〜氷〜




 月の光は嫌いだ。
 あの白い光を浴びていると、どんな隠し事もできないのではないかと思ってしまう。夜なのに、眩しいばかりのあの白い光の下では、何を隠そうとしても無駄のような気がする。きっと、すべてが曝け出されてしまう。
 ひた隠しにしている、彼への想いも……。


 夜、ふと目を覚ますと、隣のベッドで寝ているはずのカミューの姿がなかった。
マイクロトフは、トイレにでも行ったのだろうと思い、再び目を閉じる。しかし、眠りの波はなかなか訪れず、そして、その間、同室者も一向に帰ってくる気配がなかった。
 なんとなく気になり、マイクロトフはむくり、と起き上がると隣のベッドの布団の中に手を入れてみる。するとぬくもりはとうの昔に失われ、ひやりとした感触ばかりが残っていた。

 こんな時間にどこに行ったんだ……?

 マイクロトフが就寝するときはカミューも布団に入り、寝る体勢だったはずだ。マイクロトフは昼間の訓練の疲れが出てすぐ眠ってしまったため、カミューがいつ頃眠ったのかはわからない。ひょっとして、自分が寝てからすぐ抜け出したのだろうか。
 マイクロトフはそんなことを思いながらとりあえず窓際に向かい、カーテンを開けてみた。とたん、眩いばかりの光が目を刺し、マイクロトフはわずかに目を細める。今日は満月なのか、月明かりが煌々と照らされていた。ようやく目が慣れ、下に目をやると、果たしてカミューの姿があった。その姿にマイクロトフは思わず息を飲む。
 マチルダでは見られない亜麻色の髪は月明かりを浴びて黄金のごとく光り輝き、端正な顔は白く浮かび上がって、彫刻のごとく美しい。
 しかし、見惚れているのも束の間、カミューがこの寒い日に上着も着ず、夜着のままであることに気付く。何をするわけでもなく、ぼんやりと月を見上げているように見えるカミューに、マイクロトフは、仕方のないヤツだ、と呟くと上着を羽織り、カミューの分の上着を手にして部屋を出た。


 外に出てもカミューは立ち尽くしたままだった。冴え冴えとした白い光の中に立つその姿は溶けて消えてしまいそうなほどどこか儚く、マイクロトフはどきり、とする。だが、外気の冷たさに我に返るとカミューのほうに歩み寄った。
「カミュー」
 名を呼ばれ、カミューが振り返る。その顔は驚きの表情を浮かべていた。
「マイクロトフ……」
「何をしている。風邪を引くぞ?」
 マイクロトフは言いながら上着を差し出す。カミューはもう一度目を瞬かせて、「ありがとう」と言いながら受け取った。
「心配かけちゃった?」
 ごめんね、とカミューは謝る。マイクロトフが黙ってカミューを見ていると、カミューは再び月を見上げ、独り言のように呟いた。
「月が……あまりにも綺麗だったから」
 マイクロトフもつられて月を見上げる。確かに煌々と光る月は幻想的で美しかった。
 しかし。

 月の光は嫌いだ。

「そろそろ帰らないとね。明日、起きられなさそうだ」
 カミューはそう言って笑うと宿舎に向かって歩き出す。だが、後ろからマイクロトフがついてこないことに気付くと、怪訝そうに振り返った。
「マイクロトフ?」

 隠し事が曝け出されてしまうような気がするから……。

「どうしたの?」
 カミューは立ち尽くしているマイクロトフに首を傾げる。

「おまえが、好きだ」

 ほら……言ってしまった……。






赤←青な感じで

2004/2/28


−back−