(8月29日)
静香です。
今日は、噂のマディソン・テーラーさんがやってきました。
「久しぶりね、彩花?ここがレズ萌え荘?」
「そうよ。せっかく貴女も誘ったのに…のぞみに代理なんかさせて」
「こんな牢獄みたいな家に住むのはゴメンだわ。…あら、のぞみも久しぶり。いい子にしてた?」
「マディソン…」
「うふふっ…。相変わらず可愛いわ、のぞみ。さすがはオレノヨメね?」
「…なに、それ?」
「こういう子の事を、日本ではオレノヨメって言うって紗都摩から聞いたわ」
「…なんか間違ってる気がする」
「私達は…女同士でも子供を産むための研究を進めているわ…」
「なるほど…。確かにレズじゃ子供は産めないもんね…」
「えー?優衣菜、子供いらな〜い!子供ムカつくもん」
「ガキは黙って聞いてなさい」
「今でも、例えば氷結させた精子を使えば、人口受精は可能だわ。けど、それが2人の子供かと言うと、遺伝子的には違う事になる…」
「そんな理由で、愛情を注げなくなったら、親も子も可哀想だよね…」
「今、私達がしている研究は、卵子の個性を精密に分析し、それを人口精子に反映させるというもの…。
これなら、2人の遺伝子を受け継いだ子供が産む事ができる…」
「すご〜い…」
「でも、遺伝子がどうこうって、色々と問題があるんじゃない?クローンがどのこうのとかさ…」
「それは…」
「ありがとう、のぞみ。後は私が説明するわ」
「はい…」
「確かに、初期の段階では奇形児とかを産みかねないわ。けど、そうならないために、私達は研究しているの。
それに、こういうのに反対する連中は、基本同性愛にも反対してるから、気にしてないわ」
「へぇ〜…。彩花、彩花!」
「なによ…もう」
「別にいい事してるじゃん、マディソンさん。私はいいと思うよ?女同士で子供が産めるとか」
「私は、それには今でも同意してるわ」
「というより、この計画を推したのも、先陣切ったのは彩花よ?私じゃないわ」
「やっぱ彩花は凄いよね〜」
「最近、同意してくれないのはその先よ?ガールズアース計画…」
「ガールズアース計画って…」
「こないだ、私が説明したわ…」
「あら、そう?じゃあ、参考までに聞きたいわ。静香や優衣菜は、ガールズアースに賛成かしら?反対かしら?」
「そ…それは…」
「……」
「…すみません。ちょっと、うろ覚えだったので…。もう一度説明してくれませんか?」
気まずい空気が流れたので、とりあえず忘れたフリをしてお茶を濁してみた。
さすがはアメリカ人…。ざっくりYESかNOか聞いてくるのね…
「ガールズアースとは、女同士で子供が産めるようになったら、少しずつ男性という性別を減らしていこうという計画の事よ」
「な、なんで…男の子を減らしていかないといけないの…?」
「強姦犯罪を無くすためよ…」
「なっ…!」
「あと、暴力事件も女が多くなれば、格段に少なくなると思うわ…」
「最終的には、全人類の性別を女で統一したいの。そうすれば、性別の違いによって生まれる誤解やトラブルもなくなるわ」
「失礼ですけど…。随分と…SFみたいな話ですね…」
「でも、普通に男の子が好きな女の子はどうすればいいの?私達レズなんかより、いっぱいいるよ?そういう人」
「簡単だわ。女をみんなレズにすればいいの。子供が産めて、後は法律で同性婚を認めさせれば、なんのハンデも背負う事はないわ」
「うわっ…。なんて大胆な答え…」
「それに…遺伝子操作によって、産まれるくる子供を確実にレズにする事も、将来できると言われてるわ…」
「…で、彩花はこれに反対なんだ?」
「まあ…ね」
「失礼しちゃうわね?言い出しっぺは彩花なのよ、この話」
「えぇー!?」
「確かに…昔の私は、そんな理想を描いていたけど…」
「私は、彩花のガールズアース論に惹かれて、母淫の初期メンバーになったのよ?なのに…。
一度言ったマニフェストは、しっかり守ってくれないと、嘘つきな政治家と同じよ、彩花?」
「……」
「まだあるわ、静香、優衣菜。ガールズアースの目的には、実は壮大な野望が秘められているの。今までの説明で気づいた」
「う、ううん…」
「それはね…これからの歴史を、私達女が創れるって事なのよ!」
「歴史を…つくる…?」
「この件に関しては、紗都摩が熱いわね。説明してあげて、紗都摩」
「承知した。…今までの人類の歴史…主役は男だと思うか?それとも女だと思うか?」
「え…えぇ!?」
「そりゃ、卑弥呼とかマリー・アントワネットとかもいたけど…基本は男じゃない?」
「そうだ。人類の歴史は男の歴史…。そして、それはいつの世の…戦争の歴史だった」
「は…話が重くなった…」
「私は思う。男は遥か昔、狩りをする役割を持っていた。だから筋肉が発達し、獲物を襲う。
