合いが変わる。それを発見するのが好きだった。しかし、それをするとマイクロトフが嫌な顔をするから直したというのに……。 「……ああ、そうだな」 マイクロトフはいつもより低い声で応えたかと思うと、カミューの腕を掴み、つままれている飴に食らいついた。唖然とするカミューにマイクロトフは、ふん、と鼻を鳴らす。 「なっ、何をするんだよ! 俺に持ってきてくれたんだろう?! 2個とも取ることないじゃないか!」 「うるさい」 マイクロトフの声と共に、カチカチ、と口の中で固いものがぶつかる音がした。 「おまえが見たいって言ったんだろう?!」 やらせておいて、やはり行儀が悪い、と怒っているのかと思ったカミューは情けない顔で弁明する。しかし、マイクロトフは顔を赤くして怒鳴り返した。 「だからって、あ、あんな真似をするヤツがいるか!」 ……どうやら飴を預けた行為がまずかったらしい。カミューは、ならば、とマイクロトフを捕らえにかかる。 「それなら力ずくで返してもらおうか!」 「?! やっ、やめろ……っ!」 「おまえの好意を無駄にしたくないからね〜♪」 「!!!」 |