(3月11日)
「怜ちゃんは学校ですか?」
「ええ。というより、秋津さんこそ学校は?」
「えへへっ」
「あらあら。知らないわよ?」
「やっぱ田舎の家は広くていいなぁ!」
「でしょ?歳とったら都会よりも田舎がいいわよ」
「青木先生は、ここお気に入りなんですか?大多喜…でしたっけ?」
「ええ。海の幸も山の幸も手に入るし…。あと昔、歴女やってた時期があったから、お城を見れる生活したいなぁって」
「そういえば、来る時にお城見えました!」
「ほんとのどかでいいわよ〜。人間って自然と仲良くするのが、一番の贅沢だと思うの」
「あ…でも、彩花から聞いたんですけど、ハウスシェアとかって…」
「ああ。あれは、住む家単位でシェアしようって、私が友達に持ちかけたの。
つまり、この家は明日、友達の家になって、私は友達の家の住人になる。いわば、家の交換ね」
「え?…な、なんでそんな事するんですか?別に、友達の家に遊びに行くじゃダメなんですか?」
「友達の家に私がお邪魔するだけじゃ、ただお邪魔しただけでしょ?けど、友達がいなくて1人で友達の家にいると…なんか不思議な感覚になるのよ」
「へぇ…」
「最初は留守番してるくらいの気持ちなんだけど、ご飯買いに近所のスーパー行ったり、飲食店に入ったり…。
旅行のような、旅行にしては素朴過ぎるような…。とにかく楽しいのよ」
「ちなみに、その友達の家はどこなんですか?」
「やっぱ仲間が若い子だからか、都心からちょっと離れた地方都市くらいが多いわね。田舎いいぞ〜って勧めてるんだけど」
「凄いなぁ…。ハウスシェアか…。確かに、私も昔、親父の単身赴任先へ行った事があるんですけど、鮮明に覚えてるもんなぁ…。そん時のこと」
「お茶とお水、どっちがいい?」
「あ、お水で〜」
「この辺は水も美味しいわよ」
「分かります。空気もすっごいキレイですよね!」
「あら。空気の美味しさが分かるの?」
「私、昔ぜんそくだったんですよ…。それで、体鍛えるためにスイミング通い始めたんです」
「へぇ〜。確か、彩花さまもぜんそく持ちじゃない?」
「あ、そうなんですか。初めて知った…」
「ふぅ〜。テレビでもつける?」
「あ、大丈夫です。…青木先生は、エロ漫画はじめてどれぐらいなんですか?」
「その前に一つ、お願いがあるんだけど…」
「はい!セックスですか!?」
「それもだけど…」
「…ノッてくれてありがとうございます」
「先生じゃなくて、青木さんとかゆきえがいいわ」
「えぇっ!先生ダメなんですか!?」
「あんまり先生って言われるの好きじゃないの。先生って呼んで頂けるような偉い事、なにもしてないし」
「確かに…。じゃなかった、すみません!」
「いえいえ。本当のことだから」
「そもそも、なんで漫画家さんとか作家さんって必ず先生ってつけるんでしょうね?」
「う〜ん…。漫画家の地位向上とか、出版社が作家をコントロールしやすいようにとか色々あるけど…もう形式的なものなんじゃないかしら?」
「ふ〜ん…」
「おかげで、人間としては全然大したことないくせに、先生って呼ばれていい気になってる人を見てきたわ。秋津静香先生?」
「うわっ!鳥肌たった」
「先生って呼ばれたら気分よくない?」
「確かに…呼ばれたいかも」
「でも、呼ぶ側からすれば、なんの負担もない言葉だから、先生先生って秋津さんのことずっと呼んでれば、いい気になって扱いやすいっていうのがあるのよ?」
「恐ろしや〜」
「あと、先生って言う側も言ってたいしね。好きな漫画家に先生って」
「あ、私まさにそれです。でも、お願いされたんでゆきえさんって呼びます」
「抱く時はゆきえか佐智子でもいいのよ?」
「…ごくっ」
「先生なんて呼ばれてたら、怜に怒られちゃうわよ。ロクな人生歩んできてないんだから…」
「あ…。バツ4でしたっけ」
「そっ。雑誌の編集者で1、漫画家で2、アニメの監督で3、人気イラストレーターで4…。もう結婚には懲りたわ」
