(7月4日)
有希よ。
え?誰って…?
銭湯の番台やってる双子よ。
え?どっちのほうかって?
知らないわよ、そんなの!ふん…!
「どうしたの?ひとりごと?」
「あ…。何となく、今の状況を嘆いて1人ツッコミ…」
「私も…」
「マジ…?また同じか」
私と由希は、北海道へ旅行に来ていた。
昔から「双子」って所でいじられるのが嫌いだった私と由希は、お互いに個性をつけようと、違う道を歩み出そうとする。
今回もそう。
飛行機の中では、由希は旭山動物園、私は函館に行くからって話をしていた。
北海道とは言っても目的地は全然違う場所なのに、同じ飛行機に乗ってる事がそもそもおかしいんだけど…。
案の定、空港からも何故か離れず一緒に行動してしまい、たどり着いたのは見知らぬ無人の小さな駅。
次の電車まではあと2時間半もある。
あたりはもう暗い。
「はくしゅ…っ!」
「仕方ないわねぇ…。パチパチパチ」
「違うわ!拍手じゃなくて、くしゃみしただけ」
「寒いもんね…」
「薄着過ぎたわ。こんなに涼しいなんて…」
なんで、こんな事になってしまったのか。
それは、私も由希も‘別々の思い出’を作ってしまうのが怖いの…
「寒いから…セックスして暖まろうか…?」
「あんっ…!今日も…内心、こうなると思ってた!」
由希よ。
私と有希は、いつしか愛しあっていたわ。
これだけ気が合うんだから、当然と言えば当然。
もう1人の自分に恋しているような錯覚さえある。
母淫は、双子のレズという珍しづくしの私達を茶化したりしなかったし、今私も有希も幸せなんだと思う。
けど、私達は双子をコンプレックスに感じる気持ちが、お互いを見る度に一度も抜けた事がない。
これだけ‘同じ’で、‘同じ’な事の大切さを理解しているつもりなのに、‘違う’感じになりたいとずっと思っている。
それなのに、思い出をちゃんと共有していたいという気持ちが勝ってしまう。
「あんっ!明かりの前でヤッてるから、虫が凄い…!ひゃあ!お尻の穴に虫が入った!とってとって!」
「入ってないわよ…。ほら…私の指だけでしょ?」
「あ…ほんとだ…」
携帯のアドレス帳やSNSも、片方だけに登録されてる人は1人もいない。
片方が知り合うと、もう片方とも知り合うように必ずしている。
例えば私だけの友達がいて、その友達と私が携帯で楽しそうにやりとりしてたら、有希は入ってこれなくなっちゃう。
そうした、話題が合わない比率が上がるに連れて、双子はただ見た目が似ているだけの他人になってしまうんじゃないか…って。
過去の思い出は共有してるけど、今だっていずれ過去になるのだから、別々の思い出を作ったら、2人の思い出の貯金を止めてしまう事になる…。
有希よ。
「誰かが来たらやめよう」と2人で言い合いながら、誰もこないのでもう一時間以上セックスしている。
「お尻を出した子一等賞〜!ぱぁん!」
「あぁん!なによそれ?」
「由希がお尻突き出してるから。に〜んげんっていいな〜」
「どの辺がいいと思ってるのよ…?変態…」
よく、「どっちがボケでどっちがツッコミ?」なんて聞かれるんだけど、全然決まっていない。
気がついたら2人とも、ボケてるしツッコんでいる。
しかも、互いに知ってる事はほぼ共有してるので、自然と2人だけで盛り上がってしまう。
よく言われる「不仲な双子」にはなりたくない。
とはいえ、「そっくりな双子」で居続けたくもない。
で、結局今の位置。
お互い去勢を張って、1人でも行動できると思ったら、この様。
あ…そう言えば、よく聞かれる事がもう一つ。
「同じ人を好きになっちゃったらどうするの?」
というのがある。
チャチなラブコメにありがちな話だけど、気になるから実は私達は‘やっていた’の。
(回想)
「あぁん!彩花さまぁ!私も有希も…好き好き好きぃ!」
「そっくりな顔の私達に…Wでマンフェラされる気分はどうですか?彩花さま…」
「あんっ!幸せだわ!貴女達、愛し合ってるのに…私が2人とものハートを射止めちゃうなんて…」
同時に好きになってしまった相手は、母淫の教祖、初芝彩花さま。
きっかけは、お風呂へご一緒した時に彩花さまの過去のお話を聞いて、スイッチが入っちゃったというか…。
