(10月2日)
「まだ続けてるのね…?あの研究…。莫大な予算をかけて」
「皆もきっとそれを望んでいるから…」
「うちの真名香が、面白い副産物を既に生み出してくれたしね?」
「鬼百合・戒…。本格的に運用するつもりなの?」
「検討中よ」
「…本気で、世界を女だけのものに…?」
「貴女が最初に望んだ事じゃない?」
「最初最初って…。今の私はもう違うわよ!」
「大丈夫よ。例え完成しても、私達はそのスタートボタンを押すつもりはない。未来の子供達のためよ?」
「そんなの…惑わせてるだけじゃない!大人は、はっきりいけない事はいけないと言うべきだわ!」
「いつからそんなに古臭い頭になったのよ、彩花。価値観は常に新しく変化していくもの…。
未来の子供達が、未来の価値観でそれを決めればいい。その時、老人になった私達は口を挟むべきではないわ」
「例え何百年、何千年経とうと…人殺しはいつだっていけない事じゃない!」
「じゃあ、永遠にスタートボタンが押されなくてもいいわ。抑止力であればそれでいい。核兵器と同じ…」
「そんな脅しみたいな事…」
「フに落ちないわね。私達は、未来のレズの子供達に、選択肢を作ってあげてるのよ?選択肢は多いに越した事はないわ」
「ええ、そう。母淫が作られるまで、私達レズには選べる選択肢が少なすぎた。
女の恋人なんて作れない、子供も産めない、結婚もできない。あるのは社会的な不利益と偏見ばかり…。そうでしょ?」
「それは…そうだけど…」
「母淫が作られた事で、それらは全て解決するために歩みを進める事ができている。
まだ解決はされていないけど、みんなの力で変えていける…。その一つじゃない?」
「鬼百合・戒だってそうよ?レズが増えれば、それだけ理解者が増えてくれる。リスクは何もないわ」
「強引過ぎよ!本人の意志を無視して、無理やりレズにするなんて…。人生が変わっちゃうのよ、その人の」
「細かい所を気にし過ぎよ」
「昔の貴女なら、こういうの凄く望んでたじゃない…?気が狂ったみたいに、毎日信者とエッチしちゃってさ…?」
「欲望を満たしきって、穏やかになっちゃったのよね、彩花さまは」
「違うってば…」
「とにかく、研究は続けるわ。私達が歴史を作るために」
「単なる大量虐殺の、何が歴史よ…?犯罪じゃない…」
「それが犯罪か、それとも正義かは歴史が決めることよ?未来の歴史がね」
「彩花が言ったのよ?女は生まれてからずっと長い間、男の下で生きていた。
蔑まれ、欲望を満たす物のように扱われ…男女が均等に見られるようになったのなんて、長い歴史の中の、ほんの100年にも満たないって」
「それも、未だ均等とは言えない。強姦という女だけが被害を受ける犯罪がある限り、平等にはならない。
そして、強姦は男という生き物がいる限り、決して無くならないと…力強く言ってたわね、貴女?そりゃそうよ…。自分の経験なんだから」
「……」
「だから、これからは女が男より上を行く社会を作らないといけない。そのための切り札が…男だけを苦しめる生物へ…」
「もういいってば!!」
「あらあら。大丈夫?」
「私は…もう満たされたよ…。幼い頃の辛い経験や、レズだからあった不満も…
マディソンや亜希子や多香子と一緒に、変えてきたから、スッゴく満たされてるよ…!
確かにあの頃の私は、そんな事も言った!夢見てた!けど…」
「…諦めちゃダメよ。初志貫徹。私達は、貴女の描いた夢に救われて、魅了されて…ここにいるんだから」
「スタートボタンを押すのはね…?汚れ役になれと言うなら、私達の誰が押してもいい。けど…貴女に押させてあげたいのよ、彩花。貴女の夢のために…」
「私達と一緒に、夢をめざして…彩花。貴女がいたから、私達はレズでいる事に誇りを持てて、楽しい日々を送る事ができているんだから…」
「みんな…」
(その後)
「大丈夫ですか…彩花さま」
「うん…。ちょっと頭痛がするかな。でも、平気平気」
「ぶひぃぃぃ!マディソン達ったら!彩花さまをこんなにイジメて…!許せないわ!」
「でも…。和奏が一番賛成してたじゃない?男なんて一刻も早く滅ぼすべきだ!…って」
「それは今でもそう思ってますけど…。私はそんな事より、彩花さまを愛してるんです!
自分の意見なんかより、彩花さまがイエスならイエス!ノーならノーですわ!」
「ふふっ…そっか…」
「私は、彩花さまの偉大なるイエスマンですわ!」
「ありがとう…」
「彩花さま…」
「こんな日は…和奏の胸の中で泣きたい…」
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