◆第1部「天使と少女」 実は某所のPBWで語った話。 あっちは本当の吟遊詩人(本職は神父)でしたけど。 期間限定なのに人不足で潰れちゃいました。素敵な設定だったんですがもう1つ何かあると良かったかも? アドリブで打っていたので、話としては「何やねんそれ」です。 これをチャットで目撃したぞ、という方は連絡下さい。エセ神父でお返事しますから。 …でもイメージはSound Horizonです。「海の魔女」大好きなので。 知らない方はサーチどうぞ。『Chronicle 2nd』ってアルバムに入ってます。…今発売されてないんですがね(笑)。 第1巻―― 昔々ある所に、不治の病に冒された少女がいました。 少女はベッドで願い続けていました。いつかは他の子と同じように、外で走り回ることを。 しかし少女の病は悪くなる一方で、両親も毎日教会へ通い詰め、祈りを捧げました。 ある日少女を哀れに思った神は、1人の天使を少女の元へ送りました。 第2巻―― けれども人の姿を取って現れた天使を、少女の両親は追い払いました。 「私は天使だ」 そう述べた彼を、神々しい奇跡を信じていた両親は、自分達を騙す悪魔だと思ったのです。 怒った天使は、呪いの唄を歌いました。町中に響く禍々しい声音で。 …けれどもその中で、少女だけは違ったのです。 第3巻―― 「ごめんなさい天使様。でも、私には貴方の本当の唄が聞こえるのです」 呪いの唄にもがき苦しむ両親をベッドの中で見詰めながら、少女もまた歌いました。少女には分かっていたのです、彼が天使であると… 少女の歌声は小さくも、天使の元へ届いていました。 謝罪を繰り返す純粋な歌声に、天使は怒りを治めました。 第4巻―― 自らを恥じた天使は、新たな、本当の唄を歌いました。 それは少女を癒し、聞いた者全てを癒す聖なる唄。 少女の病は治り、両親は幸せに満ち溢れました。町中に笑顔が溢れ、皆天使に感謝しました。 ですが…天使は決して、その後人間の前に姿は見せなかったのです。 ――人か天使か… 裏切ったのはどちらで、信じたのはどちらだったのでしょうか…(おわり) |
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◆第2部「駅で待つ人」 これは次の話どうしよー、と考えていた時、ふと駅で待ち続ける人のことを思いついたところから始まりました。誰かを待つのって、切ないけど結構好きです。それだけ考えていられるしね。 でも書いている内に分からなくなり、少々こじ付けすぎたかな、という面もあります。特にラストは、ちょっと焦り気味。 どんどん文字が増えて、読み辛かったんじゃないかなーと思います。 世界観的には、近代イギリス系の産業革命時、郊外の駅をイメージ。 列車は蒸気機関車ですし、銃器もその頃の物です。私の中では。 断じて「鉄○員(ぽっ○や)」ではありません。あれもいい映画ですが。「忠○ハチ公」でもありませんし、無論「ハム輝」でもありません。 …しかしこの頃に爆弾があったのか今更不安。ダイナマイトっていつ出来たんだっけか…? …あれ、しかもなんで23巻で終わってるんだろう。 24巻は飛ばすつもりだったのか? 2部だけで20話にしようと思ったはずだったのにな… (一応連番になっています。繋がってませんが。これから繋がるのかもしれませんが。24巻は上記『Chronicle 2nd』に出て来る予言書の最後の巻でして、破滅を示すと勝手に思っているのでこんな様子です) 第5巻―― 昔々、ある所に駅がありました。 駅と言っても周りは一面の草原で、1本の線路を除いては何も無い、駅のホームと駅長さんの小さな家があるだけの場所でした。 そんな場所ですから、勿論やって来る列車も少なく、3日に一度ぐらいしか通りません。 ある日駅長さんがホームを見ると、ベンチに男の人が座っていました。 彼は、誰かを待っていました。 第6巻―― 彼は、駅で誰かを待っていました。 ずっとずっと、何日もそこに座っていました。列車が何本が通り過ぎ、その内何本かは駅に停まりましたが、誰も降りて来ないし、乗りません。 けれど彼は待ち続けていました。駅長さんは最初は何も言いませんでしたが、やがて心配になってきました。 彼はただベンチに座り、全く動かずに誰かを待っているのですから。 第7巻―― 「…誰を待っているのですか?」 ついにある日、駅長さんは彼に問いかけました。 