でも、スイッチの入り方まで一緒で…
「私達双子を、区別しようとせず可愛がって下さるなんて…」
「でも、ちゃんと1人1人愛してくれて…。私達、レズであることに自信が持てました!」
2人同時にした初恋は、それはもう凄い盛り上がりで、実はそれまで2人でのエッチを‘愛し合う大人のセックス’だって内心どうしても思えなかった私達を、脱皮させ大人の女にしてくれたわ…。
だから、初めて由希と愛し合ってるっていうのをセックスの中で本気で感じたのは、彩花さまとの初エッチを3人でした時で…。
彩花さまがいない時も、私達は火がついたようにセックス三昧で、それは彩花さまの存在を、2人を隔てる鏡のような形にしたものだったのを覚えてるわ。
「私達の絶頂を…私達が恋する彩花さまに捧げましょ…?2人仲良く…」
「ええ!私達双子は…仲良く彩花さまを愛していますぅぅ!」
恋する乙女となった私達の裸体が、彩花さまのいない所で重なりまくる。
由希とお互いのクリトリスを触り合うと、いかに今自分が恋をしているかが判るの…。
由希よ。
実は私達の彩花さまへの恋は、まだ全然終わっていないの。
今でも、彩花さまをご覧になっただけで、裸体のあらゆる性感帯が「恋してる!」って叫び出して…。
ただ、彩花さまは私達に「日常を大切にして」とおっしゃって…。
その一言が、私達に銭湯を継がせ、有希を愛情の対象の一番にまたおけるようになったの。
彩花さまへの私達の恋は、テレビの向こうのような届かない恋。
けど、有希への感情は絶対に恋ではない。
だって恋は、憧れみたいなものだから…。
有希へ憧れの感情は一切ない。
だって‘同じ’なんだから。
でも、‘同じ’は‘憧れ’なんかよりずっと大事だって彩花さまは言う。
どんな親友同士だって、‘同じ’に近くても‘同じ’ではない。
同じ思い出を共有するのは、友達でも恋人でも、価値観が多様化した世の中で、一緒に楽しんで共有しきるのは難しいという。
そんな中、私達は‘せっかく同じなんだから’と彩花さまに言われ、同じようで同じでいたくない、雪どけのような状況をずっと続けている。
リボンの色だけは変えてみせたけど、髪型は同じ。
私達のささやかな日常の抵抗は続く。
「ほ…ほくろを執拗に舐めるのって、私達だけじゃない…?」
「だって…昔から2人、違う位置にあるじゃない…?でも、小さい頃から同じ位置…」
「つ…次イクのは彩花さまでイク…?それともゆきで…?」
「どっちでもいいよ…!任せる…っ!」
有希の名前は‘あき’と読むけど、私は‘ゆき’と昔から呼んでしまう。
この呼び方は、私達の間でしか成立しない呼び方。
直そうとしてきたけど、結局まだ直ってないし、有希も直せって言わない。
「ああっ!」
「ああっ!彩花さま!」
「彩花さまぁ!イクイク…!」
「ンチュ…!」
「んぷっ…!」
有希がどっちで来るのか分かった…かと思いきや、有希に合わせようと聞いていた気がする。
けど、彩花さまだと確認した後は、今はそっちだと思ったって私は思っちゃう。
これが双子の不思議…
双子やってる私達でも分からないこと。
「(ゆき…)」
「(由希…)」
キスを終え、唇を離し、舌だけをつつかせあっていたら、急に…
「愛してる…」
「って、なんで同時に…!」
「これだから、双子が面白扱いされるのよ!ふん…!」
「やばっ!電車来た!向こうから来るの、そうじゃない?」
「ウソ!?…わっ!汽笛鳴った!ヤバヤバ!着替えよう!」
「汗でびっしょり…。エッチする前は寒かったのに…」
「ていうか、2時間半もあった?超早いんだけど!」
「これで日帰りじゃ、私達何しに北海道へ来たのよ!」
「もう一泊して、明日こそは私、函館行くから!」
「じゃあ、明日こそほんとに別々なんだから!」
「無理ぽ〜」
「先言わないでよ、それ!?」
でも結局、2日銭湯を開けないと常連のおじいちゃんおばあちゃんが困るので、満場一致で日帰りになってしまったのでした…orz
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