(6月9日)
(ファミレス)
「す、すみません!さそがしお忙しいのに、お呼び立てしちゃって…」
「ううん。案外ヒマな時はヒマだから。それに、電話より直に話すほうが好きだから。なに頼む?」
「ど、ドリンクバーだけで結構です…」
「…意外ね。優衣菜に聞いた印象だと、超マセてるって印象だったのに」
「…わ、私の事ですか?」
「そっ。ああ、あれか。エラい人とか媚びて得する人には態度が全然違うってタイプ?最近多いのよね〜」
「!…」
「…今、自分じゃなくて別の人の事を思い浮かべたでしょ?」
「…な、なんで?」
「ズバリ、親でしょ?」
「!…当たりです!なんで!?」
「あなたくらいの歳の子なんて、特に親の影響デカいから」
「…父も母も、そういう人です。父からも、‘弱いものイジメはしてもいいけど、自分が責任をとる事にならないように。
あと先生にはひいきして貰えるように’って教わりました」
「最近の親は凄いわねぇ…」
「でも、説得力ありましたよ?人間はほとんどの人が主観を信じるから、目上の人と同じ主観を持てば損する事はないって」
「…優衣菜とケンカした理由がわかるわ。ちなみに、遥ちゃんにとって優衣菜はその目上の人?」
「そうです」
「美樹ちゃんは目下?」
「そうです」
「ヤなヤツ〜」
「はっきり言わないで下さい!」
「あなたがはっきり言ったからでしょ?」
「あ、そっか。こういう本音は嘘ついて隠しておいて、ウケそうな人の前で披露するのがいいんだった…」
「…もう病気の粋ね。親がモンスターペアレントなの、頷けるわ」
「私の悪口ばっか言ってないで、相談に乗って下さい!」
「ああ、ごめんごめん」
「案外、ダメな人ですね。第一印象が悪いと、全てを損しますよ?」
「なるほどなるほど。じゃあ…そうね。こんな例え話はどうかしら?」
「はい」
「楽天市場とかで買い物した事ある?」
「ああ。母がよく」
「どんなものを買う?」
「当然、人気上位のやつです。そもそも、人気や売上順に表示されませんでしたっけ?」
「そう。最近、テレ朝とかで人気ランキングの番組多いもんね。お試しか、見た事ある?」
「塾なんですけど、後でHDDに録画したの見ます」
「あれで、順位が53位とかの食べ物ってどう思う?下のほう?」
「え?…マズそうとは思わないけど、人気ないなら食べないようにしよう〜って思うかな?どうせそのうち消えるし」
「もし、今まで自分が好きだった商品が53位だったら?」
「好きなもの変えます。一度それで、ネタにされそうな事があったから、それ以来ランキングをネットとかで調べてから、好きなもの決める事にしました」
「あはは…。なるほどね」
「一度、母が絶賛してたパスタが美食家にボロクソな評価だった事があって、テレ朝に苦情出したりとかして…あの時は家が荒れました。それ以来、我が家は人気なものしか興味ありません」
「あるあるっぽいわねー…。苦情は出さないけど」
「でも、いい事だって父が言ってましたよ?人気の商品がより人気になれば、企業は儲かる。同じものを大量生産したほうが利益が出るからって」
「いい事かは別にして、それはその通り」
「いい事じゃないんですか?」
「企業にとってはね?でも、遥ちゃんにとっては?」
「それは…。巡りめぐってそれで景気がよくなるなら、いい事なんじゃないでしょうか?」
「景気、よくなるかしら?」
「よく…ならないんですか?」
「お父さんお母さんってバブル世代?」
「はい。よく自慢してます」
「あの頃は、色んなものが余裕あって良かった〜とか、それに比べて今は機能的過ぎてつまらない〜とか言ってない?」
「あ〜…言ってました。似たような事」
「ふむ。じゃあ、答えは知ってるのにね?」
「え…?」
「好景気な時は、例えば…一つの食べ物でも色んな種類が出てた。100種類とか。その中で、自然にみんな好きなものを選んで、その中の一位が流行を作ったの」
「ふむふむ」
「でも、不景気になると違う種類をたくさん作るのはコストがかかるから、10種類くらいに減っちゃう。その10種類の中でランキングを作って、一位を流行にさせるしかない。これが今なの」
「ほぇ…」
「ちなみに、遥ちゃんはこの10種類が仮にコンビニスイーツだとして、どれを買う?」
「当然、一位の流行のやつです」
「でも、そのコンビニがマイナーな所だったら?ローソンとかじゃなくて」
「…そもそも流行してないと思うので、買わないと思います」
「分かった?」
「いや、全然…。説明下手なんじゃないですか?」
「すぐ人を責めるんだから…」
「私がバカ、みたいな態度とるからです」
「つまり、みんなが流行を無視して色んなものを買ったほうが、景気は良くなるってこと」
「なんで?色んな一位があって、それ同士が更に競争するから、より良いものが出来ていくって父が…」
「だから、大きい企業が大きい企業を吸収合併して更に大きな市場を目指し、吸収する価値のない中小は潰れていくの」
「世の摂理だから仕方ないです。中小の側につかなければいいんです」
「難しい言葉使おうとしちゃって…。それじゃ、みんなが幸せにならないでしょ?」
「幸せは努力して掴むものです。私がもし中小の側にいたら、なんとしてでも儲かってる企業の恩恵を受けられる立場へ行こうとします」
「でも、それは遥ちゃんの景気が良くなるだけでしょ?みんなが一位になれるはずがない。100人いれば、必ず100位は生まれる。みんな同率一位になれれば幸せだと思う?」