ベンチに座る彼は、ゆっくりと駅長さんの顔を見ると、笑いました。少しだけ寂しそうな微笑みを浮かべると、答えたのです。 「さぁ、誰を待っているんだろう、僕は」 駅長さんは首を傾げました。彼はそれを見て続けます。 「忘れてしまったんだ。何を待っているのか」 第8巻―― 「そう、忘れてしまった。僕は何を待っているんだろう。誰を待っているんだろう」 彼は呟くように言います。駅長さんは何も言えません。 「僕が憶えてるのは、ただここで、何かを、誰かを待たなくちゃいけないってことなんだ。強制された訳じゃない、僕が待ちたいって思ってるんだ。 でも、何だろう。僕は誰を待っているんだろう、ここで」 第9巻―― 彼が分からないまま誰かを待ち続け、駅長さんが彼を見ながら駅員の仕事をし続けて暫くが経ちました。 ある日、草原の真ん中の駅に真っ黒で大きな列車が停まりました。 そこから下りて来たのは、軍服を来た軍人さんでした。軍人さんは緊張した顔の駅長さんに言いました。 「今日をもって、この駅と路線は軍のものとする。即刻この場を立ち去りなさい」と。 第10巻―― 「何ですって? 軍のものだなんて…」 駅長さんは驚き、軍人さんに言いました。 軍人さんはそんな駅長さんの方を見ずに、列車の中へ命令しました。 「駅長と、そこにいる客を列車に乗せろ。近場の民間用の駅で下ろす」 ドタバタと兵士さん達が下りて来て、駅長さんと、駅で待つ人を両脇から抱えて、列車に乗せようとしました。 「ちょっと待ってくれ!」 彼は叫びました。 第11巻―― 「ちょっと待ってくれ! 僕は、ここで待ち続けなきゃいけないんだ!」 駅で待つ人は叫びました。あまりの大声に、兵士さん達が思わず動きを止めました。彼は暴れながら軍人さんに言いました。 「僕は、ここで待たなきゃいけない。この駅で待たなきゃいけないんだ! どこにも行っちゃいけない、僕は、僕は――!」 彼は必死でしたが、何を待っているのか訊かれたらどうしよう、と思いました。それは彼自身も分からないからです。 けれど軍人さんは、彼には何も言いませんでした。 「………撃て」 兵隊さんに、そう静かに命令しただけでした。 第12巻―― 「………撃て」 軍人さんに命令され、兵隊さんはジャキリと銃口を上げ、彼に狙いを定めました。 それは一瞬の出来事でした。辺りに何も無い駅に、ドンッ!と大きな銃声が響き渡りました。 「なんで…っ!」 彼は今にも泣きそうになりながら叫びました。いつも綺麗なホームにパタパタと血が落ちて、やがてドサリと音がしました。 彼と軍人さんと兵隊さんの真ん中で、駅長さんが倒れていました。 第13巻―― 彼は兵士達の腕を振り払うと、駅長さんの傍に座りました。 「どうしてあなたが…あなたが撃たれなきゃいけないんだ…っ」 彼は泣きながら言って、駅長さんの手を握ります。けれど駅長さんは、笑っていました。 「なぜって…当たり前でしょう? お客さんを守るのが、駅長の仕事です…おケガはありませんか? それなら良かった…」 駅長さんは、本当にホッとしたようでした。そして彼の手を弱々しく握り返すと、言いました。 「会えると、いいですね…あなたの待ち望んだ人に。 大丈夫、きっと会えますよ…だってここは………」 第14巻―― 「だってここは………駅なのですから」 そう言った駅長さんの眼には、小さな駅の小さなホームに、たくさんの人が訪れているところが見えていました。駅の周りには建物が並び、ひっきりなしに列車が入って来ます。 待っている人の元へ行くために列車に乗る人、列車に乗って帰って来る人のために待つ人、大勢がひしめき合っていました。 昔、この小さな駅は実際にそんな風に大きかったのです。 「ああ、そう言えば私も、待たせている人がいました…そろそろそこへ行かなければ。待ち人もあなたで最後の1人、私の役目も終わりです…」 第15巻―― 「役目…? 駅長さんの役目って、何ですか…?」 彼は涙を拭って問いかけました。 いつしかホームには、彼と、多くの軍隊の人のみになっていました。 「駅長の役目など、他愛無いものです。見守り、見送る…それだけですよ」 けれど駅長さんはそんな小さな駅を見て、そっと笑いました。とても嬉しそうな笑顔でした。そして彼に何かを手渡すと、ゆっくり眼を閉じました。 「駅長さん…?」 彼が呼びかけても返事は返って来ません。 