(6月8日)
「この時間、電車こんなに来ないんだ〜?また成田行くほうだよ〜」
「いつもこんなもんだよ?」
「そっか…。優衣菜はレズ萌え荘毎日行ってるもんね」
「毎日じゃないよ。2人と遊ぶ時はこっちにいるし」
「…のどかさんってさぁ?負け組なのかなぁ?それとも勝ち組?」
「なんで勝ち組?」
「だって、先生が一生面倒見てくれて、愛してくれるんでしょ?勝ち組じゃん」
「あんまり勝ち負けとかで考えないほうがいいと思うけど…」
「じゃあ、優衣菜はどう思うの?」
「う〜ん…」
「…私は苦しんでるように見えたけど」
「そうだね…。なんか私達って、これから大人になるまでずぅぅぅっと数字と付き合っていかないといけないのかなぁ…って思った」
「数字?内申点のこと?」
「それもだし、偏差値とか、テストの点とか、受験の倍率、就職内定率、あと会社に入ってからは目標とノルマ…」
「(…何個かわからなかった)」
「でも…数字って絶対的なものじゃない?社会に出ていくためには、いい数字とらなきゃ」
「けど、仮にはるぴょんがどんなに頑張っても、いい数字がとれなくなっちゃったとしたら?」
「…誰かに頼って生きるか、いい数字が出せるよう工夫するかなぁ」
「もし両方ダメだったら?」
「諦めたらそこで試合終了でしょ」
「…じゃあ、のどかさんみたいに、不登校みたいな履歴の汚点ができちゃったとしたら?履歴書ってずっと必要だよ?」
「不登校なんてしないから大丈夫」
「じゃあ、はるぴょんが歳をとって、‘もう歳だから’って理由でどこも雇ってくれなかったら?」
「そんな歳にもなってお金稼がなきゃ生きていけない段階で有り得ない。そんな負け組にはならないし、そん時は自業自得で潔く死ぬからいい」
「…がっかり」
「!…えぇ!なんで!?頼もしいと思ってくれると思ったのに…!」
「想像力がないと、人の気持ちなんて理解できないんだよ?本当は相手と同じ苦しみを経験するのが一番いいんだけど、それができないなら想像するしかないの」
「想像したわよ…!私なら死ぬ!死ぬか、のどかさんみたいには絶対ならないかどっちか!」
「‘想像した’って過去形な時点で、自分や社会に都合がいい想像して、勝手に結論づけてるだけだよ?相手を悪者にする事だって簡単だし。そんな簡単な結論や答えがあるんなら、みんな悩んだりしないよ」
「いいじゃん!わかりやすい答えがあったほうが!優衣菜って、そういう答えをポンポン出せる人だと思ってたから頼りにしてたのに…!しょーがないじゃん!所詮、他人なんだから!他人のことなんてどうだっていいよ!」
「まぁまぁ…。みんなに見られてる…」
「多分、世の中が数字化してるんだろうなぁ…。数式には確実な答えがあるし、みんな同じ答えを共有したいんだよね?けど…それは、みんなの自由を奪って、従わせる形になっちゃうよ…。治安はよくなるだろうけど」
「優衣菜って、そうやって頭いい感じで世の中を上から目線で見てるけど、それってみんなが尊敬したり、共感できる内容じゃなきゃ、意味ないじゃん!」
「意味なくないもん!みんなと同じことしてるだけでいいんだったら、彩花は母淫なんて作らなかった!だから私も…みんなと同じでいながら、違う部分もなくちゃダメなの!」
「どぉどぉ…。電車来たよ?」
「ふんっ!」
「ふんっ!」
「私、優衣菜の一本後の電車で帰るからいい!」
「私も一本後の電車で帰るからいい!」
「真似してんじゃん!人と同じじゃダメだとか言っといて!」
「はるぴょんこそ、みんなと違う事してんじゃん!こういう感情的になったのがきっかけで、はるぴょんだってのどかさんみたいな状況になっちゃう事があるかもしれないんだよ!?心配!」
「…心配?」
「心配!」
「…そっか。優衣菜はどうあっても、私と他人にはならない…よね?」
「そんなの分からない」
「ひどっ」
「でも、他人だからって私ははるぴょんほど冷たくしないもん。誰だって最初は他人同士なんだし。私とはるぴょんとみきちーも、最初は他人だったでしょ!」
「…うん」
「優衣菜…変わったね」
「えっ?何が?」
「何の話かあんまりよく分かんなかったけど…なんか前より変わった気がする。前は…強そうだったけど、今は…優しそうな気がする」
「…みきちーのおかげなんだよ」
「えっ?」
「財布…拾っておいてくれたから」
「あ…うん。優衣菜が秋津さんにプレゼントフラれちゃった時ね…」
「あれは…私らしいなって思うの。見栄っぱりでボロボロになって…静香に…」
「(…みきちーに、一歩リードされちゃった…。何が違うんだろ…?本にでも書いてないかな…?)」
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