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「ん。このソースはおまえ好みかも。ほら」 運ばれてきた料理を一口口にしたカミューに差し出されたフォークを、マイクロトフは反射的に口にしていた。その光景に、ちょうど2人のテーブルの脇を通りかかったウェイトレスがくすり、と笑みを漏らすのを耳にして、マイクロトフはハッと我に返る。 「カ、カミュー……!」 顔を赤らめて抗議の声を上げるが、 「どう?」 と、感想を問われれば 「む、う、美味い……」 思わず素直に応えてしまう。 「だろう?」 マイクロトフの動揺する様など目に入らないかのようににっこりと笑うカミューを見て、マイクロトフは毒気を抜かれて肩で息を吐いた。 「ほら、おまえも冷めないうちに食べなよ」 「あ、ああ……」 促されてマイクロトフもフォークとナイフを手にする。少し冷めてしまった料理を口にしながら、料理を冷ましてしまった原因をもう一度己の中で反芻する。 こういうのを世間はなんというのだろう……。 マイクロトフはカミューのことを親友だと思っていた。だから、仕事以外でも時間が空けばこうやって一緒に食事をしたり、互いの部屋で共に過ごしたりする。しかし、 『俺は、おまえが好きだよ』 何気ない会話の途中でさらりと告げられた言葉。その口調があまりにもあっさりとしていたため、マイクロトフは深く考えずに「俺もだ」と応えていた。好きじゃなければ親友だなんて言えるはずもない。しかし、カミューは苦笑を漏らすと、「そうじゃなくて」、と即座に否定してきた。 「……どういうことだ?」 「俺のは、恋愛感情ってこと」 レンアイカンジョウ? マイクロトフの頭の中でその8文字を漢字に変換するのにたっぷりと5秒はかかった。そして、その変換結果が理解できずにうろたえる。 「な、な、なんだと?!」 「そんなに驚くことかな? 俺は意外とあっさりと受け止めたけど」 「受け止めただと……?」 「うん。ちょっとこの気持ちの正体がわからず、もやもやしていた時期があったんだけどね。ひょっとしておまえが好きなのかなって思ったら、すとん、と胸のつかえが取れたんだ」 そのときの心境を思い出しているのか、穏やかな表情で胸に手を置くカミューにマイクロトフは思い当たる節があった。 「……ひょっとして妙に俺を避けていたときか?」 「ああ、やっぱり気付いていた?」 おまえに気付かれるなんて相当煮詰まっていたんだなぁ、などとのんきに笑う男にマイクロトフは、あのときはそんな事情があったのか、と納得しかけ、いや、それどころじゃない、と慌てて頭を切り替える。 「そ、そうではない! 何がどうしてそんな結論に達したというのだ!」 「んー。なんとなく?」 「なっ、なんとなくだと?! そんな適当なものなのか?!」 そんなやりとりだったものだから、マイクロトフはいまいち真意を測り損ねている。だいたい、あんなことを言っておきながら、カミューの態度はまったく変わらない。こうして気軽に食事に誘い、他愛のない話をする。以前と何が違うというのだろうか。 「どうしたの? 口に合わないかい?」 「いや、そんなことはない」 「さっきからずっと上の空だね」 まだまだ色気より食い気といった感じのマイクロトフが、好物の肉料理を前にしてフォークが止まるなどという珍事はめったにお目にかかれるものではない。カミューは少し困ったように笑いながら首を傾げた。 「ひょっとして俺が原因?」 「そっ、それは……!」 あからさまに口ごもるマイクロトフにカミューはますます困ったように、しかし、優しい笑みを浮かべる。 「ごめん。俺があんなことを言ったからだね」 「そ、そうだ! おまえ、あんなことを言っておきながらまったく変わらないではないか!」 いい歳した男同士が「はい、あーん」とやっていることを『変わらない』と思っているあたり、相当カミューに洗脳されてきているのだが、悲しいかな、マイクロトフが気付く術はない。 「変わる必要があるのかい? おまえはどうしたいの?」 「な、なに?」 告白してきたのはカミューのほうだというのに、なぜ自分がどうしたいと聞かれているのか。マイクロトフは理不尽ともいえる無茶振りにひどく混乱する。 「か、変わらなくていいのか?」 「うん。このままで俺は充分楽しいからね。これからどうなっていくかは流れにまかせるのが一番だと思うけど」 「そ、そんなものなのか……?」 友人関係と恋愛はどのくらい違うものなのか。腑に落ちない表情を浮かべるマイクロトフにカミューはにっこりと笑った。 「いいじゃないか。曖昧にしておくのもいいものだよ」 「……俺は曖昧なのは好かん」 マイクロトフが憮然とした表情でつぶやくと、カミューは、らしいな、と思いながら優しい笑みを浮かべる。 「そう? 俺は好きだけどね。曖昧という文字の中には『愛』という字も含まれているじゃないか」 「!!」 やはり食えない男だ、とマイクロトフは今更ながらに強く思った。 |