その本能が…いくら理性をまとっても、戦争という手段をとり続けようとする事に繋がったのだ」
「そんな…」
「私は人類の未来に期待が持てない。現に、今も人類は核を手放せず、戦争を起こし自国の利益を得ようとする。
別に男性という性を責めてるわけではない。ただ…」
「ただ…?」
「女性は遥か昔より、子供を産む役割を持っていた。争いは男に任せ、守られる性だった。
だから、もう争いが必要ないはずの今の世の中で、台頭すべき性は女なのだ!」
「す…凄い話になってきた…」
「これからの歴史は…私達女が創るべきなのだ!絶対に、戦争の歴史になどしないと、私は胸を張って言える…。
それがレズの夜明け!女の夜明け!…人類の夜明けなのだ!」
「…素晴らしいです。紗都摩さん」
「ヒューヒュー!やっぱ紗都摩は熱いわね!あ、私も同じ考えだから。これが私達の目指すガールズアースよ」
「……」
「解ってるの、彩花?貴女の国、日本は私達の置かれている立場と同じなのよ?」
「え…?日本…?」
「そうよ。大国に抵抗するため、核を持とうとする国が多い中で、唯一の被爆国である日本は、何をしているの?」
「そ、それは…広島や長崎の人達が…」
「日本はきっと、永久に核を持つ事はできないわ。核がものを言う外交の中でね?」
「…何が言いたいのよ?」
「何故、日本人はみんなで核を廃絶しようとしないで、多くの人が自分の問題じゃないみたいに目を背けてるのかって言いたいのよ?」
「ただ、核を廃絶する訴えが意味を成さないのならば…核廃絶をビジネスやブームにするような知恵が必要と言う事だ」
「マディソンの言った核は…先ほどの話での男性という性を指しています…」
「また、過激な話ね…」
「彩花。貴女は、私が初めて尊敬した日本人なのよ?あまり失望させないでね…?」
(マディソン帰宅後)
「彩花。はい、麦茶」
「冷たいよ〜」
「静香…優衣菜…」
「…彩花はなんで今、反対なの?マディソンさん達に」
「それは…」
「私さ…バカだからかもしれないけど、マディソンさんや紗都摩さんの言う事…
一理あるかもしれないし、立派だと思っちゃった。でも、あれを考えたのは、昔の彩花なんだよね?」
「うん、そうだよ。あの頃の彩花は、なんかこう…今より凄かったかな?いい意味でも悪い意味でも」
「…どういう意味?」
「いい意味は、みんなを導いて世界を変える指導者ーって感じ?
悪い意味は…従わない人を容赦なく切り捨てる冷たさがあって…今より人間味がなかったかな?」
「やれやれ…。こんなチビっ子に評されるなんて…」
「優衣菜は人を見る目、ちゃあんとあるんだよ?将来、大物になるんだから!」
「彩花…。なんで反対なのか、聞きたいな?…まあ、今の優衣菜の話でニュアンスは解った気がするけど」
「…ガールズアースを実現するのに、血を流さずにできるか…不安だからよ」
「えっ…?」
「マディソンも紗都摩も、自分達の世代でガールズアースが完成するなんて思っていないわ。
けど…あんな尖った考え方は、多種多様な国と人々の中で、そう簡単に受け入れられるか解らないわ」
「だよねー…」
「私達がトップの世代はいいわ。けど…もし次の世代の子達が…戦争をしてでも、ガールズアースを叶えようとしたら…
その責任の一端は、ガールズアースという考え方を後世に伝えた私達にあるわ」
「…なんか、戦争を経験したおじいちゃんおばあちゃんみたいな話だね…」
「紗都摩は、女は戦争を起こさない生き物だって胸を張っていたけど…そんなのは男女以前に、個人個人がどうかって話なのよ。
現に…昔の私は、ガールズアースのためなら戦争をしてもいいって、考えてた人間だったわ…」
「だ…ダメだよ!戦争なんて…!」
「そうだよ!目的のために人殺しをするなんて…最低だよ!」
「うん…解ってる。けど、あの頃の私は…それが解らなかった。
目的のために手段を選ばない自分を、恥じるどころか誇りを持ってさえいた…。けど…」
「けど…?」
「そんな手段を選ばない私がしてきた事によって、今の母淫は繁栄し、伸びしろだってある。それは…譲れないのよね、悔しいけど」
「彩花…」
「だから…解らないのよ?何が正しくて何が間違ってるのかなんて…。私は怖いわ。上に立つ人間はね…?
YESかNOの究極の2択を選ばなきゃいけない時がよく来るの。
それが…どちらを選んでも、信頼した仲間や、多くの人を傷つけると解っていても…」
「それが、貴女の選んだ道でしょ?」
「優…!」
「お姉ちゃん…」
「貴女が、私の前以外で弱音を吐くなんて…。優衣菜や秋津の事がよほどお気に入りみたいね?」
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