(12月30日)
「…そうだったの。優衣菜が…。全然、そんな素振り見せなかったけど…」
「あなたは親のくせに鈍感過ぎるのよ」
「ヴィトンのバックね…。確かに優衣菜が買うには…」
「まさか、そんなお金あげてないでしょうね?」
「まさか。優衣菜にあげてるのは、日頃のおこづかいくらい…」
「いくら?」
「1000円」
「あの子の歳の割には高いわね…。でも、それをいくら溜めてもヴィトンの財布は買えないか…」
「あれー?おっかしいなぁ…。あいつ、隠しやがったのかなぁ…?」
「独り言なんて寂しいわよ?」
「おめーに言われたくねぇよ」
「どうかした?」
「いや…別に…」
「なんか言おうとして来たでしょ?」
「いや…。あいつ、誕生日とかクリスマスとかにプレゼントで貰った金…ちょろまかしてるって話を…」
「な…なんですって…?」
「どういう事?」
「そんなはずないわよ…。だってあの子、欲しかったゲームソフトの画面、私に嬉しそうに見せに来たわよ?」
「それはフェイクだよ…。マジコンって言って、ネットからタダでゲームのデータ取れる方法があるんだよ。違法なんだけど…」
「あいつ…何してんのよ」
「多分だけど…あいつ、欲しかったソフトを実際買わずにマジコンで落として、ソフトを買うはずだったお金を溜めこんだんじゃないかなぁ…?予想だけど…」
「なるほど…。そういう事か」
「娘があの歳でネット犯罪に手を染めてるなんて…」
「仕方ねぇよ…。子供向けに次々と色んな会社が欲しいもん出すのに、
私とか優衣菜の歳は稼ぐの不可能じゃん?だから、
金持ちとか親がゲーム好きでポンポン買って貰える奴の言いなりになるしかなかったのが、ネットのおかげで劇的に変わったんだぜ?みんなやってるし…」
「あんたもやってるの?」
「さあ?」
「こら。教えてくれたのはいいけど、これはお仕置きが必要ね。そんなの我慢しなさい」
「は?何にも我慢しないで好きなもん買える大人に、そんな事言われたくないんですけど?」
「うっ…」
「…まあ、確かに大人は我慢してないけど、働いてるわけで…」
「なら、私だって働きてーし。中卒とかそういう意味じゃなくて、
働けるもんなら。こんだけ欲しいもんが世の中に溢れてんのに、我慢するとか不可能でしょ?話題についていけなくて、学校でイジメられるし」
「……」
「きゃっ!優衣菜!」
「いつからいたの?」
「……」
「……」
「友達に聞かれたじゃん。バカ…」
「…ごめんなさいね。これは、この子の問題だから…」
「ヴィトンの財布、まだある?」
「…売ったよ。そこそこ戻ってきた」
「違うよ。優衣菜、蹴っ飛ばして捨てちゃったんだよ。ね?はるぴょん」
「!…そ…それは…」
「…ごめん。私の部屋でゲームでもしてて」
「どこ行くのよ、優衣菜!」
「私の事なんて…っ…どうだっていいだろっ!大人のバカヤロぉぉっ…!!」
(観覧車)
「…優衣菜が、静香に気持ちを伝えようと思って…貯めたお金で買ったのに…」
「プレゼントすれば…絶対に喜んでくれると思ったのに…っ!」
「なんで叱るの…?なんで怒るの…っ?なんで…喜んでくれないの…っ?」
「静香も…ママもお姉ちゃんも…みんな嫌い…っ!こんな街…っ!こんな世界…大ッ嫌い!…っ…っ…ふぅぅぅっ…!ぉぇっ…!」
「悪い事だって…知ってたよ…?子供がやる事じゃないって…解ってたよ…っ?だけど…っ!
静香は私が子供だからって理由で相手にしてくんないじゃん…!!だったら…だったら…っ!
早く大人になるしか…っ!頑張って大人になったって証拠…見せるしかないじゃん…っ!!」
「早く…大人になりたい…。大人になって…みんな見返してやりたい…」
「あ…もう一周回っちゃった」
「そうなんですよー?本当は小学生からお金とるんだけど、優衣菜ちゃんはよく遊びに来てくれるから…」
「…げっ!」
「優衣菜ちゃん、お疲れ。降りて?お迎えが来てるわよ」
「優衣菜、おいで」
「…絶対やだっ!!」
「優衣菜!?」
「もう一周します!絶対出ない!」
「ゆ…優衣菜ちゃん!?」
「私が乗ります!それで戸閉めて」
「わ…解りました!」
「来んなよ!ババアくせえのが移んだよ!お前といると!」
「やめて!危ないから!」
「……」
「……」
「……」
「それが私への本音?」
「…はぁ?もうおめぇなんか興味ねぇし。とっととレズやめて彼氏作れば?