「うわぁ…。エロ漫画家ってそんな凄い人と結婚できちゃうんですか?…あ、すみません…」
「えっとね…。私、エロ漫画家になったのはここ数年の話なのよ。それ以前はエロとは真逆の、少女漫画家だったの」
「えぇっ!?うそっ!」
「ほんとほんと。見てみる?(ピンポーン)…あら。帰ってきたわ。…これこれ。ちょっと玄関出てくるから、良かったら見てて?」
「は〜い…。あの格好で出ていって大丈夫なのかな…」
「あら。こんにちは」
「あ、お邪魔してま〜す。お!いきなり下着!」
「ハウスシェア仲間の知恵子さんよ」
「レズ萌え荘に居候してます秋津で〜す」
「聞いてるわ。よろしくね」
「あ、見ました見ました!青木せ…もとい、ゆきえさんの少女漫画!」
「見たんだ、あれ。凄いわよね〜、人の歴史ここにあり!って感じ」
「大げさね…もう」
「何回、絵柄というか画風というか…。これなんて全く別物みたい。同じ人が書いたのか疑っちゃいますよ、これ」
「全部私よ。こっちのほうが古いかしらね…」
「これはまだ、バリバリ乙女チックな少女漫画よね〜。でも、これなんかはNANAみたいにスタイリッシュな感じだし」
「私はこの絵柄が好きかな〜」
「それは、男の子にもウケるように書いたやつよ」
「ありゃりゃ。私、女なのに…」
「佐智子って、凄い所のお嬢様なのよ。今はあんまり面影ないけど」
「そうなんだ。漫画家さんって貧乏なイメージがあったから…」
「うふふっ。トキワ荘のイメージがあるんでしょうね。でも、今の漫画家はお金持ちの息子や娘のほうが多いわよ」
「マジか。意外だ」
「学生時代に将来へ不安を感じなくて済むから、趣味で漫画描いてるうちに、上達してプロにって感じ。私もそうだったわ。親が出版社へのコネも持っていたし」
「羨ましい限りよね〜。私なんか、ド貧乏からやっとここまで来たのにさぁ…」
「知恵子さん、お仕事なになさってるんですか?」
「AV女優よ」
「なぬぅっ!?」
「リアクション大きいわね」
「わ…私!兄貴が持ってたのを、内緒で…!内緒で…!」
「た、多分私じゃないと思うんだけど…。気持ちは分かるわ。私、ちっちゃい頃からオナニーが大好きで…」
「それでAV女優に!?」
「まあ、それもあるかな。家が貧乏だったことのほうが大きいけど」
「貴女、最近テレビ番組に出てるけど、大丈夫なの?親にバレたりしてない?」
「大丈夫よ。CSのだし」
「親には言ってないんですね…。私もレズ萌え荘とか母淫のこと、親に言えてないもんなぁ…」
「まぁ…そうよね。けど、ちゃんとお金稼いで親孝行できてれば、それでいいのよ。隠し事だって必要だわ」
「どれくらい稼いでるんですか?」
「それがね…?知恵子って、結構面白い事してるのよね?」
「?」
「私、売れてるほうの名前は石井ちぃって名前でやってるんだけど、名前を偽って無名女優として別の作品に出たりしているの」
「私もそれ、やったことあるわ。ペンネームと絵柄変えて。視野が広がるわよね?」
「なんでそんな事する必要があるんですか?」
「スタッフの扱いの違いとか、ギャラの差とか、お客さんが気づくかどうかとかね。あと、初心忘るべからずってことで」
「自分の業界を、常に知っておきたいのよ。私達は所詮、使われる身だから。視野を広げておく事で、自分のことしか考えない人間にならなくて済むの。
売れたら、チヤホヤされたりもするけど、そのチヤホヤしてる人間がどの程度の人か、知っておくのは大事な事よ」
「それってつまり…売れてればチヤホヤするけど、売れてないと嫌な態度したりする人が結構いるって事ですか…?」
「ナイショ。大人になれば分かるわよ」
「佐智子は、親とか旦那の七光りって感じで見られることが多かったから、その辺結構イジワルに知りたがってくるわ」
「イジワルとはなによ、イジワルとは」
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