何度呼んでも、駅長さんはもう、天国で待っている大切な人達の元へ旅立ってしまったのでした。 第16巻―― 彼は、待っていました。駅長さんが返事をしてくれるのを、駅長さんのなきがらを抱えて待っていました。 けれども彼には、もっと別の、待つべき大切なモノがありました。 「…民間人風情が、面倒なことになったな…おい、死体とこの男を列車へ運べ。大分時間を無駄にした。急げよ」 彼の傍で、軍人さんは兵隊さんに命令しました。 俯いてしゃがんでいる彼の手から、駅長さんが連れて行かれました。 同じように兵士達は彼も運ぼうとしましたが、それは出来ませんでした。彼は待っていたのです。 第17巻―― 「早く来い! さっさとここを動け!」 「嫌だ…僕は、ようやく思い出した。僕の待っていたモノ。僕の、大切な大切なモノ…」 彼がそう言うと同時に、彼を掴んでいた兵隊さんが後ろに吹き飛ばされました。取り押さえようとしたもう1人も、同じように吹き飛び、転びます。 彼はいつの間にか、最初の兵隊さんから奪った銃を持っていました。 「僕は、僕を見てくれる人を待っていた。僕を見守り、見送ってくれる人を待っていた。待っている内に、何を待っていたんだか忘れてしまった僕の待っていた人は、すぐ傍にいたんだ」 第18巻―― 「僕が待っていたのは………駅長さん、その人だったんだ」 彼は銃を振り回し、兵士達の悲鳴がそれに続きました。軍人さんが大声を上げ、彼を止めるよう命じます。 けれど彼は、暴れながら次々に兵士達を列車へ追い返していきます。 「駅長さんは、僕のことを待っていてくれた。僕が思い出すのを待っていてくれた! 僕はちょっとだけ遅かった…だから駅長さんのためになることをしなきゃ」 そう言って彼は、今まで隠していた、最後に駅長さんに貰った物を兵士達に見せました。 「軍の手に渡るぐらいなら………こんな駅、壊してやる」 第19巻―― 彼の手に握られていたのは、黒い丸い物――爆弾でした。 決心したような眼を見て、兵士達は慌てて列車へ、押し合いへし合いしながら飛び込んでいきます。 「何をふざけたことを…ここはその駅長が愛した駅なのだろうが!」 「これは駅長さんの望みでもある。この爆弾は、駅長さんに貰ったんだからね。 …本気だよ。今すぐこの駅から立ち去れ。そしてもう二度とこの線路を通るな。そうじゃなかったら、駅ごと列車も爆発させる」 第20巻―― 彼の言葉に、遂には軍人さんも大げさに怖がりながら列車へ逃げ込みました。すぐに汽笛が鳴って、列車は線路の向こうへ走り去って行きます。 「こんなちっぽけな駅に、何が残ると言うんだ! 今度は待ったって無駄だぞ! そこには何も無いんだからな!」 窓の外から身を乗り出した軍人さんが負け惜しみを叫んでも、彼はどうとも思いませんでした。 ただいつものベンチに座って、大きく大きく溜息をつきました。そして手の中にある黒い物を見て、少し笑いました。 第21巻―― 「こんな小さな駅の駅長が、爆弾なんて持ってるはずないのに…臆病な人達だ」 彼の手の中にあるのは、よくよく見ると爆弾などではありませんでした。 駅長さんが暇を潰す時に使う、ただのボールだったのです。彼は立ち上がると、それをホームの向こうへ投げました。ボールは大きく弧を描き、どこかへ飛んで行きました。 第22巻―― 彼が振り返ると、そこにはかつてのように賑わう駅が一瞬だけ見えました。改札に立つ駅長さん、旅の期待に心を躍らせるお客さん、待っていた人と出会い、抱き合って喜ぶ人達。 小さな駅の大きな喜びを見て笑ってから、彼はまたベンチへ腰を下ろし、ぼんやりと空を見上げました。 『………お待たせ』 そんな小さな呟きが、風に流れて行きました。 「まだだよ」 彼は眼を閉じてそう答えました。 第23巻―― 昔々、ある所に駅がありました。 駅と言っても周りは一面の草原で、草に埋もれた1本の線路を除いては何も無い、崩れかけた駅のホームと、壊れかけた小さな小屋があるだけの場所でした。 そこは駅長さんのいない駅でした。お客さんもいない駅でした。 ただホームにぽつねんとベンチが残され、誰かを待っているようでした。列車が走らなくなっても、待つ人がいなくなっても、駅はずっと夢見ています。 ――「ようやく会えたね」 そう言って笑ってくれる、誰かが来るのを待っています。(おわり) |
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