私、レズのエリートだから、お前みたいな昭和くせぇババアとなんか格差ありすぎですから!もう死んで?死ねば?」
「…どこで知ったんだか。そんな一生懸命、無理して悪びれなくても」
「うるせぇ…」
「よしよし…」
「触んな!ババア菌が移るんだよ!」
「はいはい…。じゃ、離れて話すね?…優から全部話は聞いたよ?マジコンってあるんだっけ?」
「…確かに私は悪い事をしました!ごめんなさい!すみませんでした!」
「優衣菜…」
「でも…ママに怒られんのは、100歩譲って解るよ?あいつ、親だからさ…?
けど…なんでてめえに怒られなきゃいけないんですぅ?私…おめぇに何の迷惑もかけてねぇし、何も損させてねぇじゃん!?」
「……」
「なんでさ?お前に怒る権利があんの?そもそも。お前、警察ですか?国家権力ですかぁ?じゃねぇなら、黙ってろよクソババア!」
「揺れてる揺れてる」
「…ふん」
「…じゃ、一つだけいい?」
「なんだよ…?」
「優衣菜はなんで、私が好きなの?」
「もう好きじゃないんですけど?自意識過剰」
「じゃ、なんで好きだったか思い出して頂けませんか?」
「……」
「…もうすぐてっぺんだね」
「…私を…子供扱いするところ…」
「うん…」
「私を…子供みたいに…叱ってくれるところが…他の大人には…無くって…っ…っ…」
「うんうん…」
「好き…でした…っ…っ…」
「うんうん…」
「ぅ…ぅ…っ!うぁぁぁぁぁぁぁっ…!!」
「よしよし…いい子だ。誤解しててごめんね…」
「あぐっ…!あぁ…!あばば…っ!あむっ…!」
「ほら?喋れないなら見て見て?夜景がキレイだよ?あっちは優衣菜が住んでるマンションで…こっちは車がいっぱい走ってて…あれは…何だろ?」
「スーパー…」
「そっか。スーパーか。優衣菜はよく知ってるなぁ」
「ここの観覧車…景色ショボいよ?このショッピングモールだって閑散としてるし…。お姉さんはいい人だけど…」
「…そうやって比較して楽しい?」
「え…?」
「大人になんかなるな!」
「……」
「大人なんて…何にも楽しくないよ?うちの親父がそう。厳しい競争の中で、常に他人と自分を比較されて…。
だから、あんなに冷たいんだよ。だから、じいちゃんもばあちゃんも施設へ放り込んだ。私…じいちゃん死ぬまで、施設入れられてたの知らなかったよ…」
「静香…」
「比較した上で、最上級のものがブランドの財布だと思ったから、ズルしてまでお金貯めて買ったんでしょ?」
「だって…極力上のものを選ばないと…振り向いて貰える成功率が下がると思ったから…」
「成功率って…」
「女なんて、かけるお金で全て決まるんだよ…。私はレズだから、男より振り向かせるの大変だから…いっぱいお金かけなきゃいけない」
「それ…。そんな事しなさいって彩花が言ったの?」
「違うよ。雑誌とかネットとかテレビとか…友達とかの話題で」
「…これさ。見て?」
「!?…私が買った財布!」
「優衣菜が捨てた後、美樹ちゃんがこっそり拾っておいてくれたんだって」
「みきちーが…」
「見事にボロボロだね」
「捨てていいよ…。そんなのもう使って欲しくない」
「…やだ。優衣菜が一生懸命‘稼いで’くれたお金で買ったんだから、こっから一生大事にします」
「!…」
「ほんとごめんね。受け取れないとか言っちゃって。優衣菜の気持ち…せっかくのクリスマスに…受け取れなくてごめんね」
「…っ…っ…少しは…子供の気持ちも…解ってよ…!私…どれだけ静香に…あの時…喜んで欲しかったか…」
「ごめんね…。何回でも謝る。もう二度と叱らない」
「それは…やだ…。叱ってよ…。私…静香にだったら…叱られたいんだからさ…?…背伸びする私を…いつもみたいにゲンコツで止めてよ…?」
「…来年のクリスマスはさ?」
「…?」
「優衣菜自身がいいな。裸にリボンでもつけてさ?」
「静香…!」
「それなら0円だけど…最高のプレゼントじゃん」
「…ばーか。優衣菜は高い女なんだよ…?ふんだ…」
「観覧車…終わっちゃうね」
「クリスマスも終わっちゃったし…今年ももう終わりだよ…」
「でも…始まったよ」
「何が…?」
「私と優衣菜の…少し新しくなった関係が」
「…はい。静香…」
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