(12月22日)
「寝言、言ってもいい?」
「はぁ?」
「彩花のいつものやつね?了解〜」
「…そろそろ、静香にも教えてもいいかもね?口が固いなら…」
「んん?」
「未来人と話す機会があったわ」
「…はい?」
「また?最近、よく会うね?」
「なに、そのトーン」
「内容は前回までと同じく、情報公開よ。けど、なかなか壁が厚いわ…」
「ねぇねぇ?…じゃあいいです。黙って話合わせますから、何の情報公開ですか?」
「私達の未来…。彼女らから見た歴史ね」
「バカな静香のために、彩花がいつも言ってる寝言を解説してあげよ〜!
彩花はね?未来人と会って、一度未来を見せて貰ってるの」
「未来へ行ったって事」
「うそん」
「昭和」
「でも、見せて貰えた未来はほんの僅か。見せて貰えた理由も、私が未来では偉人だかららしいわ」
「偉人!?」
「彩花主演で大河ドラマ作ろうよ〜」
「珍しい話じゃないわ。いわゆるタイムマシンができた未来では、世界を築いた偉人を未来へ招く事があるらしいの。
勿論、一般人には知られず、未来の政府関係者との間で…だけど」
「ピエール瀧のガスのCMみたい」
「信長のやつね〜。あったあった」
「世界は確かに…私達母淫の理想通りになっていた…。性別が女性だけに統一されていたわ。
更に、不老長寿や永遠に若くいられる方法まで…」
「うっわぁ…なにそれ?男子がレアな世界?うちの家、兄弟男ばっかりなんだけど」
「彩花はそれが世界平和への道だって言って、母淫を作ったんだよ?」
「う〜ん…。私は男子がいてもいいと思うんだけどなぁ…。未来がそんななら、結構しょんぼり…」
「私にとって、その未来は喜ばしい限りの出来事だったわ。ただ…彼女らは結果しか教えてくれないのよ」
「ん?結果?」
「‘そうなった’というのが結果でしょ?‘そうなるまで’の過程を教えてくれないのよ?」
「なんでだろうね〜?」
「未来の法律で禁じられてるらしいわ。結果を偉人に教えても、それは偉人の背中を押すだけだけど、
過程を偉人が知れば、偉人はより良い方向へと努力し、結果歴史という結果がズレてしまうから」
「でも偉人さんが、結果だけ聞いても、気が変わって歴史が変わる事もあるんじゃないの?」
「その辺は、厳密にリサーチを重ね、会議を重ねて、呼ぶ偉人を決めてるそうよ」
「ちなみに、例えばどんな偉人が未来に呼ばれてるの?」
「私が見た未来よりだいぶ前、タイムマシンができてすぐくらいの頃に呼ばれた、偉人第一号は坂本龍馬らしいわ」
「すごーい!」
「えっ…?でも龍馬って、最後近江屋で暗殺されちゃうじゃない?」
「その事実を龍馬に伝えれば、歴史が変わったかもしれないけど、残念ながらそれは法律上絶対やってはいけないみたい。
かつて、それをやろうとした大統領が暗殺された事もあったらしいわ」
「厳しいんだなぁ…」
「まあ…話を戻すけど、なんで彩花は女だけの世界になった過程を知りたがっているの?」
「知って、真似したいんじゃないの?後ろについてる答え見ながら算数ドリルやるみたいで楽じゃない?」
「じぃぃー」
「ゆ…ゆいなはやってないもん!友達だもん!それ!」
「そんな事する気はないし、させてもくれないでしょうけど…私が過程を知りたいのは、その‘結果’が無血で行われたかどうかなのよ」
「むけつ?」
「お尻?」
「ちーがーう!つまり、戦争なしで作られた歴史かどうかよ?」
「ほぁ…」
「なるほど…。彩花はマディソン達と、そういう話で揉めてるもんね…」
「戦争の末、生まれた結果なら…私は喜べないわ。戦争じゃなくても、例えば外交によって、
厳しい経済制裁を加えたから餓死者が出るとか…。人の命を犠牲にしてまで作られた歴史なんて…私は…」
「だから、貴女は甘いのよ…」
「わっ!ビックリしたぁ!」
「のぞみ…!」
「人はたくさんの命を犠牲に歴史を作ってきたわ…。でも、その多くは犠牲を出したくて出したんじゃない…。
仕方なく出したのよ…?自分の大切な人達を守るために…」
「それは言い訳だわ…。現代人はもっと賢いはずよ?きちんとルールを決めて、誰の一人の犠牲にならない社会を作っていけるはずだわ…」
「…それが行われるまでに、一体どれくらいの人が犠牲になるの?」
「……」
「彩花。貴女は偉人じゃないわ…。マディソンにいいように操られ、表舞台に立たされた人形…」
「……」
「マディソンや私には、その未来…仮に本当なら希望に溢れた話だわ。例え、どんなに犠牲を出しても、私達には歴史を作っていく覚悟がある…。」
「……」
「面白そうだから、今の話、マディソンに伝えておくわ…」
「冬木さん…」
「べぇぇだ!」
「何も…言い返せないわね…」
「でも…偉人として呼ばれたのは、マディソンじゃなくて彩花なんだよ!自信持ってよ!」
「…未来で呼ばれる偉人の条件は、もう一つあるの。それは、偉人が自分の作った歴史に後悔がないかどうか…」
「後悔?例えば?」
「明智光秀とかそうらしいわ」
「へぇ〜」
「主君の信長を裏切った事を後悔してたってわけ…?」
「あるいは、3日天下に終わってしまった事かもしれないわ。そういうのもリサーチで解ってくるらしいの」
「すご〜い…!」
「すぐ解る偉人もいれば、何100年とかかる偉人もいるらしいわ。ヒトラーなんて、あと1000年は解らないって言ってたわ」
「ヒトラーが…自分の作った歴史に後悔してた…?ドイツが負けたから?」
「焦点はもっと重い所よ。ユダヤ人の大虐殺とか。後悔していたにしろ、していないにしろ、その分析結果が苦しむ人が大勢出るのは間違いないでしょうから…」
「…未来も大変だな」
「彩花も大変」
「(マディソンがもし…歴史を作ったけど、後悔が理由で偉人として呼ばれないのだとしたら、それは…。ううん…もう、考えるのやめよ…」
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