「一位や上位じゃなければ無意味です。なんだってそうじゃないですか?AKBとか」
「多くの人がそれを望んでるからでしょ?本当は自分が人生のランキングで下位だって薄々気づいてるくせに」
「なっ…!い、今の言葉…ヒドいですよ!?」
「あら?傷ついたってことは自覚あるの?遙ちゃんや遙ちゃんのご両親は下位だって」
「うちは所得結構あるから、下位じゃありません…!呆れた!こんなヒドい発言…。ネットで言いふらしますよ?」
「あらら。さすがクレーマーの娘ってこと?」
「うっ……」
「…やっぱり。母のクレーマーぶりだけは、尊敬できないみたいね」
「当たり前です。ああはなりたくありません」
「なら、気づけるはずよ。本当はランキングなんて嫌なんだって事が」
「えっ…?」
「私は大げさな事を言ったわけじゃないわ。そのうち本気で、人生の価値基準までランキングにさせられちゃうわよ?年収とか恋人の有無でね」
「……」
「日本が幸福度数が低いの、知ってる?」
「あ、知ってます…。ブータンとかが一位って…」
「こんなに頑張ってるのにね?なんでだと思う?」
「石油とかの資源がないからじゃ…。あと、震災もあったし…」
「それ」
「正解ですか?」
「じゃなくて、すぐ理屈とか理由を出しちゃう所」
「えっ…?」
「別にいいじゃない?なんで人と比べるの?なんで人に優劣をつけたがるの?放っておいたって、この国は偏差値や収入や、コネや恋人のあるなしで上下つけられちゃうのよ?なのに、まだ優劣つけるの?」
「……」
「誰かが決めた優劣の優を目指すのが、そんなに幸せ?」
「…幸せ、だと思います。私達は社会の中で生きてるから…。人同士の話題にもなるし」
「そんなに不安なんだ?」
「…あなたはいいですよ。人から敬われるし、収入もあるだろうし…」
「人って、そんな所を見て欲しいと本気で思ってる?遙ちゃんに、お金や美貌目当てで近づいてきた人がいたら、結婚したいと思う?」
「結婚…は分からないけど、イケメンなら自慢はしたい…」
「自慢するために生きたい?遙ちゃんは」
「……」
「最初のランキングの話を、もう一度しましょうか。53位の商品を買う人はどんな人だと思う?」
「う〜ん…。マイペースな人?他人に流されないような。あと世間ずれしてる人とか、KYな人とか…」
「そういう人をどう思う?」
「羨ましいような…。ああはなりたくないような…。イジメられそうだし」
「なるほどね…」
「まさか、そういう人になるのが幸せだなんて言うんじゃないでしょうね?」
「そういう人は幸せでしょうけど、多分なれないわね。こんな話をしてる時点で、私も遙ちゃんも。遙ちゃんのご両親も」
「じゃあ…どうしようもないじゃん…。いっぱい稼いで得して、幸せになるしかないじゃん…」
「ううん。ところがね?もう一つあるの。53位の商品を買う人って他にもいるのよ」
「どんな人?」
「53位だから買う人。53位なのを知ってて、あえて買う人」
「あー…。なんか卑屈というか、ひねくれてますね」
「でも、それをみんながやったらどうなる?53位の商品が、1位になるわよ」
「なったらどうなんですか?」
「楽しいじゃない?自分がそれに関わったなら尚更」
「…確かに、みんなでしてやったイタズラ心のような感じとか、世の中へざまぁって感じはあるかも」
「そう。みんな、不況が長いからって、同じ物強い物、ランキング一位とか行列にばっかり誘導されて、鬱積してる気持ちがあるのよ。
本当はそんなものに左右されず、自分の好きなものが探せばあるのに。だから、みんなでイタズラしてやろうって気持ちが沸くわけ」
「でも…確かにニコ動とかはそんな感じだけど、そのイタズラに加わろうとしても、もう時期が過ぎてて、結局手柄自慢されて終わりじゃないですか。終わコンとか言われて」
「そう。だから、常に誰も注目してない所へ行くのよ。みんなでやる必要なんてない。自分一人が反逆してればいい」
「それはそれで、孤独になりそうな…」
「私の初恋の人は、そういう人だから…」
「ここまできてノロケですか」
「でも、そういう発想が地味に心を豊かにするのよ?人は一人じゃ生きていけないっていうけど、
一人から目を背けていたら永遠に自分の人生を誤魔化し続けてるのと一緒なの。
それじゃ、私が生まれてきた意味は、私に関わった特定の人のためでしかない。
そうじゃなくて、私が生まれてきた意味は、1日1日の私が作り、育てていくものなの」
「……」
「人に評価されるために生きるのも人生だけど、それだけじゃ多数派にのまれていって、最終的な大多数は一つの価値観になる。
それよりは、一人一人に個性があったほうが、まずお互いの優劣を見ようとしなくて済むでしょ?」
「でも…やっぱり私は、優位な立場で人と話してるほうが好きです…」
「いいんじゃない?遙ちゃん以外がみんな変わっていけば、優劣の優にいないと安心して話せないのは遙ちゃんだけになるから」
「…甘えてるんですね、私」
「仕方ないわよ。みんな不安だから。なかなか一緒になれない。だから、些細な優劣がついた上で話してるほうが安心するの。本音を隠して」
「…ありがとうございました」
「せっかくだから、ご飯食べてこ。ほら、外真っ暗」
「あ…いつの間に」
「いい子ね。さすが優衣菜の友達」
「えっ…?」
「優衣菜や美樹ちゃんと、これからも一緒に成長してね」
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