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「マイクロトフ……」 「なんだ?」 「マイクロトフ」 「だから、なんだ?」 「俺は……おまえが好きなんだ……!」 「ああ、わかったわかった」 マイクロトフは投げやりに応えると、少し癖のある茶色い髪をぐしゃぐしゃとかきまぜた。すると、さっきまで熱っぽく語っていたカミューは何やらむにゃむにゃと言葉にならない声を上げ、そのまま静かになる。 その様子を見てマイクロトフは疲れたようにため息を吐いた。 「おまえは……いつになったら面と向かって言う気なんだ?」 問うたところで返事はない。それはそうである。今のカミューは夢の住人なのだから……。 寝言に返事をするのはよくない、とどこかで聞いたような気がするが、こう夜な夜な呼びかけられては無視するのにも疲れてくる。最近ではこうして一方的に返事をしてやるのが癖になっていた。 マイクロトフがカミューのこんな寝言を聞くようになったのは、ここ新都市同盟軍に参入してからのことである。いや、ひょっとすればマチルダにいた頃から言っていたのかもしれないが、従騎士のときに同室で過ごした以来、一緒の部屋で寝ることなどなかったのだから、その後のことは知りようがない。 新都市同盟軍の本拠地となっているノースウィンドウ城は充分な広さはあるものの、人手不足によりまだ手付かずの場所が多く存在した。そんな中にマチルダ騎士団の約半数が一気に参入してきたのだからたまったものではない。部屋数がまったく足りず、マイクロトフとカミューはさして広くもない空間にベッドがひとつ、という部屋で寝泊りすることとなった。 だが、日中は職務があるため部屋は使わないし、片方が城主のお供としてパーティを組み遠征することもあれば、夜警の当番が回ってくることもある。それに、そんなに冷える季節でもないため、床に毛布にくるまって寝ても風邪を引くような時期でもない。そのため、就寝に関してはさほど不便を感じることもなかった。だが、マイクロトフは思わぬ方向から悩みを抱えることとなってしまったのである。 カミューの寝言は、はじめのうちは「好き」という単語がかろうじて聞き取れるくらいの曖昧なもので、マイクロトフは、ひょっとしてマチルダに想い人を残してきたのだろうか、と心配したものだった。それが、ある日突然、自分の名前を呼ばれたのだから驚くなというほうが無理である。 ときには切なく。ときには情熱的に。そして甘く、苦しげに……。 夢の内容に左右されるのか、その日によってまったく違う口調で、だが、変わらずに愛の言葉を口にするカミュー。 初めて耳にしたときは頭の中が真っ白になった。男が男を好きだなどということはマイクロトフには考えたこともなかったのだ。それが、常に隣に立ち、長年支えてくれていたカミューが、自分のことをそんなふうに思っていたなんて。 そのショックが過ぎると、次に考えたのは、そのうち直接この想いを告げられるときがくるのでは、ということだった。その想像にマイクロトフは激しく動揺し、思い悩んだ。もちろん応えることなどできない。マイクロトフはカミューをそんな対象として見たことなどまったくなかったからだ。 そのため、はじめのうちはどういう言い方をすれば彼を傷つけずに済むのか、ということばかりを考えていた。だが、日にちが経つにつれ、マイクロトフの中で少しずつ心境の変化が起こり始めたのである……。 昼間は何一つ変わらない態度で親友として接するカミュー。 それが夜になると切々と愛の言葉を口にするのだ。 マチルダに居た頃、カミューの周りでは華やかな噂が耐えなかったというのに、心の奥底ではこんなにも一途な恋情を秘めていたというのか。そんなことを思うと、だんだんとマイクロトフの中でカミューの想いを否定する気持ちが消えていった。 きっと、男同士であるがゆえ、親友同士であるがゆえに、想いを口にしたらすべてが終わってしまうと恐れているのだろう。そうやって昼に想いを閉じ込めている分、夜、意識を手放して無防備になってしまうと何度も口を突いて出るのではないか。 ほだされたと言われればそうかもしれないが、気が付けばカミューの気持ちを受け止めたいと思うようになっていた。こんなに切羽詰っているのだから、近いうちにこの想いを伝えてくるだろう。そのとき自分は彼の気持ちを受け入れるのだ……。 そんな結論に辿り着くと、今までの悩みも吹き飛び、ようやくすっきりした。昼間の涼しい顔のカミューを見ていると、俺はおまえの秘密を知っているんだぞ、みたいな優越感に似た高揚した気持ちになり、夜に一方的な愛を語るカミューには、早くその想いを打ち明けろ、と笑みさえ浮かべて聞き入るようになった。 そんなふうにカミューの告白を待っている時間を楽しんでいたマイクロトフだったが、次第にイライラしはじめることとなる。 いったいいつになったら話すつもりなのだ、と。 己を押し殺すにもほどがある。どこまで我慢強いというのか、この男は。ほんの少し勇気を出せば明るい未来が待っているというのに。 正直、待ちくたびれたマイクロトフはこうしてカミューの寝言に付き合うようになったのだ。いっそ、自分から言ってやろうかと思ったことも一度や二度ではなかったが、こんなに思い詰めているものを、相手の気持ちを知っているからといって簡単にぶち壊すような真似もしたくない。だから、早くそのときを待っているのだが、一向にやってこないではないか。 夢の中でしか告白できない男と現実で待っている男。 これではどちらが恋をしているのかわからない。 「マイクロトフ……愛しているよ……」 「…………ああ、俺もだ」 ため息混じりに応えたマイクロトフがもう一度くしゃりと髪を撫でると、むにゃ、と返事が返ってきた。 |