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自分と同じ名前の酒がある、と言われ、好奇心で買ってみた。ロックで飲むのがいい、と聞いたので氷を調達し、幅の広いグラスに氷を入れ、酒を注いでみるとその液体は自分の目の色に似ているような気がした。 コンコン、という規則正しく、それでいて特徴のあるノックの音がしたかと思うと、返事を返す間もなく、「入るぞ」とノックの主が部屋に入ってきた。カミューは振り返ることもせずに月を仰ぎながらグラスを口に運ぶ。それは、自分の領域に勝手に入ってくることを唯一許している相手だから。その相手・マイクロトフもカミューが自分を見ようともしないことを気に留めた様子もなく、ずかずかと近寄ってきた。 「何を飲んでいるんだ?」 椅子に腰掛けているカミューの背後からマイクロトフが手元を覗き込む。カミューは、飲むかい? とグラスを掲げた。 「酒か?」 マイクロトフはグラスを受け取ると鼻を近づけ、匂いを嗅いだ。そして、少し口をつける。 「美味い」 「おまえは酒ならなんでも美味いだろう」 カミューがグラスを受け取りながら声を立てて笑うと、マイクロトフはムッとしたように眉を顰めた。 「そんなことはない。ちゃんと不味い酒だってある」 「最初は不味いと言っていても、そこそこ飲めば、後はアルコールさえ入っていればなんでも同じくせに」 「なんだと!」 からかうカミューにマイクロトフは更に反論してくると思いきや、カミューの手からグラスをひったくると一気に咽喉に流し込んだ。液体は氷で冷やされているというのに、アルコールの焼けつくような塊が咽喉を通り過ぎた感覚にカッと身体が熱くなる。 「ああっ、けっこう高かったんだぞ!」 いささか情けない声を上げるカミューにマイクロトフはフン、と鼻を鳴らした。そして、傍らに置いてある瓶を取り上げ、蓋に手をかける。カミューは慌てて立ち上がった。 「ちょっ、待て、こら!」 「高い酒なんぞ買ってきて、もったいぶって飲むほうが悪い」 瓶を奪おうと手を伸ばすカミューから逃れるように、瓶を後ろ手に高く掲げながらマイクロトフは舌を出す。そして、隙をついて空のグラスに酒を注ぐと、ぐいっと呷った。 「あああー!」 カミューは悲痛な叫びを上げたが、ふと、満足そうに舌で唇を舐めているマイクロトフをじっと見つめる。 「……美味しい?」 「ああ、美味い」 上目遣いに見つめてくるカミューを、酒を取られたことを拗ねているのか、と思ったマイクロトフは、にやり、と笑った。しかし、 「それ、なんていうお酒か知ってる?」 一見、全然関係のないことを問われ、怪訝そうに眉を寄せる。 「……いや」 マイクロトフは言いながら酒瓶のラベルを見た。そして、目が点になる。 「カ、ミュー……?」 「ん? なあに?」 もちろんカミューを呼んだわけではないのだが、カミューがわざとらしく返事をした。だが、マイクロトフはそれに反応するどころではないらしく、ラベルをまじまじと見つめている。その様子をカミューはにやにやと眺めていた。 「ふーん。俺の名前のお酒、そんなに美味かったんだ〜?」 名前がいいもんね〜と、カミューが言うと、 「ううう、うるさい! どうりで後味がしつこいと思ったんだ!!」 マイクロトフは頬を赤らめて怒鳴ると、再び瓶からグラスに酒を注ぎ、少々乱暴なしぐさで飲み干した。勢いよくグラスを呷ったために氷までもが口の中に入ってしまう。あ、と思ったが、まさか吐き出すわけにもいかず、仕方なくカミューを睨みつけながらガリガリと齧りはじめた。カミューはその小気味いい音を聞きながら小首を傾げる。 「俺の名前、俺の目の色がその酒の色に似ているからって酒好きの親父がつけたんだ」 「え? そうなのか?!」 目を丸くするマイクロトフにカミューは、ぶっと吹き出した。 「嘘に決まっているだろう」 腹を抱えて笑うカミューにマイクロトフは真っ赤になる。初めてこの酒の色を目にしたとき、密かにそう思っていたため、一瞬、本気にしてしまったのだ。 「カミューっ!」 マイクロトフが殴りかかりそうな勢いで怒鳴ると、カミューは笑いながら逃げるように首をすくめた。殴られることをある程度覚悟していたのか目を瞑るカミューに、マイクロトフは口の中の氷を手に吐き出すと、無防備になった背中に入れてやる。 「ひゃっ!」 すっとんきょうな声を上げたカミューに、マイクロトフの気が少し晴れた。 |